第21話 船岸楓
今回はかなり短いです。
結人さんは生まれつき解離性同一性障害だったという人がいると言っていた。だけど、それがどういう意味なのかわからなかった。
拓斗さんも頭を傾げ『どういうこと?』と、はてなを浮かべている。やはり当事者である彼も違和感を感じているようだ。
澪の意見はしっかりわかったけど、まだ消化しきれない部分がある。でも、結人さんはその存在を知っているようだ。
「ちょっと待ってね。今彼女はとても危険な状態だから。また復活しそうなんだ」
「復活?」
「うん。詳しくは言えないけどね。しっかり対処しきれなかった、僕たちのせいでもあるんだけど……」
結人さんはどこか暗い表情を見せる。本人にとってもかなり悔しかったのだろう。彼の過去に何があったのかはわからない。
断片的に見た記憶だけでは何もわからない。俺は結人さんに近づき右手を握る。その手は冷たくなっていた。
冬場は体温を調節する関係で手が火照るが、彼は気持ちが落ち込んでいるのだろう。そんな彼を俺はただ見詰めることしかできなかった。
「結人! 大丈夫っすよ。もしもの事が
あれば俺も手伝うし。結人はアーサーラウンダーで一番強い。実際あの時もほとんど結人が魔物を倒して道を作ってくれたじゃないっすか!」
「ありがとう。亜蓮。たしかにあの時は大変だった。僕もしばらく前までいた世界で龍と契約できてよかったよ。相棒がいたから、僕は今も戦えてる。だから、みんなには感謝しないとね」
結人さんはさっき『龍』『相棒』と言った。それになにか関係があるのだろうか? 俺が聞こうとすると、明理さんが止めてくる。
「今翔斗さんに話したらかなりショックを受けると思うから」
そんな理由だった。
「どうして言ってくれないんですか?」
「理由は特にないかな? でも、〝人間をやめた〟人の話はきっと信用できないでしょ? 私と亜蓮。結人さん。そして楓はもう、人じゃない。まあ、結人さんは今でも全力否定するけど」
「あはは……。まあ。僕は僕だからね」
たしかに、明理さんの言う通りだ。まだ現状を、彼らを理解できてない俺が真実を知れば余計に混乱する。
それを踏まえての行動なら納得できる。結人さんは、一つ亜空間を開いた。そして、俺と拓斗に入るよう促している。
拓斗を顔を見合わせると、一緒に中へ入った。そこには、緑色の髪をした1人の女性の姿。日本人とは異なる姿に俺はどう捉えればいいのかわからなくなった。
拓斗も同じようで、横目に映る彼はただじっと彼女の顔を眺めている。
「2人とも。そろそろ出てきて、この空間は安全性の関係で長時間開けないから」
「は、はい!」
「わかりました」
俺は閉まり始める入口に向かって走る。外に出ると、拓斗が遅れて移動してきた。本当に彼女が生まれつきの多重人格者? そんな謎はただ浮遊しているだけ。
亜空間が閉まると、その奥にはプールがあった。冬なので水は入っていない。ただ、風でビニールが揺れていた。
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