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Vivid・Memory〜彼らの巡礼譚〜  作者: 末広 オリン
一章「聖母と紺碧な空の下」
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第8話「実戦あるのみ」


「違う!そうしたら次の行動に遅れが出るだろう!」


 遠くからの怒号が草原中に響く。

お婆さんが野次馬ではなく師事してくれている。


「例えば今の動き、単純な足だけの挙動だと武器を持たない奴には意味あるだろうが、何かしらの遠距離武器を持っている奴には効かない」


 ダメな理由を語り、その後にどう動けばいいのかを明確に教えてくれる。


「常に二つの行動を行うって意識しな!今の場面は逃げると観察だ!相手はわざわざ追いかけるっていう行動を明確に行ってくれる!」


 何度も言われた助言を、多くの失敗をした上で少しずつだけど確実に行なっていくと、いつの間にか僕自身でも気づけるほどに視野が広がった。


「そいつは直線的に追撃してくる!毎回ギリギリで躱すように逃げれば、直線で逃げて死角になるよりも視野が広がる、次に繋がる!動きを連続させろ!」


 お婆さんが発する言葉を理解するよりも早く、敵の行動を読めた。思考がお婆さんに追いつき始めた結果だ。

逃げようとする僕へ身体を向け、加速する魔獣を察知してさらに方向転換する。


「そう!逃げ方は良くなった!次は攻撃だ!」


 逃げ回りながら、足りなかった一つの線を足で引き、稚拙ながら地面に魔術式を作り上げた。

追走してくる魔獣が陣の中に入って来るのを見計らい、準備していた枝を放り投げる。


 そして魔術式と接触した瞬間に発動し、枝を対極の火へ変換する。


「よし、第一段階クリアだ。次に杖を使って攻撃しな!」


 そこで終えるのではなく、魔術式の近くに地面へ突き刺していた杖を拾い、敵が怯んでいる間にすぐさま魔法を想像し、そのまま杖を向ける。

 想像した魔法は単純明快。

赤く発光した杖先から火が飛び出し、敵に目掛けて飛んで行き、そのまま直撃する代物だった。


 顕現した火の玉は、魔獣へと向かい直撃するも、僕が想像していたほどの傷を与えれなかった。

だけど、魔獣には致命傷になったのか、そのままバタンと音を立てて倒れる。


「火力不足だが…まぁ打てただけでも良しとするか」


 そう言って、やっと午前の休憩を貰えた。


ーーー


「攻撃のバリエーションを増やすか」


 座り込んで水を飲んでいたら、ボソッとそんな言葉が聞こえた。昼前から練習が増えるのを見越して、急遽話を逸らそうとする。


「ずっと気になっていたんですけど、度々話してる西地、アルヘムの言葉は出身がそっちだからですか?」


 気になることを聞いてみたら、すんごい難しそうな顔をこちらに向け、説明に苦戦しているようだ。


「んー…いやエバみたいに、他の言葉がいいなと思っただけだよ」


「そうなんですか…って僕そんなこと一言も言ってない気がするんですけど!?」


「何のことかね、さて魔術での足止めの他に、攻撃を教えるから覚えるんだよ」


 話を逸らす作戦は失敗し、気になることがさらに生まれてしまった。


ーーー


「魔術式での使用方法はさっき行った『出来上がった陣の中へ変換するための材料を投げ込むこと』とまだやったことがない『変換する材料を己の魔力によって賄う』の二つしかない」


「それは知ってます。僕は魔力を使えなかったので、材料を投げ込む方法しか出来ないから、罠としか使えないんですよね?」


「というよりも、魔力を込めた魔術式の作り方を知らなかっただけだ。だからこそ持っている杖による魔法だ」


 そう言ってお婆さんは、どこから出したのか捻じ曲がった杖を片手に持ち、遠くにある木へ向け振る。


「さっきの魔法が弱かったのはイメージが中途半端だったから。杖の先に魔素が溜め、火へと変換し、それを放っただけだろ?」


 こちらを見てくるお婆さんに頷きで答える。


「途中までは正解だが、それにも続きがある。

例えば、今狙っている木は遠くに存在するから、持続的に火の形を留めなくてはいけない。他に威力も殺してはいけないことをまずは理解する」


 お婆さんはそのまま目を瞑り、想像し始めているのが傍から見てもわかる。


「作り上げた火を持続させるためには、初歩的なことだが、魔素を消費し続ける火へ、さらに魔素を送ることが必要だ」


 途中まで僕が作った火の玉と同じ代物に、何か見えないモノが覆い尽くすのが感じ取れた。


「ただ、これだけだとそのまま停滞していつまでも残る火の玉になってしまう。だから吸収させる魔素の流れを作る。それも大袈裟にな程に」


 覆われたそれは少しづつ変化していき、それに呼応して火の玉も形状が変わっていく。


「流れを作るだけでもいいが、さらに威力を高めたいなら回転させるのが手っ取り早い。そのためにもこれを捻る」


 火の玉は最初の球体から、錐のように鋭利な形状へ。


「あとはこいつを木に当てるだけさ」


 目を開き、木に照準を向けて杖を一捻りしながら突き出す。

速度は僕が打った魔法よりも速く、その威力は直撃した木の一部を消し炭にするモノだった。


「これを俗に貫通魔法と言う。不意打ちならまだしも基本的に人には通じないだろうが、魔獣にはもってこいだろう」


「す、すごい…」


「んー?エバもこれからやるんだ。凄くともなんともない」


 それを習得するまで昼ご飯は抜きにされた。

鬼かと思った。


ーーー


 時間外れの昼ご飯の後にも続け、退治した魔獣は指の数を優に超える。

その間に、杖を使って効率よく魔素を集める方法や、ただ直線に放つのみだけではなく曲線、時間差、留めるなどの応用を身に付けた。


「魔法の基礎の基礎。魔素を感じることは出来てきたようだし、次の段階に行こうか」


 そう言って笑顔でこちらに振り返り、杖を構える。


「打ってきな。お前さんが思い描く最高の魔法を、ただし、その一つ一つにダメ出しするけどね」


「い、いや…人になんて打ったら…」


「んー?お前さんの魔法が人を殺してしまうって?そんなに人間はヤワじゃないよ。魔獣みたいに読みやすい行動パターンの奴なんて少数だし、それすらも隙を作るためのブラフかもしれない」


 笑顔のまま説明しているけど、それって全て…


「…適当ですよね?その言葉。本当は見てるだけじゃ飽きるから自分も一緒に体を動かしたいだけの」


「ほー、良くわかるようになったね。ならさっさと打ってきな」


 お婆さんはニヤリと笑い、杖を持っていない手で挑発してくる。

 こちらの躊躇に対して挑発をする。それに呼応し、最初に思い描いた魔法を放つ。単純な火の玉、球体状のままお婆さん…いや敵の目の前まで飛ばす。そして!


「膨張させるのか弾け飛ばせるんだろ?まぁ、悪くない手じゃないかい?次の手がちゃんと当たるのなら」


 バレるのは時間の問題だったから別にいいとして。次のに繋げれなかったら、今のが無駄になってしまう。

 だからこそ火の玉を膨張させて、煙幕代わりになった所へ貫通型の火属性魔法を放つ。


「膨張させたってことは、本命は同じ属性でなおかつ威力が減少しないために、貫通型のような工夫をしなくてはならない。わかりやすいね」


 煙幕の先から読み切ったと言わんばかりに、お婆さんは杖を上に上げただけで水の壁が顔を出す。

それは解釈を変えれば、前方の視界を奪ったことを意味していて。


「なら、これはどうですか!」


 二発の魔法を放っている間に足で作った大雑把な魔術式へ、即席で作った火の玉を落とす。それは徐々に原型を変え、火とは真反対の蔓となり、地を這いながら敵へ向かう。


「視界を奪った状態の次の手は、身動きを取れなくすること。まぁセオリーだわな?」


 適当な調子で分析する声の後に、こちらの火魔法を防いだ水の壁が、水蒸気に変わったと思ったら火で出来た大きな手のような形状へ素早く変化させ、こちらの蔓を全て握りしめて燃やす。


「んで次は?」


 蔓が燃え尽き、黒煙になったその先からそう問われる。目の前にあった障害であった水壁は消え去り、地面に火の魔法のみが残った。

 なら、押し通せる。


「行けぇ!」


「どんな攻撃をしたのか、解答を見させてもらうよ」


 そう言って僕が放った攻撃を見ようと、敵は風を起こしてわざと解除し、そして視認にする。

生成した総量、百に及ぶ火の攻撃魔法を。


「一つぐらい当たるでしょ!」


 自信満々の答えを、敵は笑顔で答えた。


「論外」


 その言葉と同時に、敵は何もしていないのに僕が放った全ての攻撃は魔素供給が絶たれたように続々と自然消滅し、そこには何も残らなかった。


「まぁ、確かに放出魔法のみ、そう言う縛りなら正解だろう。一つ一つに意味があって、それぞれが相乗効果を与えつつ敵に向かっていく。完成形だろうね」


 …なんか褒めてるけど、僕からすると全て掻き消したことの方が気になって仕方がなかった。


「放出魔法はあくまで放出。つまり自分の管轄外にわざわざ飛ばしている。自由がないなんてそんなの本当に魔法かい?」


 いや魔法習ったの今日ですが??

なんなら今さっきですが??


「自分の魔素と繋げて常に操作する魔法師もいれば、自分の周囲を魔素で覆いどこからでも魔法が打てる魔法師も世の中には存在する。

そして何より、魔法を消失させる魔法師もいる」


「…最後のがそれですか?」


「まぁ、他にも敵の魔法を相性の悪い魔法で衝突させたりするのもあるが、消失のが一番厄介だろうよ。なんせ、どうやったかわからないから」


 確かにわからない。

僕が作った魔法は、どれもちゃんと魔素の流れを固定したまま、お婆さんに向かっていった。

 けど、お婆さんの一言と一緒に霧散する。


「放出魔法にとって、魔素の流れっていうのは重要になる。だからこそ相手が作ったその流れを上書きする」


 …言われてみれば魔法が消滅する瞬間、錐のような形状から球体に変わって膨れたり、四方へと広がったりしていた。そのまま空気に混ざるように消滅したのを思い出す。

 だけど…


「その流れを上書きさせるっていう方法は、なんとなく想像出来ました。だけど、明らかに上書きではなくて掻き消された、いや消滅したようなあれは何ですか?」


 そう疑問を告げたら、少しだけ驚いた顔をしたお婆さんは、すぐさまニヤリ顔でこちらの質問に答える。


「あれはこの魔素の流れを上書きするようなもんさ」


「けどあんな不自然n」


 こちらが反論を言い切るよりも早く、お婆さんは当たり前のように答える。


「わざわざ魔素を魔法へ変換しているんだろ?ならその方程式を上書きしちまえばいい」


 魔法の根底をひっくり返す傲慢不敵な解答に言葉が詰まる。


「魔術とかでの代替器官を用いる方法だって、極論魔素から変換させてるんだろ?全ての起点がわかっているのなら、その過程の流れを上書きすればいい。まぁ、実際にそんなこと出来たのはアタシ以外見たことないがね」


 魔素の流れを変えると言う着眼点なんて利用する人から出てこない。この人は…


「んー?その顔は『この人は魔法にでも恨みがあるのか?』って言いたそうだね。恨みなんてないさ、ただあるのは底抜けの好奇心のみ。それが魔法や魔術の根底であろうと関係なかった。ただそれだけさ」


 相対しながら、すっけらかんとした態度で特段何も考えていないようなそんな適当な返事が返ってきた。

 その時だけ、いつも対等に話していたと思っていたこの人をとても、とても恐ろしく感じた。

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