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第18話 紋章の副作用

 ◇◇◇◇◇◇


「ケイ!!」

「うん!!」


 あまりはっきり聞こえない。でも空気の振動で何を言ってるかはわかる。僕は、カケルの動きに合わせる。カケルは僕に合わせてくれる。

 今の僕を支えてくれるのはカケルだけ。今まではバレンやフォルテが合わせてくれた。でも、今回はそれとは違う安心感がある。

 目は機能してない。敵の位置を足の裏で感じ取る。それしかない。これにも僕は慣れていた。

 相手のカブトムシはかなり大きい。アリスさんが興奮する気持ちはわかる。それくらいの大物だ。


「ケイ。右側は……任せ……!!」

「右?」

「そうだ。俺……左……重点的……攻撃……」

「わかった」


 右……右……。手の甲が熱くなってる方!! カケルは目が見えない集中状態の僕にでもわかりやすくさせるため。そのために右を任してくれた。

 ほんと魂胆がわかりやすい。でも、その優しさのおかげでこの状態でも戦える。クローグローブを装備する。

 敵の右脚を空気の振動でロックオンする。近づくと空気の逃げ場は少なくなる。このゲームに風の設定があって良かった。

 紋章の力で発動するシステム外スキル。それは、目と耳が使えなくなる代わりに、攻撃力が大幅に上昇し、どんな硬い部位でも貫通するというもの。

 ただ、代償もかなり大きい。紋章を使い過ぎると、精神的ダメージが多く蓄積される。僕の両親は紋章を刻印した時から精神面が強く、何回使っても影響は出なかった。

 だけど、今の僕では3回が限界だ。これ以上使うと、暗闇への恐怖で動けなくなる。この紋章のおかげか、盲目者や難聴者の気持ちがよくわかった。

 みんな最初は怖いんだ。慣れてしまえばそうでは無くなるけれど。慣れるまでには時間がかかる。

 なぜ、僕の両親は僕にこんな試練を与えたのだろうか? どういう思いで、"全盲の紋章"を刻印したのか?

 それは、刻印してくれた。埋め込んでくれた黒白様に聞いても教えてくれなかった。

 ただ、僕に刻印されたこの紋章を選んだのは、父親らしい。僕は僕が生まれる前の出来事を知っている。

 父親がカケルみたいに魂胆がわかりやすい人ならば、きっと『お父さん(自分)以上の苦難を経験して欲しい』と思っているのかもしれない。


「ケイ!! 危……」

「ッ!?」


 だんだん集中力が切れ始める。カケルの声が、指示が振動で上手く理解できない。怖い……。自分一人になりそうで怖い。

 このままゲームオーバーになるのだろうか? だけど、僕はリーダーだ。ここで諦める訳にはいかない。

 一度気持ちを落ち着かせる。カブトムシの吐息が頭を摩る。紋章に飲み込まれて全く聞こえなくなりつつある耳を最大まで、今の体力で行けるところまで澄ませる。


「ケイ!! ケイ!!」

「……」

「……わかった。アリス俺に掴まれ。上空から火属性魔法を。もうすぐ飛んで逃げそうだから羽根を焼き尽くしてくれ!!」

「……カケル?」

「ケイ……」


 なんだろう。紋章で右手が熱いのに、目は未だ機能してないのに。カケルの声がはっきり聞こえる。

 声の波長からして、他の人も何か言ってるようだけど。カケルの声だけがしっかり聞き取れる。通信魔法を使ってる様子はない。

 まずまず。カケルに通信魔法の使い方はまだ教えてない。なのに、それなのに聞き取れる。空気の振動じゃない。

 心から語りかけている? しかしカケルが指示を飛ばしていたのは僕じゃない。アリスの方だ。


「ケイ行けるか?」

「う、うん……」


 誰かが背中をトントンと叩く。カケルの声が大きい。背中を叩いたのがカケルだとわかる。

 僕は一人じゃない。それがはっきりわかった瞬間だった。僕はさらに意識を研ぎ澄ませる。だんだん地形がわかっていく。

 アリスの炎が発射された音がする。上空が熱い。炎が効いている? カブトムシの胴体が地面に叩きつけられるような重い音がこだまする。

 カブトムシがダウンした? これまでに感じ取れなかった、全て、いやそれ以上の情報が脳内で渦を巻く。この戦況ならいける。


「ラビットフィスト!! 最大火力!!」

『グェェェェェ』

「今だ!! ケイ!! リーダーならリーダーらしくラストアタックを決めてくれ!!」

「了解!!」


 新入りなのに。自分以上にラストアタックが欲しいはずなのに。僕に決めさせてくれるカケル。こんなにもリーダーを理解しようとしてくれてるのは初めてだ。

 僕は、両爪に紋章のを付与させる。


「うぉおおおおおおおおおおおお!! これでチェックメイトだーーーーーー!!」


 そして、僕の喉から出たとは思えない程の咆哮とともにカブトムシを強く。力強く切り裂いた。

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