第二世界 プレパラシオン第一話 俺の名は③
「起動ってなんだよ!!」
散々頭を悩まし、繰り出した結論がこれだ。
そもそも全く知らない異界の地で、意味のわからないものを渡されたれ試験と言われ……
「わかるか!!」
ソファーに寝っ転がりながら箱をぶん投げそうになる。
「はぁ、だめだもう一度考え直そう」
もう一度しっかりとソファーに座り、指輪と向き合う。
シキさんはこれを武器と言った。さらに起動しろとも言った。つまりこれはなんらかの方法で使用する物という事。
指輪の形をしていて?使用できる物?
つまり、どう転んでも指にはめることはあるだろ!!
そう意気込み、僕はその指輪を右手の中指にはめ込んだ。
「…………」
何も起きない。
そりゃそうか、指にはめるだけで何か起きたらそれこそもう魔法の域になるだろうし……
僕はそっと指輪を戻そうと指に手をかける。
「…………」
僕はそっと指に手をかける
「…………」
僕は!!指輪を!!外そうと!!した!!
「…………」
抜けない。マジで抜けない。どんなに力を入れようと指と指輪が接着しているかのようにひっついて離れない。
「え?ちょ待って。呪いのアイテムだったりする?」
泥の化け物を前にした時よりも少し強いくらいには怖い。
「どうしよ。一生このままなのか?」
なんとか外そうと必死に格闘するが、健闘虚しく一時間程経っても抜ける気配を感じない。
「はぁ、はぁ、はぁ、流石に疲れた」
試行錯誤しながら何度も指輪を抜こうとしたせいで頭も身体を少し疲れ、もといたソファーに座り直した。
すると突然、急な眠気に襲われる
「あれ、眠……」
そのままレンはソファーに倒れた。
******
チラッ、チラッ、数秒に一度。シキは隣の部屋を見る。
「そんなに気になるなら観にいけばいいのに」
「いいの。これはその、ちゃんとご飯食べれてるか心配で……」
「お母さんか」
試験を開始した後、シキとシェリーはすぐ隣の六畳一間の小さな部屋でテレビゲームをしていた。
「それよりシキ」
「なに?」
「入団試験ってなに?」
「何って、入団できるかどうか試験してるんだよ」
「そうじゃなくて……あなた入団試験なんて一度もやった事ないじゃない」
「ん?まぁ気まぐれ?みたいな」
「気まぐれって……」
毎度のことながらと呆れながら、少しシキを諭そうとする。
「それになんで試験にあれを使ったの?」
「なんでって?」
「あのアーティファクトはあなたでさえ起動出来なかった不良はじゃ……」
「アーティファクトに不良品なんてないよ。私がただ使えなかっただけ」
話を遮ぎって少し凄みながら話すシキに、シェリーが少し言葉を詰まらせた。
「ごめんごめん。怒ってる訳じゃなくて、それに起動出来なかったとしても、あれとどう向き合うか。そういうのも見たいと思ってらから」
その眼差しは、願いなのか、期待なのか、そんな目線をレンに送る。
******
「ここは……」
目が覚めるとそこは暗い暗い空間だった。辺りを見渡しても先は見えず、ただの地平線しか見えない。……いや、水平線か。
足元は少し動くだけで水面が起きる。暗くて奥までは見えないが水面のようだ。
こんな光景、現実ではあり得ない。うん、明晰夢だこれ。
夢であると知覚すると辺りがよりわかりやすく見える。
上を見上げると、そこに大量の瓦礫が浮いていた。
白い壁のような物に、どこかの塔まである。
「……城か?」
辺りを散策しようと踏み出したその時、声が聞こえた。
(お前はなぜ力を欲する)
頭の中に直接響いてくるような、それでいてこの空間でも聴こえてくるような、乱雑に反響するようなその声は僕の心をかき乱す。
(お前はなぜ力を欲する)
これ答えないと一生繰り返される系だ。
どうしよう、試験だからとか言ったらぶっ飛ばされるかな……
なぜ力を欲するか?……あまり考えたことがなかった。まぁそんなものを考える日常送ってなかったからかも知れないけど。
…………
ああ、あるかも知れない。僕が力を欲する理由。
「……僕にはもう、居場所がない。帰れる場所も、安心する場所もない。だからその居場所を勝ち取るための力が欲しい。だから僕は力が欲しい」
(居場所が欲しい。それがお前の理想か?お前は居場所さえあればそれでいいと思えるのか?)
受け答えあるかよ……居場所さえあればそれでいいと思えるか、だって?居場所ないやつを舐めるなよ。自分の帰れる場所がないと……どんなに……どんなに辛いか。
「居場所が全てだと、僕は今思っているよ」
(俺は理想を聞いているんだ。なぜ力を欲するのか、つまり力を欲してどうなりたいのか?お前のそれは……ただの救いだ。これが欲しいこれがあれば俺は安心できる。そういう願いだ)
人が絞り出した理由をこれは違うと突っぱねられたら、どんな気分になると思う?こんな気分だ。
なんなんだこいつは。試練の話聞かない系かと思ったらレスバ系だっだぞ。
なんだよ。どうなりたいのかって……僕にはまだ考える余裕ないよ。
…………
いや、一つだけあった。僕のなりたいもの。なりたい……理想。
(もう一度聞こう。お前の理想はなんだ)
「君が求めてるやつがわからないけど、一つある。……僕はある人に助けられた。結構、割と無茶苦茶な人だけど、その無茶苦茶に助けられたんだ。……だからまず、あの人の助けになりたい。後、できるなら困っている人を助けられるようになりたい。巡り巡って僕が助けてもらえるくらいに。……情けなくても、笑われても立ち上がって、泣いてる誰かを助けられる、助けれる、救える。そんな……主人公になりたい」
自分で言っていて、結構無茶苦茶だなって思う。
「変かな?」
(いや……理想なんてそんなもんだと思うぞ)
誰かに肯定してもらえると、それだけで背中を押された気分になる。
(お前の理想は聞き届けた。あとは俺が返す番だ。俺の名を呼べ、レン。俺の名は……)
******
隣の部屋からシキとシェリーが歩いてくる。
「ねぇ、ごめんてシェリー。拗ねないでよ。即死コン使いすぎたのは謝るから」
「拗ねてない。それよりいいの?結構経ってるよ」
「まぁ、この時間何やってたか?とかも見るから」
そんなこんなをしているうちにすぐにレンのいる部屋の前まで着いた。
「やぁレン!楽しく過ごして……」
陽気に扉を開いた瞬間。異様な空気感肌を突き抜ける。敵意というよりは威圧に近い。部屋に充満する圧力は歴戦の猛者を前にしてもおとらず、シキは心配になりレンの方に目をやる。
レンは立っていた。ただある剣を持って。ただそれだけでこの空間を作った。
その情景に、シキは昔、記憶も朧げな程幼い時に読んだある本と重なった。
誰も逆らうことのできなかった絶対的な王に、たった一人、たちむかった騎士の物語に。
その騎士は理想と運命を掲げ、その手には真紅を纏い、暗闇を照らす白銀の剣を持つ。
その名を『理想』の騎士。
「マジか……」