3/6
彼女に何が起きたのか
新任の先生に向けて僕らが用意したいたずらは、架空の不登校生徒だった。もちろん学校の書類には出てくるわけがないが、そこは「町の有力者のゴニョゴニョで……」。
これが直撃してしまった。演技が下手なのでうつむいてごまかす生徒、設定をよく覚えてなくて質問に答えかけて慌てて取り消す生徒。他の先生方はもちろんそんないたずらの存在も知らず、怪訝な顔をする。それらが彼女の中でつながってしまったようだ。化粧気は失せ、髪は艶が消え、廊下の足音に怯え、プリントの字は粗くなる。
さすがに気の毒になって、そろそろ種明かしをしようかと相談していた文化祭の直前だった。
黒板の隅の方、たった一行。こんな綺麗な字は誰も書けない、それは間違いない。
「先生はわたしが連れてくね 蛍」
蛍は僕らが設定した架空のはずの。
失踪した先生は未だに見つかっていない。