第31話 スターへ向かう途中で
「ところでカケル。お前どうやってそんな作戦を思いついたんだ?」
フォルテさんが俺に問いかける。
「それなんだけど、アンデスの案内所に行った時、受付嬢が街の建物がロゼッタヴィレッジに占領されてるっていっててさ。それと逆のことをすればいいんじゃないかな? って。ちなみにこれは事前にチャットでケイに伝えていたから、副リーダーの権利は俺持ってる」
「つまり、あれはケイの演技だったってことか……」
なんか居心地悪い。ここまで話しやすいようで話しづらい人はあまりいないかもしれない。
「ケイのあれ、演技だったんだ……」
「アリスも気になってたのか?」
「うん。だって、りーだーってケイでしょ。それなら、決めるのはケイだもん。わたし昔にお父様に教えてもらったの。わたしの集落ではお父様が指示を出していたから、みんなその通りに動いてた」
AI間での学習も違和感というか、今まで俺が遊んできたゲームのAIよりもしっかりしている。人工知能が普及した時はかなり誤認識が多かったらしい。今では医療まで全部AI任せ。誤診も改善しつつある一方、本職の医師も看護師側につくほど。
そんな中でも彼女は全部の職業にも就けるかもしれない。勝手な想像だが幼稚園の先生くらいならできると思う。話が逸れたので戻すと、今はアンデスから見て西側の道を歩いている。
他ギルドや他プレイヤーの気配はない。もちろん昆虫の気配もない。完全に俺たち3人だけ。ここからスターまではかなり長い。だけど、疲れるのはアリスくらいかもしれない。
「なんか、つまらない」
「アリス?」
「だって、昆虫いないし。月明りが弱すぎて前見づらいし」
「たしかに」
相当退屈しているらしいアリス。俺もフォルテさんも頭を抱える。といっても、フォルテさんはいまだ熊の姿なので、表情から感情を汲み取ることができないが……。
「アリス。ちょっと降りてくれ」
「フォルテどうしたの?」
「敵と戦いたいんだろ? オレなら場所を特定できる」
「ほんと?」
「おうよ!」
そんな言葉にアリスが従う。少ししてフォルフォルテさんがビーストモードを解除。と同時に彼の右手甲が青白く光った。それからしばらくして一周回ると、スターのある道からすこし外れた方向だった。
ちょっと寄り道するのもいいかもしれない。ただ、それでも急がないといけないのはわかってる。だけど、最初の目的として昆虫狩りを提案した。アリスもその気でいる。
「カケル、アリス。2人ともオレに乗ってくれ。できればカケルはビーストモードで」
「「了解」」
俺はビーストモードを発動し野うさぎの姿になる。それをアリスが抱えると、同じくビーストモードを発動したフォルテさんの背中に乗った。のっそのっそと走り出したフォルテさんは、どんどん速度を上げていく。
アリスに協力してもらって地面の方を確認すると、フォルテさんの瞳が緑色になっていた。紋章を使用すると目の色が変わるのは共通みたいだ。
「フォルテ。あとどれくらいで着きそう?」
「約2分だな」
「そんなに早く着くんですか?」
「なに驚いているんだよカケル。こっちの方が圧倒的に早いんだ」
「それは俺も一緒ですけど……。熊だから一歩が大きいのかな?」
「そうかもな」
ここは普段の口調よりも敬語に近い形で話した方がいいと思い、話し方を変えてみた。アリスは気づいたみたいだが、フォルテさんは違和感を感じたようだった。でも、詮索はしないタイプらしい。
「もうすぐ着くぞ!! 戦闘に入れるように準備してくれ!!!」
「えーーと、本気で言ってるんですか?」
「本気だが……」
「俺、ボクシンググローブ装備してない状態でビーストモード発動したので、ちょっと時間かかるかもです」
「そうか、なら昆虫全体に雷でも落としてやるか……」
「え?」
「ちなみに、魔法じゃないからな!」
魔法ではないもので雷を落とす? 何を言っているのかさっぱりわからない。それでも見てみたい。どんな感じに雷を生み出すのかを……。
このギルドは理解できない。しかし理解しようと思えば思うほどたくさん増えていく知りたいこと。全部消化するにはかなりの時間を使うことになるかもしれない。
これまでに起こった出来事。その全てを俺が解読する。そう考えてた時だった。どこからか『ジジジジジ』という、セミの羽音が聞こえてきた。
俺はビーストモードを解除して人型アバターに戻し、ボクシンググローブを装備する。
「そうだアリス」
「何フォルテ?」
「オレが魔法のコツ教えてやろうか?」
「いいの?」
「もちろんだ」
フォルテさんは優しい。俺もこんな人になれたなら。そうしている間に、大量のセミ軍団がやってきた。
俺たちは戦闘態勢を整えると、フォルテさんの先制攻撃でバトルが始まる。
「カケルはアリスの支援を」
「了解です」
アリスのところへ行く。アリスが魔法を唱える。数多の火球がセミを襲う。流れ弾がフォルテさんに当たる。狙いが定まっていない。
なのにフォルテさんは、自身のヒットポイントを気にしていない様子。さすがすぎる。どこからそんなメンタルが。
「そろそろ仕上げと行きますか……」
フォルテさんが呟くと、手の甲の紋章が黄色く光った。これから何が起こるのだろうか?
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