第38話 スターで迷子②
「フォルテさん!! フォルテさんいつまで飲んでるんですか?」
「ん? んーと。まだ」
俺が止めようとしても止まらない。この熊はまるではちみつの入った瓶を抱えて舐めまわしているんじゃないか? というくらい、酒樽に顔を突っ込んで飲んでるフォルテさん。
気が付けば店の酒樽の大半を飲み干していた。彼が言うにはアルコール設定――酔いデバフ付きの――ビールテイストアイテムだそうで、通常なら酔い状態になるらしい。
その状態になると眩暈や脳への刺激がダイブギアによって反映されるようで、まっすぐ歩けなくなるという。もちろんたかがゲームと思ってもしっかり年齢制限は設けられている。
つまり、俺はまだ未成年なのでアルコール設定付きは飲めないというわけだ。そもそも、俺の親はお酒やたばこは身体に悪いからと無縁の生活をしている。
たしかにその通りだ。俺も親に従うタイプだからかフォルテさんほど美味しそうにお酒――疑似的なものではあるけれど飲んでいる姿を見るのは久しぶり。
なぜ久しぶりかというと長くなってしまうが、俺の父親の母親。つまり、俺のおばあちゃんがお酒好きで、週末に必ず飲む人だった。でも、すぐ酔ってしまうので今現在は制限中……らしい。
今に戻して、フォルテさんの場合は酔いエフェクトは出てるものの全くの普通だった。樽をいくつ飲んでもマイナス効果通用せず。
それどころか、同じことが繰り返し続いているのでいい加減やめてもらいたい。
「そんなに飲んで千鳥足にならないんですか?」
「ん? あ、ああ。まだ少ない方だしな」
「に、20樽ですよ!? それでも少ない方なんですか?」
「少ないな……。最高一日で1000だったはずだ」
(それってビールジョッキ計算?)
「だと思っただろ? 普通に特大酒樽だ」
(その普通……普通じゃないんだけど)
ということはそれだけ飲んでも酔わない飲兵衛さんってことになる。俺のおばあちゃんの何十倍も飲んで正気でいられるのは、まさに異常という言葉が似合っていた。
ここはフォルテさんが満足するまで待つか……。俺はやっと意識がはっきりしたらしいアリスに彼の様子を見守るように伝えて、店の外に出る。
と、ここで気づいたことがあった。外がかなり明るくなっていたのだ。メニューを開いて時間を見ると、現在時刻の所に"AM7:58"と表示されている。
ケイの家に一晩泊まってしまったらしい。日付も変わっていて1月19日になっていた。
俺は再び建物の屋上に飛び乗る。鮮明に見えたものの、少ない街灯で暗かったスターの街並みはゲーム内の陽射しに照らされより一層見通しがよくなった。
「さて、俺は案内所を探しますかね……」
俺は建物から建物へと飛び移り、スターの詳細マップを完成させていく。1点――一番端の角から、もう片方の方までは約40キロから50キロ程だろうか?
この街が本当に動いてるとは思えない。なのに地面ががたがたと震えてる感じ。どこかがおかしいそう思った時だった。
――まもなくこの街は第4の街"パイングラス"付近まで移動します。街を歩いている方は今すぐ近くの建物に入るか、手すりにおつかまりください。
突然のゲーム内アナウンス。だけど、今俺の近くには掴まるところがない。ここはタイミングよく建物を移動するしかないのか?
でもそんなことをしていたら一向に目的地に着かない。いや、やって、いる価値はもしかしたらゼロではない……かもしれない。 だんだんスターの街全体が浮き上がってきて、風景が流れ始めた。移動が開始されたようで激しい振動が全身を駆け抜ける。
足元がおぼつかない、この街はどんな速度でいどうしているのだろうか? 街並みは変わらない……、変わら……。
(いや、配置が違う!)
ここに最初登った時には周囲はカラフルな街だった。しかし、今見たらどうだ全体的に目が痛くなるような純白の建物が一か所にまとまっていた。
俺はマップを見るがどこも変わった様子はない。むしろ敷地が大きくなってるくらいだ。ということは、この街は自然と成長する設計になってるのか?
さらには狭かった道が幅80メートルほどにまで広くなっている。最初は25メートルだったので55メートル広がったようだ。
これならフォルテさんも歩きやすいだろう。いや待てフォルテさんとアリスがいた建物はどこだっただろうか? 改めてマップを見るがなんてことか……。マップピンを付けておくのを忘れてしまっていた。
俺はお酒の匂いはおばあちゃんの家にいる時しか嗅がないので、そこまで鼻は利かない。
きっとまだフォルテさんは飲んでいるのだろう。移動する前と同じ配置になることを願って、拠点確保を優先する。
「まずは動く可能性の低い中心部を探してみるか……」
そう、動き出そうとした時――。
『――そこのお兄ちゃん。アタシのお姉ちゃん見ませんでしたか? "アリス"って名前なんだけど……』
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