饅頭屋の看板娘
子供の頃は時々お使いに行った。昔からある和菓子店で、そこそこ有名ではあったらしい。お客さんが来るというと祖母が電話をかけ、僕が品物を取りに行く。お店には僕より少し歳上だろうか、とても無愛想な女の子がいて、必要最低限のやり取りで店名入りの紙袋を渡される。
高校に入ったくらいの頃にはシャッターが閉まっていることが増え、お使いに行くと横の通用口から無愛想なお姉さんが出てきた。いつの間にか僕の方が背が高くなっていたのはこの頃だったはず。お姉さんは相変わらず無愛想で、聖子ちゃんカット全盛期なのに昔ながらの地味なボブカット、じゃないな、おかっぱだった。
和菓子屋はあまりたくさんはない町で、行事や会合の時にはここへ饅頭を注文することが多い。僕自身が注文することも時々ある。取りに行くのは何時くらいがいいかを尋くと、電話の向こうの無愛想なお姉さんは「いや、配達するよ」とだけ返し、どこに届けてほしいかなど一切質問しないのだけど、時間までにきっちり玄関口に紙袋が置かれている。
祖母の病室から出てくるところと鉢合わせした。三十年ぶりくらいに姿を見たかもしれない。
全く同じ姿だ。
「あんたのおばあさんにはお世話になったからね。誰だかわからなくなっちゃう前にご挨拶しなきゃって」
「お見舞いきてくれてありがとう」
それ以上のやり取りは今回もしていない。
たぶん僕の時にも来てくれるはずだ。
いつになるかはわからないけど、また全く同じ姿で。