第15話 クエスト限定巨大イノシシ
僕たちは今までで一番大きな音がした方へと向かった。よく見ると、木々の隙間から大きな影が見えている。
これは先程見つけたイノシシのボスなのだろうか? タクの歩く速度がだんだん早くなる、カイトよりはゆっくりで僕も楽に追いつける速度だった。
それから先。僕はタクに一旦止まるように伝えて敵を様子見。巨大なイノシシが動かないことを確認したら、一気に接近戦にする。
今日は黒白様に魔力の計測をしてもらわなかったけど、多分暴走はしないだろう。片翼様が言うには僕は時々魔力に溺れることがあるようで、毎回助けて貰っていた。
未だに自分でも制御ができてない。制御できるようになりたい。そう思いながらも、紋章を発動させる。
魔力が増幅していく感覚を身体全体で受け止める。視界がぼやけていく。音が途切れていく。僕はこうなると孤独な空間で戦うことになる。
「……」
何も見えない。何も聞こえない。僕は勘だけで接近する。敵の威圧感を全身で感じ取った。敵はすぐ近くにいる。
どこからか風を斬る音がする。敵の血飛沫に似た何かが僕に降り注ぐ。タクが戦っている。
僕は魔力増幅で強化された拳を振るう。直後硬さと柔らかさが両立された、なんとも説明しづらい肉質に触れたことを悟る。
ダメージが入った。僕は一瞬そう思った。足に感覚を持っていく。敵が動く度に地面が振動する。
僕は位置を特定する。再び飛沫が飛んできた。タクとの距離がかなり近い。肉弾戦をする僕の攻撃が当たれば意味が無い。
僕は両手で安全なルートを辿る。敵の圧が近い。鼻息にも似た強く生暖かい空気が、僕の身体をほんのり温める。
このイノシシも生きているんだ。そう思った瞬間だった。たとえゲーム内だとしても命はある。それはタク自身もそうなのだろう。
人格ごとに命がある。住んでる身体はひとつだけど、それでも命にも似た意識がたしかに存在する。
「タク。タク!」
「……」
カケルの時と違う。カケルの声はたしかにこの状態でも聞こえた。彼はどのようにして僕の孤独な空間を突破できたのだろうか?
それは本人しか知らない。僕はタクの名前を叫ぶ。だけど相手の声が全く聞こえない。聞き取れない。
タクは黒白様や片翼様。冷酷様のように魔法が使えない。だから、通信魔法での会話はできない……。これでは連携が取れない。
そんな時だった。
『ケイ君何?』
これはタクの声? それも通信魔法だった。さっきも言ったようにタクは魔法は……。
「タク。なんで通信魔法を……」
僕は彼に問いかけた。
『さっきレミスが起きてね。魔法のことを聞いたら"アタシなら使えるよ~ん"って。だからレミスの感覚に気づけなかったんだって気付かされたよ』
「レミスが魔法を?」
『うん。今レミスが繋げてくれてる。だけど長時間は持たないから。レミスがこの状態から発信者変更できる? って言ってる』
「了解。これでよし。発信者を僕からに変更したよ」
これで連携が取れる。少し安心した。だけど、どうして魔力を持たないタク。正確にはレミスが魔法を使えるのだろうか?
彼――彼女は魔法の存在を知っていた? だけど、どこでその情報が漏れた。僕は戦闘よりもそちらの方に意識を向けていた。
レミスが魔法を使えるのなら、タクたちも使えるはずだ。だけど、魔法の存在をわかっていて、しかも通信魔法を使えるのはレミスだけ。
『ケイ君! イノシシがそっちに……』
タクが警戒するようにと言ってくる。僕は右手を前に出すだけで止めた。するとズシッとした重さが身体にのしかかる。
『巨大イノシシを片手で……』
脳裏に唖然とするタクの声が響いた。僕もまさか片手で止めることができるとは思わなかった。
そのまま力強く敵の皮膚を掴む。これならいける。僕はそれを持ち上げた。足が痛い。もしも片翼様だったら軽々と持ち上げてたかもしれない。
片翼様は小柄なのに怪力だ。片翼様が使ってる剣は、黒白様によると直径5メートルの大岩と同じくらいの重さらしい。
それを片手で楽々と持ち上げるのだから、僕には到底真似できない。
『大丈夫?』
「だ、大丈夫……だと思う……」
『無理しないで』
「わかって……るッ!」
僕は力強く巨大イノシシを地面にぶつけた。さっきのでかなり疲労が溜まったが、そこまで問題じゃない。
僕は状況を自分の目で確認するため、紋章を解除する。ゆっくり、たしかに感覚が戻ってくる。そして視界が回復した時。目の前には巨大イノシシが横倒しになって気絶していた。
「さあ、ケイ君。持ち帰ろう!」
「はい……」
「ケイ君?」
ものすごく悲惨さを感じた僕はこれを持って行っていいかを考えた。この世界。このゲームは弱肉強食の縮図。それを知ったからだ。
カケルやレイ。アリアさんや他の新参者は喜ぶと思うが、リアゼノン事件を知ってるメンバーはかなり落ち込むだろう。
リアゼノン事件。僕が生まれる数日前に決着がついた事件。あれは魔物が人間を襲い多くの死者が出た、この世界の歴史上にも色濃く残る――はず――の大事件。
政府は正確な被害者数を開示していない。だけど、ざっと大きな都市がひとつ消えるだけの死者が出たはずだと、黒白様と冷酷様が言っていた。
2人は計算がものすごく早い。演算も早い。魔法に完全特化した2人。そう振り返っていると、タクが僕の背中を叩いた。
「早く行こ。だけど……」
「ここ。どこなのかな? ちょっと黒白様に頼んで迎えきてもらうよ」
「わかった。ほんと魔法は便利だよね」
「そうかな?」
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