第30話 先回り作戦
「ご、ごめんって、急にどうしたんだアリス」
「だって、わたし。みんなに……」
きっと、アリスは変に目立って迷惑をかけたことに落ち込んでいるのだろう。俺は彼女の小さな背中をさする。グスンと鼻を鳴らして泣く姿は、人と同じ。しっかりした感情を持っているようだ。
小刻みに震える身体。ケイもフォルテさんも一緒になってアリスを慰める。しかし、バレンさんはそっぽを向いて、興味なさげな表情をした。ヤマトは逆に見守る一方。まとまりがあるとしたら一部の人だけだ。
俺もあまり協調性を求めるタイプじゃないが、アリスを放っておけない。そう思うようになってから過保護になりつつある。
ケイも同じようで彼女のことを注視するようになっているのかもしれない。だけど、今になっても俺と彼女を認めていないバレンさんがいる以上、安泰のギルドにはならなそうだ。
「アリスは悪くないよ。僕たちが見つけるのが遅かった。もっと早くわかっていればこうなならなかったと僕は思う」
「そうだ、自分を責める必要はない。だけど……」
「カケル?」
「実はというとケイ。昨日俺がアリスに案内所の外に出ないでくれって言ったんだ。もしかしたらそれを破ったことに反省しているのかもしれない」
俺の言葉に納得したらしいケイは少し考え込む。俺だってアリスを自由に行動させたい。だけど、もともとアリスは敵キャラ的な扱いを受けてきた裏キャラ。他プレイヤーから狙われる身だ。
リーダーのケイはどう考えるのか? それが今後にかかっている。
「なるほどね……。僕もカケルと同意見かな? やっぱり野放しにして危険にさらすことはできない」
「そうだよな」
「けど……」
「ん?」
ケイが言葉に詰まる。かなり難儀しているのだろう。リーダーだからこそ、メンバーの自由をできるだけ尊重したい。でも、ホワイトゴブリンのアリスが一人で歩くのは不自然すぎる。今日みたいに注目されて、逃げ場を失う可能性もある。
「よし、こうなったらみんなで昆虫狩りでもしよう」
「わたし賛成!!」
昆虫狩りと聞いてケロッと泣き止んだアリス。まだまだ子供というか、泣き止むトリガーが昆虫狩りというのがちょっと変わっている。やっぱり身体を動かすことが好きなのかもしれない。
でもゲームをプレイをしている身としては、フルダイブゲームは運動にはならない。そうケイが言っていた。非常に当てはまってることなので、何も言えない。
そんな俺たちは案内所を出るとアリスを隠すような配置で歩きアンデスの外に出た。昨日もそうだったが、昆虫は何者かに狩られていて羽音すら聞こえてこない。
これではまたアリスの機嫌が悪くなってしまう。どうにかして昆虫を見つけてバトルに持ち込まないと。なのに、肝心な彼女は何かを悟ったそように止まった。
「カケル。本当の目的あるんでしょ?」
「それってどういう意味?」
「わたしをアンデスの外に出した理由」
みんなの視線が俺の方に集まる。俺が昆虫狩りしてリフレッシュしようと言ったのは事実。だけど、見つからないのも原因があるんだとしたら、ロゼッタヴィレッジの仕業かもしれない。
「本当のことを言う。リーダーではない俺が仕切るのはちょっと違うだろうけど、今から第3の街スターに行こうと思う」
「カケルそれって」
ケイが俺の発言に疑問を持った。メンバーの身勝手な行動は俺以外にも出てくると思うが、これは戦略としての提案。
「ロゼッタヴィレッジがスターの拠点建造物を占領する前に先回りして、全部を俺たちの拠点にする。そして、その拠点をロゼッタヴィレッジ以外のギルドに貸すんだ」
「なるほど……」
「ケイ、この案どうだ?」
「たまには僕もメンバーに従ってみようかな? アンデスに来たばかりだけどいつでも戻ってこれるし」
スターのある場所は攻略サイトで調査済み。ケイにはソルダムのマップを提供してくれた。今度はそのお返しがしたい。
「じゃあ、ここは俺とアリスの2人だけで行かせてくれ。スターに着いたらマップを一斉送信する」
「りょう――」
「いやダメだ」
ケイの了解を遮ったバレンさん。不満でもあるのだろう、空気がピンと張り詰める。
「アル中。こいつらの監視を頼む」
「な、なんでオレなんだよ……」
突然の指名にあたふたするフォルテさん。でも、すぐに意味を理解したのかコクンとうなずいた。残るメンバーはケイ・ヤマト・バレンさん。スターに行くメンバーは俺・アリス・フォルテさん。
これで決まった。フォルテさんは早速ビーストモードを発動しヒグマの姿になる。アリスはロデオでもするかのように、フォルテさんの背中に跨った。
俺はビーストモードよりも人型の方が移動が早いので――違う意味でビーストモードが楽だけど――このままの状態でスターを目指す。
「じゃあ、進展あったらすぐ僕に連絡して」
「了解」
こうして解散となった。




