第20話 カケル駆ける②
俺はこの世界で駆けると決めた。走り続けると決めた。どんなに俺のアバターが雑魚だろうと、バレンさんから何言われようと、前に進むと決めた。
リアルもゲームも思うようにはいかない。いくらまぐれでも、1000分の1以下だろう。そんな世界に俺たちは生きている。
強さなんて興味無いと思った。目の前のことだけをやり遂げればいいと思ってた。俺はヤマトさんみたいにスカウトさせる権利などない。
ヤマトさんは勝者で俺は敗者だ。月とすっぽんの差は、なかなか埋められない。なのに、俺はケイの頑張りに背中を押された。
そして、亡き弟からもなにか言われたような気がした。もしも、ケイが弟だったら。いや、それは幻想だ。
俺はケイをゆっくり立たせる。ゆらゆらと揺れる彼の身体。俺の過去の一部を知った彼らは、今にも泣きそうな目をしていた。
俺だってつらい。でも、俺の感情を抑え込むことができるのは、今いる仲間しかいない。
「話が変わるが……。俺様も、そちらにお邪魔してもよろしいですかな?」
「「!?」」
ヤマトさんの突然の言葉。この一言で空気が変わった。
「ヤマトさんも僕のギルドに?」
「おうよ。そちらの楽しそうな会話が羨ましくてな。アーサーラウンダー……。そこに正式にお邪魔したい」
「いいですよ。えーと、フレンド申請送りました」
「ケイ様ありがとうございます」
あっさりだった。あっさりヤマトさんがアーサーラウンダーのメンバーになった。ちょうどバレンたちも合流し、アンデスへと向かう。
そこからは、バレンさんが激昂したり。フォルテさんがお酒ネタ連発したり。ケイにしか理解できない会話が続いた。
「アル中!! 今度酒ネタ言ったらリアルで日本酒シャワーすっからな!!」
「オレの全身真っ赤っか確定だなッ!!」
「調子乗んなコラァ!!」
「「あはは……」」
相変わらずの掛け合いに、とても和やかな時間が過ぎていく。バレンさんとフォルテさんが互いを突っ付き合い。アリスが俺に対して2人の真似をする。
そこを、ヤマトさんとケイが優しく見守り、かなりわちゃわちゃした有意義なひととき。夜なのに魔物がいない不自然さも相まって、俺たちの声だけが平原に響き渡る。
「ところでケイ。なんでこの時間に活動す……」
「この時間の方が熟練度上げとかできるんだよ。基本ログインしてる人がいないから。ビースト・オンラインは。人口も少ないしね」
「え?」
「ほら。ソルダムで沢山の人が勧誘してたよね? このゲームの中で一番勢力が強いのは、少し前にエンカウントしたヤサイダー率いるギルド破壊集団"ロゼッタヴィレッジ"。そして、ギルドでは最強クラスが揃っている僕たち"アーサーラウンダー"」
「ふむふむ」
「まあ、今の"アーサーラウンダー"は初代団長が卒業したことで、名前だけのギルドって言われてるけどね。当時からいる古参メンバーはバレンとフォルテくらいかな?」
その言葉に呼ばれた2人の取っ組み合いが止まる。そして同時に振り向いた。どうやら意味を理解したらしい。俺にはよくわからないけど。
「そういや、酒ダチはオレより後だったよな?」
「ああ。俺の故郷で色々迷惑かけた」
「そうだったな。まあ、オレにあんな記憶があったとは思わなかったけどよ。あのまま記憶喪失がよかったぜ……」
2人の会話には主語が抜けていて理解できない。でもこの2人にはしっかり意味が伝わってるらしい。
でも、この内容は俺と同じでケイにも分からない領域のようで……。早く親に会いたそうな顔をしていた。
きっと、それなりの思い出を失ってるのかも。でも、今は詮索する時じゃない。俺はアンデスへ向かう歩を進める。
アリスがものすごくくっついてくる。口は落ち着いてるが12歳にしては行動が幼い。バランスの取れた。そして、可愛いさを限界まで伸ばした性格。
「カーケール♪ アンデスってどういう場所なのか気になるね!」
「あ、ああ……」
「もしかして不安?」
「まあな……」
やっぱり、弟がいない環境での攻略は緊張する。だけど、アリスがいる。ヤマトさんがいる。バレンさんにフォルテさん。ラミア姉妹。そしてケイがいる。
俺はこのメンバーで駆ける。駆け抜ける。このゲームのエンディングを見るために、強くなると決めたんだ。
「もうすぐアンデスに着くよ」
ケイが一言。
「セーブポイントはどうする?」
「ケイ様。その……。集落の方俺様が見ておきますが、いかがですかな?」
「それならオレも残ってやってもいいぜ?」
「ヤマトさん。フォルテさん」
つまりこうだ。俺・ケイ・バレンさん・アリスは、新しいギルド拠点を探すためにアンデスをまわる。そして、拠点をセーブポイントにする。
フォルテさん・ヤマトさんはプルーンに戻りラミア姉妹と合流する。
「それで行こう。では行動開始!」
「「ラジャー!」」




