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Vivid・Memory〜彼らの巡礼譚〜  作者: 末広 オリン
二章「道化師と唐紅の水平線」
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第31話「古都 アルトシュロスへ」


 移動中、アルベルトは相手の本拠地を説明してくれる。


「まだ見えていないが、それはこの大陸が浮かぶ前、フラムシュッドのブローアンやアクノルドのコスタディオ、ゴルフォレ、ヴォルキオが人々によって建設される前からあることが判明してる。地層大好き小僧が調べてたから間違いない」


「調べたということは、本拠地まで行ったんだな?そん時は人がいたのか?」


「いやいない。あん時は、フラシュッドとの境界線付近で戦闘音が聞こえていたからその隙に忍び込んだ」


 その言葉に、ゴドリックが苦虫を噛ま潰したような顔をしている。


「…ちなみにそこはどんな形なの?」


「結構な規模の城だ。この道から本拠地に向かった時に、他の建築物がなかったからわかりやすいはず」


 へぇーという相打ちをしつつ、僕は前衛に配置されたため、普段よりも周りを警戒しながら少しずつ進んでいく。

言葉で表すなら今までの進行の半分ほどの速さで、長く滞在しないギリギリの調整をしている。


 足を進めていく中で、どうしても魔獣が邪魔になる。

寝ていたりこちらに気づいていないのであれば進めるが、バレていたら即時戦闘態勢に映らなくてはならない。

 ほら、今こちらに気づいた虎型の魔物はこっちへ全速力で近づいてきてる。


「戦闘準備!」


「戦闘そのものは最小限に素早くするぞ、もし山に見張がいると死体もまずい。峰打ちか捕縛で少し経ったら何事もなかったようにしたい」


 アルベルトから難題を突きつけられる。

それを前提に状況を見直すと、まず相手の方が速度がある時点で有利は魔獣。ましてや戦闘時の音が周囲に響く大規模な攻撃は行えない。

 さてどうしたものかと悩んでいると、アルベルトは魔術式を即座に展開する。


 アルベルトは魔獣が走ってくる方向から通過するであろう地面を泥濘に変える。それに合わせてゴドリックとジュードは、魔獣の顔面を両挟みする形で拳で殴りつける。

 僕とアルマで大量出血しない程度に傷を付けて、最後は強度を調整した蔓で捕縛。


 それを確認したゴドリックが全員は声を掛ける。


「よし、前に進むぞ!」


 なんとか条件を守り戦闘を終えて、山を目指して前へ進んでいく。その間にも魔獣との戦闘を複数回したが、それでも人が近寄ってこない。

 そんな時、戦闘の跡で歪な地形になった場所が目に入ったのでそれに近寄っていく。


「すごいなこれ、地質そのものが変わってるじゃないか」


 今回見つかったのは、左一面には溶岩がゴポゴポと今も音を立てて、右一面には焼け野原になっている辺り、木を生やして交戦したようだった。

 それらがぶつかり合った交錯地点をマジマジと見ているジュードは驚いている。圧倒的に不利である木が押し切っている事に。


「しかもこの範囲だ。いざ戦闘するとなると厄介極まりない」


 ゴドリックは溶岩の範囲を警戒している。

木であれ、溶岩であれどちらにせよ一度戦闘が始まれば面倒であることは間違いない。

ただ僕としては。


「それよりも一人も接敵しないっておかしくない?」


 テンもおかしいと感じたのかアルベルトに聞いてみると、アルベルトも頷いて同意する。


「あぁ、確かに。防衛するとか巡回するとかそういう発想を持ち合わせてないのかもしれないな」


「それで済むならいいけど、なんか嫌な予感がするような」


 そんなテンの独り言をゴドリックが首を振って否定する。


「かと言ってここで引き返しても、問題の先延ばしだ。進もう」


「わかったよ…」


 その場所から離れて、十分ほど歩くと移動開始時点で最終目標にしていた山が見えてくる。


ーーー


 少し前には姿しか把握できなかった山、その麓まで来た。


「もう山に着いたぞ。この裏だ、奴らの本拠地は」


 アルベルトがそう声を掛けると、みんな緊張しているのか歩く速さが少しだけ早まった。


「久しぶりに感じるな、ほんの少し前に来たことあるのに」


 山を周って裏手まで来ると、そこにはアクノルドの広場で見た聖堂よりも高い城が顔を表す。


「これまたすごい立派だな。建材は石か?うわ、恐ろしく細かい装飾まであるぞ」


 所々が欠損しつつも、崩壊につながる程ではないようだった。

逆にその不安定な姿に偉大さを感じる。


「ここまで人らしい影もないし、山から視線も感じなかった。最悪の場合は、城に全員いること。ここでならまだ間に合う。引き返すか?進むか?」


「撤退に関してはさっきゴドリックが言った通りだ。ここまで来れたなら行こう」


「了解した」


 結論とともに、今まで以上に固まって不気味な城へと警戒して近づいていく。山付近に建っているからか、そもそも本拠地だからか、辺り一面に戦闘の跡が残っている。

 そんな光景を眺めながら歩いていると、いつの間にか空も徐々に曇り始めてきた。


「またこれは随分と…」


 城の入り口前に着くと、その全貌をより正確に把握できた。

やはり戦闘があったのか、原型は留めているものの微妙に空いている玄関から見える内部は装飾品などのほとんど荒らされたように床に散らばっている。


「まだ入るなよ、待ち伏せられていたらまずい」


「なんだろう、あれ」


「テン!危ないから!」


 テンがアルベルトの警告を無視して扉を押し開けて、中には飛び込んでいく。それを追いかけるようにジュードも入って行った。


「…やれやれ、ガキはなんでこんなにも不用心に入り込む…」


「何これ、庭園?」


 残された全員で警戒しながら付いていくと長い廊下が待っていた。どうやらテンたちはこの先へ走っていき、そこに庭のようなものがあるらしい。


 その情報を元に向かうと、廊下が二手に分かれて突き当たりには開けっぱなしの扉がある。

その扉を潜ると、中庭のようになっていて、多くの植物が生えていた。

 近寄って、ゴドリックが調べるも表情は晴れない。


「…フラシュッドにはこんな植物いないぞ」


「あぁ、植物好きな仲間が昔大地で種を育てた物のと姿が同じなこと。アクノルドでもボーデェストでも見たことがないことを合わせると、ここが魔力で満たされる前に植物が育ち切った存在の可能性があるな」


「ここにある全部が?」


「あぁ」


 視界を埋め尽くすほど、所狭しと置かれている多種多様の植物、その全てが魔力を必要とせず水分と日光で成長していたことになる。それは、この大陸そのものが元々は下に存在していたことの証m。



「私の城に何か用ですか?」



 そんな事実を目で見て、頭で理解し始めた時に、植物を挟んだ反対側からやって来る黒いコートを深く被った怪しげな人物が声を掛けてきた。

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