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第5話 交流は程々に

「カケル……。もしかして翔斗くん?」

「そうだが……」

「じゃあこっちの小さい兎アバターの子は、翔斗くんの弟だよね?」

「そうだが……」

「昔病気で亡くなったって聞いたけど……」

「そうだが……」


(おいおい、ゲーム内で合流直後に詮索されてないか俺)


 ゲームなのに冷や汗が止まらない。エフェクトこそ出てないが、どうしても目を逸らしたくなる内容だ。俺だってこれが現実なのかわかってないのに、まるでわかっているかのように言ってどうするんだ。

 そんな俺と有栖の会話に、みんなからの視線が集まっていく。特に、俺の学校生活風景を知らない人が……。

 

「それより、有……。いやアリアとタクってどういう関係なんだ?」

「それは内緒。と言いたいけど……。彼が私たちの学校に転校してくるのは知ってるでしょ。ちょっと私でもよく分からないんだけど……。私と彼を合わせたのは私のお姉さんで、ミネラルバは今日結成されたばかりで……」

「つまり、ゲームに誘われた以上に困った状態になってるってことか?」


 ヤサイダー。ほんと困った人だ。さらに話を進めると、アリアとタクは今回が初対面らしい。どうしたものか、迷惑でしかない。

 そして、タクの話題になった。彼はどうやら障害者らしい。その症状はどんなものか、それは後々わかるとのことで教えてくれなかった。とヤサイダーが口を挟んできた。

 その後、遠くからとぼとぼと歩いてくるタク。だけど少し様子がおかしかった。突然顔を上げて、レイの方を見ると、猛ダッシュで駆け寄ってくる。

 その中でも1番の違いは彼の一人称だった、声も少し高い声で女の子のような声質になっていた。


「きみあたしといっしょにあそぶ?」

「え、えーと……」

「あたし……いっしょにあそびたい。ダメ?」

「レイが困っているわよ」


 これは中の人が入れ替わっている? そんなはずがない。アバターはタクが使ってたのと同じ鹿アバターだ。人が入れ替わるなんで現象はありえない。


「ヤサイダー。これはいったい?」

「さあ?」

「アリアは知ってるか?」

「私も知らないよ」


 ヤサイダーは答えようとせず、アリアも理解不能のような表情を見せる。すると、そこに舟を流したのは、現在行動不能のレイだった。


「も、もしかして……タクは。解離性同一性障害? だよ……ね……?」

「正解よ。レイ」

「それにしても、目力が強すぎて、倒れそう……」

「なら、少し付き合ってやったらどうかしら?」

「そ、それが……1番かもね……。わ、わかったよ……。えーと、今のがタクじゃないとすると、名前は……」


 レイが完全に押されている。普段は俺に一方通行なのに、ここまで追い込まれている彼は見たことがない。それよりも、人格が変わったタクはどちらかというと、幼い子供のようだった。

 仕草もなんだか柔らかい。それどころか、ニンマリとした表情が完全再現されてるせいで、余計に子供っぽさが増していた。


「きみなにであそぶ? おにごっこ? それともてあそび? しりとりとかもあたししてみたい!」

「ぼ、ぼくはなんでもいいよ……」

「えーー。きめてよぉーー。そうだ、きみなんさい?」

「ぼく? 14だけど……」

「あたし9さい! おにいちゃんってよんでもいい?」

「お、おにいちゃん? ぼくがだよね?」


 もしかして、この少女(?)は別の障害も持っているのだろうか? 話題の切り替えが急すぎる。すると、レイがこう呟いた。


「この人格はASDかADHDを持ってる可能性が高いかも」

「ASD? ADHD?」

「うん。カケルお兄ちゃんは聞いた事ない?」

「いや、初耳だ……」


 俺は本当のことをレイに伝えた。どちらも障害の名前のようだが、あまりよくわからない。この障害のことを、どうやらレイは少し知識があるらしい。彼は、つい最近俺が教えた検索機能でササッと検索すると、その画面を見せてくれた。


「じゃあ説明するね。まずASD。自閉症スペクトラムのことなんだけど……。特徴として一点集中型というか、好きな物は好きでまっしぐらって感じだね」

「ふむふむ」

「で次にADHD。多動性障害・注意欠如を意味してるらしい。こっちは安全か危険かをしっかり判別できなかったり、常に動いていないと落ち着かなかったり。どちらも発達障害で――」


 俺の弟、どうしてこんなにも詳しいんだ。俺が知らない知識の羅列を綺麗に並べていく。そして最後に、こう付け足した。


「一点集中のASDと集中力が続かないADHDを両方持ってる人は、熱しやすく冷めやすいって場合が多いから、そろそろ飽きて落ち着くんじゃないかな?」

「いや、幼女相手に冷静に解説するレイの方がすごいぞ?」

「そう? ありがとう」


 それにしても、タクは謎が多い。レイによると症例の情報も未知のようで、幼少期の過剰なストレスや、虐待。周囲からのいじめで起こることしかわかってないらしい。

 また、さらに少ない例のようだが生まれつき持ってる場合もあるのだとか。だけど、ほとんどが周りとの不適合から引き起こされるため、実際に生まれつきなのかはわかってないようだ。


「ミク。そろそろやめなさい」

「え、えー。あたしもっとあそびたい!」

「貴方。タクから何も聞いてなかったのね……。今日はみんなで行動するのよ。貴方だけの世界で考えないでもらえる?」

「やーだーー。もっとレイおにいちゃんとあそびたいーーーー」

「と言ってるよ、ヤサイダーさん。ぼくももう少し相手してあげたいと思ってるし。そうだ、一緒にチャンバラごっこでもする?」

「え、いいの? やったーー。チャンバラごっこ♪ チャンバラごっこ♪」


 今の彼――彼女の名前はミクというらしい。とてもお転婆少女というか、障害の関係で場の空気を読めないようだ。

 それも、この人の特徴として考えておこう。だけど、キャラの差が大きい。さっきまで――と言ってもアリアが撤収する前のタクという少年と、今のミクという少女の明らかな違いに、俺はついていけなくなった。

 レイの冷静さにも驚いたけど、ヤサイダーの対応も上手い。ところでヤサイダーはどうやってこの解離性同一性障害者のタクと出会ったのだろうか?

 どうしても気になってしまう。そうでなければこうして会ってないのだから。俺は、チャンバラごっこを始めるという、レイとミクのために、広いスペースを確保した。

 ハエトリグサ戦でレイが用意してくれた、アレンさんの魔法3点セット。実は、あの後レイが幻塵を追加してくれていた。チャンバラごっこのバトルフィールドとして用意したのはその中の絶界で作った空間。

 もちろん観戦者として他メンバーもいる。レイは魔法で2本の棒を生成した。片方をミクに渡すと、彼女はブンブンと振り回し始める。

 審判は何故か俺が担当することになった。こういうのはやったことがない。レイのことだから手加減はすると思うけど……。


「両者準備は?」

「ぼくはいつでもいいよ」

「あたしも!!」

「では、試合開始!」

応援よろしくお願いします!!!!!!

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試合が始まりましたが、どうなるのか。ますます気になります!
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