第26話 アリスの捜索
「景斗さん。ここって」
景斗さんに連れられ、俺たちは3階の一室にやって来た。そこは大量のゲームソフトの山が俺の部屋以上に積まれていて、道という道がない。
どれも見たことがないゲームタイトルで、目算で5000ほどある。
「えーと、ゲーム機持ってきてるね。そこのコンセント使っていいよ」
「ありがとうございます。景斗さん」
「どういたしまして。ここの部屋、両親とフォルテの部屋なんだけど、今フォルテは離れで一人暮らしをしていて。現在はおれが使っているんだ」
加えてこのゲームソフトはケイの両親が遊んでいた"仕事"らしい。ゲームを仕事っていうのは数年前から流行ってるみたいだが、ここまでのタイトルをどのペースで遊んでいたのかがわからない。
かなりの速度でクリアしないとこんな量のゲームは不可能。全クリするにしても数十年以上必要だろう。
「にしても寝づらく――」
「翔斗ったら。あはは、さすがに慣れたよ。この部屋にいると親に囲まれてる気分になるから」
そうだ、今景斗さんの親はこことは別の世界にいるんだった。でも、親になかなか会えないのはかなりつらいはず。
俺の弟も言ってた。『家族に会えないのが悲しい』って、景斗さんも感じてると思う。それなのに、彼は寂しがるような素振りを見せない。
「翔斗。大樹。パソコン立ち上げた?」
「私は立ち上げたぞ」
「え、あ、はい……。立ち上げます」
"****sh "
「ログイン準備完了しました」
「じゃあ、入るよ。おれの方からプルーンに行くから、待ってて……。あ、フォルテ達にも連絡しなくちゃ」
景斗さんはLINEにあるアーサーラウンダーのグループに連絡をする。そして全員の用意が終わると……。
「じゃあ、行くよ。ゲームアクティベート!!」
「「ゲームアクティベート!!」」
景斗の号令に続くようにログインする。俺が目を覚ましたのは、案内所の一室。だけど、アリスの姿がない。
昨日アリスに部屋から出ないよう伝えたのに、どこを探しても見当たらない。フォルテさんとバレンさん。ヤマトは全てケイに任せるとして、俺はアリスを捜索することにした。
「アリスーー!!」
――……。
夕食時だから誰もいない。アリスの気配すら感じられない。俺はさらに捜索範囲を広げる。案内所の中から始まり案内所の外周。
そして、放射状に立ち並ぶアンデスの建物から建物へ。俺は兎アバターの特性を活かして屋上から見下ろす。
外には数人ほどプレイヤーを確認できた。しかし、やはりアリスがいない。だが、この選択が間違いだった。
『おい。あんなところにプレイヤーが見えた!!』
『は!? あそこは通常上がれない場所だぞ?』
『いや、本当にいるんだっ!!』
「まずい……!?」
俺はアリスを探すのをやめ、隣の屋上へ隣の屋上へと移動していく。さすがに建物の上にはアリスはいないだろう。
時々地上を見下ろして追っ手が来ないかをチェックする。しかし、そこは大通りだった。これでは見つかるのも時間の問題。
ササッとメニューを開き、ケイたちに連絡。返信はすぐに来た。どうやら、プルーンにもいないらしい。
『いたぞ!!』
ヤバい。どんどんプレイヤーが増えていく。そして、建物の行き止まりが見えてきた時だった。
「カケルーーーーーーー」
「アリス!! どこにいるんだ?」
「ここです!!」
俺は声の出処を探す。ギリギリのところまで、建物の屋根や屋上があるギリギリのところまで……。どこを見ても見つからない。
すると。
「カケル!! 通り過ぎてます!!」
「?」
その言葉に俺は振り向くと、建物の縁に両手の指を引っ掛けているアリスを見つけた。下にはロゼッタヴィレッジのメンバーであろう人だかり。
なぜわかったのかと言うと、俺がヤサイダーに打撃を加えようとした時に見たローブを身につけていたからだ。
あの時は言及しなかったけど、このロゼッタヴィレッジのメンバーの多くは、ローブのようなものを纏っている。
他のギルドも同じような格好をしているが、ロゼッタヴィレッジはその存在感を見せようと、極彩色のローブで目がチカチカしてしまう。
俺は一度地上に降りる。だけど、ヤサイダーが俺の情報まで流したのか、今度はこちらの方に集まってきた。
『カケル聞こえる?』
「ケイ?」
このタイミングで通信魔法。いいんだか悪いんだか、俺は急いでいるのに身動き取れず。でも、彼は俺の状況を把握しているようで。
『ビーストモードを使って』
「ビーストモード?」
『そう。カケルのアバターは兎だよね。兎アバターなら身体をかなり小さくできるし、移動も速い』
「なるほど……」
確かにその方がアリスを素早く助けられる。だけど、俺が捕まったらそこで終了。これは賭けか?
でもやるしかない。一発勝負だ。俺は、もう一度建物の屋根の上に飛び乗る。そこから、身体を小さくした時に通るルートを確認。
真正面から突っ切るのも手だが、それだと目立ってしまう。プレイヤーの上空を飛ぶのも……。
「いや、行けるかもしれない……」
もしもビーストモードを使用した時。解除と使用を繰り返したとして、空中蹴が毎回できるのだとしたら、
この作戦で行こう。俺は、小声でコマンドを唱える。すると、視線が人の足元くらいしか見えない高さになった。
(今助けるからな。アリス!!)




