第6話 突然交代
俺の号令でチャンバラごっこが始まった。計画的に攻撃と防御を行うレイと、一心不乱に振り回し空回るミク。いつの間にか観戦席のメンバーも、レイを応援する人とミクを応援する人で真っ二つに分かれた。
そして、ミクの戦い方を悟ったレイも上手く手加減を始める。わざと攻撃を受けたり、防御に徹したり。だけど、この行動はレイ応援組からは不評のようで、どんどん彼の応援者が減っていく。
これは、どうやら彼の作戦のひとつのようで、ミクのやる気をかさ増しするためだったようだ。
「レイおにいちゃん。ちゃんとたたかってよぉー」
「そしたら、君負けるよ?」
「えー。まけるのはいやだーーー」
「じゃあ手加減するけど?」
「てかげんもいやだー」
この少女は注文が多い。レイの言葉に駄々をこねては。的を目指さず棒を振り回して走り回った。さすがは9歳児。ここまで元気なのはいいことだが、観戦席のメンバー。特にヤサイダー辺りが保護者のように見えてきた。
レイはと言うと。この状況をどうにかして楽しくさせようか悩み中。俺も名案浮かばず困り果てていた。
するとGVさんが魔法でなにかを生成する。完成したのは2本の魔法剣。しかも、本格的な長剣だ。それを空中に浮かべると、レイとミクに渡した。
レイは平常心を保っていたが、ミクは少し戸惑いの表情。本物の剣に近い魔法剣を彼女は初めて見たらしい。
「その剣。2人にあげるよ。ただ、一点物だから壊れたら直せないけどね」
「いいの? かめのおにいさん?」
「もちろん」
「ありがとうございます。GVさん。ぼくも大事にします」
「うんうん」
これで一件落着。だと思われたが……。今度はミクが実戦をしようと言い出した。これにはもう呆れ顔のレイ。観戦席もみんなの心許ない笑い声がコソコソと囁かれる。
レイは魔法剣を手元で回転させた。そして……。
「ミク。序盤は手加減。タイミング見て本気でいかせて貰うよ!」
「ほんきだしてくれるの?」
「うん。この剣殺傷能力はないみたいだからね。魔法で上書きしない限りはダメージは入らない」
「あたしけがしない?」
「しないよ。じゃ。そろそろ始めようか」
ミクは剣を強く握りしめる。どうやら彼女も手加減する気は無さそうだ。レイも準備万端。俺が2回戦の号令をする。
両者勢い良く飛び出すと、お互いの剣がぶつかり合う。飛び散る火花、観戦席の盛り上がりに熱が入る。
俺もどんどん近づいてくる2人を跳躍で回避しながら、自分でも苦手な実況を行った。
「えー。今現在優勢なのはミク選手です。一心不乱に剣を動かして、レイ選手を追い込んでいます……」
「カケルくん。もっと臨場感出してよー」
俺の言葉に反応したのはアリアだった。俺ももっと臨場感出せるなら既に出している。だけど、相応しい言葉が全く出てこないのだ。
すると、突然ミクの動きがスローモーションのようにぐらついた。そのまま一瞬にして目つきが変化する。
「臨場感出せねぇなら俺様が再現してやるぜぇ!」
「ミク!?」
「いや、違う。ミクちゃんじゃないよ!」
「アリア?」
「そうね。あれはカイトかもしれないわ……」
ミクが引っ込んでカイトが出てきた? 理解が追い付かない。この人物はいったい何人人格を持っているのだろうか? これで3人目だ。
タクの一人称がボク。ミクがあたし。そして、カイトはものすごく王様のような、はたまた魔王のような俺様だった。
ミクは無作為に無計画の戦い方だったが、カイトはしっかりとした型を使う。剣を左肩の上段に構え、一気に地面を蹴り飛ばすと、そのまま斜めに振り下ろす。
これにはレイも追いつかなかったようで、身体全体でもろに受けた。殺傷能力はないはずの魔法剣だが、レイのアバターからたくさんのポリゴンが飛び散る。
「なかなかやるね。じゃあ、ぼくも本気だそうかな?」
(人格が違うのをわかってて言ってるのか?)
「臨むところだ!」
これはかなりバチバチの予感。レイも剣を右中段に構える。この構えは俺もよく知っていた。彼はいつもチャンバラごっこをする時、棒を中段の位置に構えていたから。
ただ、左横腹が無防備になるため慣れていないと急所に当たる。その構えを使いこなすのがレイだった。さすがに久しぶりに見たので、どこまで上達したのか気になってしまう。
レイとカイトが接近する。カイトが先程と同様斜めに一閃。それをレイは剣の腹で受け止める。ギシギシと音をたて、2人の顔がミリ単位で近付いていく。
「筋がいいね。じゃ、これはどうかな?」
そう言ってレイが何かを仕掛ける。剣を無理やり押し込んで、そのまま回転斬りに繋げた。カイトが大きく仰け反るとそのまま尻もちをついた。
これはレイの勝利か? そう思うと、カイトは仰向けの状態から大きく身体を持ち上げ、ひょいっと飛び上がった。
「やんなおまえ。ならこっちも行かせてもらおうか。俺様の暴走について来れるか……」
「そこまで!」
「「ッ!?」」
カイトの挑発を止めたのはGVさんだった。これ以上は意味がないと判断したのだろう。落胆するカイト。苦笑を漏らすレイ。
どうやらレイはこの判断に納得いってるようで、そのまま疲れ果てたかのように崩れ落ちた。
「ったく。これから俺様の戦場だと思ったのに……」
「仕方ないよ。まあ。突然出てきたからぼくも驚いたけどね」
「それは悪ぃ……。ミクが闘ってるとこ見てたらウズウズが止まんなくってヨォ……」
「そうだったんだね。どう? ぼくと戦ってみて」
「んー。なんも測れなかったからノーコメントだな。もっと戦いたかった……」
どうやら2人にとも仲が良くなったみたいだ。これで本当の一件落着。俺は絶界を解除すると、アンデスの一角に移動した。
これからクエスト受注。カイトもタクと交代し、ギルドパーティ登録を済ませると、案内所へと移動した。
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