第32話 雷神フォルテ
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フォルテさんは言った。魔法を使わないで雷を落とすと。俺にはわかる、きっと紋章がそれを顕現させるキーなのだろう。
俺はセミの大群にまみれて拳をぶつける。だけど、脆弱なはずのセミの殻は予想をはるかに超えるくらいに硬かった。
中心の柔らかい部位を狙っても弾かれる。こんな虫は巨大カブトムシ以来、といっても昨日の話ではあるけれど。
まずこのセミはサイズが現実の ものと大きく違う。もし現実と同じ大きさだったら踏みつぶしただけで殺せる。
しかし、ビースト・オンラインでのセミは一回りも二回りも大きい。体長60センチから70センチくらいだろうか。
ビッグサイズのムカデやミミズ、ニシキヘビくらいの大きさといえば、わかる人もわかると思う。
「カケル!! こっち準備できたよ!!」
「アリスありがとう。これでアリスの魔力も枯渇しないで済む」
「バンバン火球を飛ばすから任せて!!」
すると早速アリスは膨大な数の魔法陣を生成。彼女の魔法陣を見るのは"サーマルエクスプロージョン"を見たときくらい。
あんなに大きな火炎攻撃は見たことなかった。そして今回も火属性魔法。アリスは溜めに溜めて、タイミングを計る。
対してフォルテさんは何やら紋章をジロジロ見て立ち尽くしている。そこへ数十匹ほどのセミが接近していた。
このままではフォルテさんがゲームオーバーになってしまう。しかし、それはセミの群れで彼の姿が見えなくなった時だった。セミが一斉に痙攣を起こしたのだ。
彼はというと動いている様子がない。一歩も動かずにセミを戦闘不能にさせた。彼の紋章の名称は一体?
俺は自分の手が止まってることに気が付いた。その時には魚群のように塊になる虫たちが、俺の周囲を囲んでいた。この状況ではむやみに行動できない。
少し、ほんの少しだけ焦ってしまいそうな気がした。ゲームなのに恐怖の冷や汗が流れ出てしまいそうだ。
一匹ずつしかダメージを与えられない俺。この状況をどう打開するかを見出そうとしても、ネガティブな感情が邪魔をする。
「攻撃準備完了!! ミレニアムフレアバーン!!」
「ッ!?」
姿を目視できないアリスの声が平原にこだまする。直後俺の周辺が爆発した。俺にはダメージが入っていない。
ダメージを受けたのはセミだけで、ボーボーと炎をまとって燃えていた。見ているだけで残酷な光景。
命を大事にする人が見ればとてつもなく悲惨は場面。けれども、俺が一番気になったのは、アリスが使用した魔法だった。
「アリスその魔法は?」
「フォルテから教わったの」
「いつ?」
「ついさっきだよ。通信魔法で伝授してもらったんだー」
ちゃっかりしてる。というよりも、アーサーラウンダーのメンバーはみな通信魔法を使用できるらしい。
できないのは魔法と縁がない俺とヤマトだけ。でも、その方が内緒話も楽かもしれない。後で結人さんに聞いてみるとしよう。きっと関係があるのかもしれない。
セミによる拘束が解け、自由を取り戻した俺は次の指示を考える。
指示を考えたとしてもアリスは俺の考えを悟ってくれるし、フォルテさんは単独でも強い。まるで俺の出番が一つもないように。
でもそれでいい。ケイが俺に副リーダーを頼んだのは、スターで拠点を作るためだけのもの。
ケイから聞いた話では、ギルドは各街に規模に応じた拠点を作ることができる。ロゼッタヴィレッジがそれを利用してアンデスを占領した。
「カケル大丈夫か?」
「大丈夫です!! フォルテさん」
俺が足を引っ張っている。現状を理解できない。セミのボスらしき一番大きなエネミーが、耳をつんざくような羽音を響かせる。
俺は思わず顔を伏せて耳を押さえた。しかし、機能しているのはてっぺんにある長耳。真横を押さえても嫌な音が脳を混乱させる。
五感も動物と同じになってるとは思わなかった。聴覚を失いそうな音に俺は発狂をこらえ倒れ込むと、突然羽音が消える。
ゆっくり顔を上げると、帯電状態のフォルテがいた。身体全体に電磁波のようなエフェクトを放ち、俺の近くへとやってきた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫……じゃなかったです……。ありがとう……」
俺は起き上がるためにフォルテさんの手に触れようとする。しかし、彼は受け取ってくれなかった。
「今のオレには触れない方がいいぜ?」
「え?」
「なぜなら、お前が感電するからだ。この状態が一番気持ちいいんだよなぁ……。結人のやつがオレの能力を完全再現してくれたからさ」
完全再現? いったいなんの事やら。もしかして、フォルテさんもリアゼノン事件の関係者なのもしれない。
今度フォルテさんの名前を探してみよう。俺はいくらか静かになったフィールドで、メモ帳を開く。
俺のメモ帳はスマホとも共有されているポップアップ式の簡易版。忘れがちなことはここに書いている。
「さて、アリスは満足したか?」
「はいっ!! ありがとうございます。フォルテ!!」
「よかった。んじゃカケル、スターまで案内してくれ」
「わかった。けど……」
いつまで帯電状態が続くのだろうか? フォルテさんの身体が煌々と光り、一帯を明るく照らしている。まだ夜深い中、ここまで明るいと目が痛くなる。
「フォルテさん。いつまでその状態でいる気なんですか?」
「んとな――」
「?」
「――満足するまで」
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そして、エピソードページ下部に、私の友人である佐々木サイさんの作品リンクを掲載中!!!!!!!!
頭の回転が早い(謎)レオルド君の活躍もぜひ見て行ってください!!!!!




