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第43話 わたしと一緒に行きませんか?

「お姉ちゃん? アタシほんと急がないとなんだけど……」

「それでもです……! どうして受付嬢をしているのかを、その経緯を知りたいんです……!」

「ッ!? 経……緯」


 メルはアリスが放ったこの"経緯"という発言に、言葉を詰まらせる。メルはその言葉を理解しているのだろうか? 理解していたとしたら正しく語るはずだ。

 だけど、彼女は凍り付いたように固まり動かなくなる。答えを探すのに時間がかかってるようだ。そして、4分ほど経った時。


「お姉ちゃん。ごめん。今は経緯については話せない」

「どうして……!」

「それも……言えない。アタシわからないの。このスターで何も知らないまま育って、何も知らないまま看板娘にされて、アタシは……ただの"道具"なんだよ!」

「メル……」


 この展開どこかで見たことがある。でも、俺もなぜか思い出せない。どんな物語だったっけ? それすら当てはまるものがない。だけど、そんなメルの必死さはまるで焦っているように見えた。

 スターという檻の中しか知らない。ここで生きるしかない。それでもアリスと一緒にいたい。

 それなら、アリスと一緒にスターに残ればいい。だけど、それは彼女のわがままでしかない。俺たちはこの会話には介入できそうになかった。

 これはアリスとメルだけの問題だ。俺たちが邪魔したら余計なお世話になってややこしさが倍増してしまう。

 そんな状況でもケイの瞳は優しさを維持していた。ソファの取り合いで騒いでいたバレンさんとフォルテさんもすっかり落ち着いて、2人の少女に視線を向けている。


「メル。あなたの気持ちはよくわかる。わたしとスターにいたいって、気持ち……」

「え……」

「でも、わたしはメルにも広い世界を見てほしい。こんな毎日同じような風景なんて、とてもつまらないもの……!」


(よく言ったアリス)


 アリスの誰にも負けないくらい想いがこもったセリフに、メルは再び黙り込む。彼女もずっと迷っていたのだろう。

 そんな彼女は黙り込んで1分後にこめかみの横――多分その辺をぐるぐる指で回し答えを探し始めた。


「アタシが一生受付嬢をやる必要がないってこと?」

「そう……! メル。わたしと一緒に旅をしませんか?」

「――いい……の? お姉ちゃんを信じて、いい……の?」

「はい……! わたしがお世話になってる仲間は、メルを裏切ったりしません……! 道具にもしません。メルの……。あなたの思いを、感情を、めいっぱい解き放てる場所として、きっと迎え入れてくれる。だから、一緒に行きませんか? メル!」


 アリスの言葉がどんどん強くなっている。ここまで押しが強いとメルの反応も一つに絞られる。メルの考える時間がアリスが語り掛ける度に長くなっていく。

 誰かが部屋の窓を開ける。建付けが悪いのかギギギと軋む音が、メルが非常に悩んでスムーズに返答できない状況を表しているように聞こえ。そして、吹き付ける風はアリスの願いよ届けというかのように……。切り出すかを考える。この展開からやはりメルの本音か? それとも、アリスのもう一押しか。しかし、アリスはこれ以上言う様子がない。

 ケイも様子を見守るだけ。俺もどうしていいのかわからず、不安が募るばかり。しかし、ここには空気を読めない性格の人が一名いた。


「メルだったか?」

「バレンさん? なんでしょうか」

「オマエは本当にアリスといたいんだろ? 俺も同じ思いをしたことがある。兄がいるからな。けど俺は、兄と別れてこっちの世界に来た。結局は自分で未来で決めるんだ」

「じぶんで未来を……」

「俺はこの選択に悔いなんかない。ま、会いたいって気持ちはあっからな」

「――……」


 バレンさんも優しいところがあるのか。俺にはものすごく突っ込んでくる人だが、なんか新しい一面が見れたような気がした。

 メルもこのアドバイスに決心がついたようで、自分からアリスのもとへ歩いていく。そして、アリスの右手を握ると。


「お姉ちゃんもアタシと一緒にいたい?」

「もちろんです……」

「それなら、アタシ。スターを出るよ。お姉ちゃんを信じる。もっとお姉ちゃんのこと知りたい。お姉ちゃんが見てきた世界を一緒に見たい」

「それじゃ、決まりだね」

「ケイ?」「ケイさん?」


 ケイは手を叩きながら2人の少女の所へ歩いていく。その行動にフォルテさんが便乗し、バレンさんが便乗し。部屋中のパチパチという音が反響した。


「ようこそ、アーサーラウンダーへメルさん」

「アリスも説得上手かったぞ! オレが褒めてやる」


 メルを歓迎するケイ。アリスを称えるフォルテさん。俺もこれに続くべきか? でも、そんなこと俺にできるはずがない。そう、頭にもやもやを浮べてた時だった。突然誰かが背中を叩いてくる。それも一人じゃない。

 振り向くと俺の後ろにはいつの間にかバレンさんとヤマトがいた。状況を掴めていない中、2人は顔を見合わせと同時に強く押してくる。

 俺は前に足をつんのめらせて、アリスとメルにぶつかりそうになった。


「か、カケルさん大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……」

「そんな風には見えないです……!」

「メル。アリス。心配してくれてありがとう。あとメル、これからはよろしく」

「はいっ!! よろしくお願いします! カケルさん。皆さん!」

応援よろしくお願いします!!!!!!!!


ビースト豆知識


宮鳥景斗

22歳(7月20日生まれ)

サークル:ゲーム研究部(高校時代から所属)

特技:料理

趣味:ゲームと読書

好きなもの:フォルテが作る餡掛けオムライス

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