第17話 夢の中へ
クエスト一日目が終わり。現実世界に戻った俺は景斗さんの家で夕食を食べることになった。今日はとても楽しかったと、澪も満面の笑みでキラキラ輝いている。
今日の夕食は中華がメイン。なのに、何故か寿司が大量に置かれていた。この家で魚を食べるのは2回目だ。
麻婆豆腐や回鍋肉がある中に何故か寿司がある謎の食卓。これも俺の日常のひとつになるのだろうか?
他のみんなも楽しかったようで、黙々と食べていた。なのに1人だけ表情が暗い人がいたことに俺は視線をそちらに向ける。
暗い表情で食べていたのは、景斗さんだった。大盛りご飯に麻婆豆腐をかけて、スプーンで掬って食べている。
口元に刻みネギがついているのがちょっと気になるが、それ以上に落ち込んだ表情で心配になる気持ちが上回る。
「景斗さん?」
「……」
「景斗さん!!」
「……」
「け・い・と・さ・ん!!」
何度呼びかけても反応しない。ただゆっくり麻婆豆腐かけご飯を食べているだけ。しばらくしてご飯皿を持ってキッチンの方に行くと、ご飯をおかわりして戻ってきた。
今度は回鍋肉をご飯に乗せ、肉や野菜を器の端に集めると、少しずつへずりまがら食べ始めた。
「翔斗くん。なんか景斗の様子おかしいよね?」
結人さんが俺に話しかけてくる。それに一瞬驚いたが、俺はすぐ冷静になって答えた。
「そうですね。なにかあったんかな?」
「さあ?」
俺は余計に彼のことが心配になった。すると、明理さんが席を立ち、景斗さんの方へと歩いていく。
俺たちはその様子を眺めることしかできなかった。明理さんは無言で彼の背中をさする。それに景斗さんは俯いた顔をゆっくりと上げた。
「景斗。もしかしてタクのことで気になってるの?」
「は、はい……。片翼様……」
どうやらタクたちのことが心配になってたらしい。たしかに俺も彼のことが心配だ。しっかり生活に満足できているのだろうか?
タクにとって今日やったゲーム内での食事が、しっかり腹は満たされないけれども初めてに近い食事と言っていた。
その分身体も衰弱しているに違いない。そう考えていると、景斗が再び口を開く。
「片翼様。本当にタクをこの家で生活させてもいいのですか?」
「もちろん。聞いた感じタクは色々上手くいってないみたいだからね。人助け大事!」
「改めてありがとうございます。片翼様。念の為聞きますが、冷酷様と黒白様はどう思ってますか? タクをこの家に招き入れることに関して」
どうやら承諾が必要な要素が多いようだ。まあ、この家に住む人は色々おかしい。バレンさんと結人さんはバンバン魔法を使うし。
明理さんは毒物耐性が異次元だし。亜蓮さんは魔法が大規模だし。ラミアさんとファリナさんはユニットアイドルだし。
「もちろん大歓迎っすよ! そうっすよね、結人!」
「うん。僕も賛成だね。困ってる人を助けたい気持ちは大事だよ」
「ありがとうございます。冷酷様。黒白様」
その後食事が終わると、結人さんが俺を自宅まで送ってくれた。珍しく外は雪が降っていて、うっすら地面が白くなっている。
澪に挨拶するのを忘れてしまったけど、まあ夢の中で会えるからそこまで困って居ない。それが普通になっているから。
「母さん。ただいま」
「おかえり、翔斗。友達をたくさん遊べた?」
「うん。楽しかった。その……み……」
「み?」
「いやなんでもない。みんな明るくて、パーティも成功したよ。俺ゲームのボス戦でMVP取ったんだ」
澪のことは言えない。どうしても喉元でつっかえる。きっと信じてくれない。澪のことを覚えていないかもしれない。そんな人に言ったって無駄だ。
「翔斗。明理と亜蓮は元気だった?」
「うん。まあ、相変わらずかな? 明理さんはゲーム上手いし集中力もすごいし。亜蓮さんは今色んな研究と開発をしているって」
「そうなのね……。あたし、昔亜蓮のことが好きだったから。でも、明理に頼んで正解だったかもしれないわ」
母さんが亜蓮さんのことが好きだった? 俺は脳内で関係図を整理する。明理さんと亜蓮さんが夫婦。子供に景斗さん。
明理さん夫婦と結人さん他メンバーが同居してて、魔法が使える人たち。
ところ変わって、明理さんと亜蓮さんと俺の母さんが知り合い。で母さんが亜蓮さんに片思い。
それなりに情報渋滞で紙に書かないと、綺麗にまとまらないと感じ思考を停止した。
「じゃあ、母さん。俺、お風呂入ってくる」
「わかった。今日は寒いから暖房つけて」
「うん。ありがとう」
そうして、俺はストーブで暖かくなった脱衣所で服を脱ぎ、浴室の暖房をつけて入った。父さんのこだわりが詰まったお風呂で、天井にには防水と結露防止機能付きの最新式エアコンが丸出し。
普通は隠すように設置されるはずなのに、普通の部屋に取り付けられているのと同じ、普通部屋用のエアコンだ。
真上から風の滝が流れてくる。母さんの言う通り今日は寒かった。結人さんが送ってくれた場所は俺の自宅の玄関前。そこはもうすでに5センチほど雪が積もってたくらいだ。
俺はシャワーを温めながら、湯船のお湯を頭からかぶる。しっかり髪の毛が濡れるとそのままシャンプーでガシャガシャ洗い、シャワーで流した。
身体もちゃちゃっと洗うと、もうすでに湯気と熱風で占領された浴室で湯船に浸かる。
いつもなら10分程で出るのに、今日はなんかじっくり浸かりたい。俺は自分の身長ギリギリの浴槽で足をのばした。
温かいお湯が肩まで迫ってくる。ぶくぶくと顔を半分入れたいが、それができる体勢では無いことは明らかだった。
「タク……。大丈夫かな?」
気づけば俺はそんなことを呟いていた。それは部屋の中で反響し、そよ風のように消えていく。まるで儚く。
『翔斗。そろそろ出てきて』
脱衣所の方から母さんの声が聞こえてくる。俺は母さんが部屋から出るのを耳で確認して、お風呂から出た。時間を見ると俺はどうやら20分以上入ってたようだ。
急いで着替えて自室に向かい。日課の報告をする。すると結人さんから返信が来た。
"翔斗くん。学校頑張って!"
たった一言、ただそれだけ。俺はパソコンを閉じてベッドに横たわる。今日は本当に疲れているらしい。気づけばいつもの丘の上にいた。
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