第37話 スターで迷子①
俺たちは現地でアンデスの通行許可証を、スター行きと第4の街の通行許可証に交換してもらったあと、外周がきになるらしいアリスを先頭に歩いていた。
予想をはるかに超えるほど広大な敷地なようで、最終的に歩き疲れたらしい彼女はフォルテさんにおんぶされて、1時間半かけて入口に戻ってきた。
坂東先輩が言ってた通り、スターは尖った5点とへこんだ部分のある形状で、入口は三角形にも見えるものだった。これが星型の街。なんか中も入り組んでそうだ。
「すーーぴーーー……」
「アリス寝ちゃいましたね」
「だな……」
「俺たちは案内所を探すわけだけど。先輩は案内所の場所を教えてくれなかったんですよね」
そう、俺はスターの形は知っていても、建物の配置は知らない。だから自分の足で探さないといけない。ここにはプレイヤーはほとんどいなくて、みんな亜人種だった。
中には、アリスと同じホワイトゴブリンもいる。しかし、それ以上に魚人種が多く感じた。ここの案内所の受付嬢ももしかしたら魚人種かもしれない。
両腕にヒレのようなものを振袖でも振ってるかのようにフリフリさせてて、日本人風貌にも見える。とかいう俺も日本人だが……。
「それにしても、とんがってる部分あっからさ、狭いっていうか……。窮屈っていうか……」
「そう、ですか? 俺はそう感じないですけど……」
「いや、違うんだ。気にしないでくれ」
こんな時。フォルテさんの気分を良くする方法はあるだろうか? やっぱりお酒とか? でも、それならビアガーデン施設を探す必要がある。
このゲームにビアガーデンはあるのかはわからない。そもそも、ビアガーデンに行ったことがない。
「フォルテさん大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
表情がだんだん暗くなっていくフォルテさん。少しずつ身体が震えだしている。本当に大丈夫なのだろうか、とても心配だ。
俺はできるだけ早くビアガーデンor案内所を見つけ出すため街を何周もする。だけど、どこもかしこも行き止まりで、中心部に行けそうな気がしない。
こうなったら、ビーストモード特大ジャンプで建物の上に行くか……。でも、それだとフォルテさんたちを追いいくことになるし。
やっぱり早く探した方がいい。少しでも彼にとっての安息の場を……。
「カケル。まだ見つからないのか?」
「は、はい……。たしかに俺なら上空を移動して先に移動できるけど、通信魔法が使えないから」
「なら、こっちから接続する。カケルは上から指示してくれ」
「わかりました」
だんだん今の話し方にも慣れてきた。だけどアリスの前ではため口でいたい。俺はビーストモードに切り替えて垂直跳びを実行。一瞬で建物の上に着地する。
この状態になるのは今日はここまでにしよう。解除後遠くまで眺めるとその配置が鮮明に見えた。この街は建物が互い違いに建っていて、とてもわかりづらい。
すると、脳裏に待ちわびていた彼の声が響き渡る。
「よし。これでいいか?」
「はい。ありがとうございます。フォルテさん」
「狭いの苦手だから早めに言ってくれよ」
「ラジャー」
俺はできるだけ近場の建物に飛び移る。そこから地面を覗いて迷路のような場所の抜け道を洗い出す。
その都度、フォルテさんに指差しと言葉で伝える。だんだん中心部に近づいてきた。なんか、コマンドゲームみたいで少し嫌だけど。
「カケル。次はどっちだ?」
「えーと、次の突き当りを右に」
「おけ」
フォルテさんがものすごく小さく見える。駒を動かすのは俺の役割。口調も含めガラッとキャラ変した俺だが、なんか今の方が素が出てる気がする。
弟の前でこんな話し方をしたら笑われるだろうか? それとも喜ばれるだろうか。俺はそんなもやもやを抑え込みながら、街の内側へ内側へと向かっていく。
だけど、右に左に真っすぐ前へ飛べない。どうしてこんな配置なのかわからないが、それ以上に迷いそうだ。それも、入口が埋め込み式なのでどこがなんの建物なのかわからない。
ここは俺の方からもフォルテさんに情報提供してもらおう。よく澄まして聞くと、まだアリスの寝息が聞こえる。これで通信迷うが切れてないことを確認すると、早速連絡する。
「フォルテさん。近くに店とかありますか?」
「ん? んんんんん。ん!?」
「フォルテさん?」
「なんか酒の匂いがするんだが……」
「ということは、すぐ近くにビアガーデンが!?」
「いや、普通のビールの匂いだけだ。ワインテイストのはなさそうだな」
(じゃ、この近くに何が……)
ここはフォルテさんの嗅覚に任せてみた方が早い気がした。一旦地上に降りるが、そうしているうちにもフォルテさんはずんずんと進み、とある建物の前で止まった。
「匂いはここからだな」
「ほんと、フォルテさんはお酒が好きなんですね」
「まあな。ま、リアルのお酒は度数が低すぎて、日本酒以外は全部水だけどな!」
「あ、あはは」
(どう反応すればいいんだか……)
お酒の話になっただけで、完全に元気を取り戻したフォルテさん。その大声にアリスが目を覚ました。なんか申し訳ない。これでは俺の二の舞だ。
「店員さん。ビールアルコール設定ありのやつあるだけ頼む」
『あるだけですか!? 今酒樽が全部でひぃーふぅーみぃー――』
「じゃ、じゃあ……。その3樽だけでいいから、頼む」
どれだけお酒が飲みたかったのか。フォルテさんは店の奥まで入って、寝ぼけてるアリスを座らせると、酒樽を持ち上げてがぶ飲みし始めた。
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