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Vivid・Memory〜彼らの巡礼譚〜  作者: 末広 オリン
二章「道化師と唐紅の水平線」
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第20話「不意の来訪者」


 ジュードの自己紹介前に、またしても邪魔が入る。今度は爆発音でも悲鳴でもなく、何気なく見ていた誰もいない広場。そのど真ん中で何かが歪んでいる。

 その現象を周囲にいる誰も違和感として気づけていない。そのままジュードの自己紹介が終わり、聞いていた人達がザワザワしていたけど、そんなことよりも目の前の現象から目を離せれない。


 この現象は…

魔素を操作した時に起きる空間の歪み。


『君の前では二度目の顕現になるか。だが比率的に初めましてと言った方が良さそうだ』


 歪みが人の輪郭になった瞬間、雑音混じりの声が聞こえた。それも聞いたことがある。

この現象を捉えることが出来なかったら、どこからともなく声がするこの状況は混乱してしまう。そんな周囲を無視して、僕は歪みを睨み続けた。


『初めまして、ここを統括しているケイリー・ノーブルと言う。これからも、より良く生活してくれ』


 足元から頭へ上がっていくように、少しづつ輪郭に色が付く。革靴に麻製のズボンと綿製の軽装、その上にコートを羽織っていて、最後には蒼い短髪を揺らして濃い翠色の目がこちらを見つめる。

彼女は前会った時と全く同じ服装で姿を現した。


『…おや?予測していた反応ではないね。まさか戦闘態勢に移れる人間がフラシュッドにいるなんて思いもしなかった』


 その言葉の真意を知ろうと、僕は周囲を見渡す。大半の人は驚きが勝って唖然としている。その中でゴドリックとジュードが拳を構えて、テンも援護態勢に入った。

 だけど、この人の目的は…


『ボクは本物ではないし、戦闘が目的ではない。言うなれば…そうだな、ご褒美だ』


「褒美、まさか術式の解放のことか?」


 ケイリーが一方的に説明を続けている中、ゴドリックが食いつく。


『そうだ。君が欲しがっていたそれは、ボクとしてもいの一番に現れて欲しかった代物だ。結果としては最後となってしまったが』


 テクテクと広場を歩きながら、言葉の内容とは裏腹に、彼女の声に高揚は無かった。


「なら、介入すればよかったじゃないか」


 ゴドリックが嫌味返しをするも、彼女は無表情のまま意趣返しをするように返答する。


『それのどこが面白い?ボクがわざわざ作ったこの箱庭でなぜ介入しなくてはならない?ましてや、あんな()()()()をしでかして、もうアルヘムの「()()()()()」しかいないこの区域へ』


「……」


 ここにいた全ての人が黙り込み、下を見る。

事情を知らないテンと僕は直接聞くことも出来ずに場を静寂が支配する。


『と、話が脱線したがさっきも言ったようにご褒美をあげにきたんだ』


「ちなみにその褒美ってのは何?」


 ゴドリックから進行役を拝借して、僕はケイリーとの探り合いを仕掛ける。


『四つ』


 端的に指を四本立てて、こちらにずいっと押し出す。


「それは、何が?」


『四つだけ質問を誤魔化さずに答える。どんな質問であっても』


 提案されたのは質問する権利の付与だった。


「なるほど、例えそれが貴方の不利になっても?」


『あぁ、他の区域と差別化してはいけない。そもそもボクがルールを決めてるんだ。そんな事態は発生しないし、あり得ない』


 となると、僕としては彼女が知っているであろうとある情報を聞くことが決定している。問題は、他の人がそれを許容してくれるのか。

 そんな不安を抱えながら、周囲を見渡すと趣旨を理解したゴドリックが問い掛けてくれた。


「なら、さっさと質問を聞くとしよう。順番はどうする?」


 周囲を見渡していると、テンが素早く手を上げた。


「私も一つ聞きたいことがあるんだけど」


「となると、まずはテンからにしよう。今後の首領という威厳のためにも」


 そんな催促をされると、少女は咳払いを一度挟み込んでから質問をした。


「ここから離れる方法はあるの?」


『なるほど、下の集落に帰りたいのか?となると方法は自力で空中を飛ぶ、もしくはこの高度でも地面へ着地が出来るのであれば可能だろう。ただ残念ながらこれその物が着陸することは今後、一切ない』


 その回答を聞きながら、少女は地面を睨みつけ黙り込んだ。


「んじゃ次だが、ジュード。お前からの質問は?」


「そんなの決まっている。この制度、ランキングを無くす方法はあるのか?」


 ゴドリックが仕切ってるからか元々いる人達は特段、異を唱えない。彼がジュードに質問権を渡すと、ジュードも既に決めていたのか質問を投げかける。しかし、彼の声がケイリーのような雑音混じりになっていた。

 そんな疑問について考えていると、ゴドリックがさりげなく目配せをしてくれた。まるで次はお前の番になると言ってくれたように。


『ボクが定めたそれをわざわざ無くすことはないだろう。あるとしたら参加者の自死、もしくはボクの討伐になるだろうな』


 淡々と回答してくるケイリーを睨みながら、ジュードはだろうなと小声で吐き捨て、少しその場から離れた。


「なら次はエバだ。何か聞くことは?」


「アルマは今、どこにいる?」


 それは、一緒に来たはずの少女の現在位置に対してだ。あんだけの大騒ぎで駆けつけないってことはフラシュッドには居ない。ならジュードが言ってた他の区域のどこかにいるはず。


『アルマか。アルマなら、北の「アクノルド」にいるだろうな。ただ、そこにいるというだけだ。生存に関して断言は出来ない』


 含みがある発言だった。

いるのは事実だとして、そこでの生存は不明。信用するしないはそっちの勝手と言いたげな顔だった。


『あ、あと付け加えるなら周囲に人がいるようだ。人伝で聞き込みをすれば詳細がわかると思うが?』


 ほれ、次と催促するように仕切ってるゴドリックへ目線を移し、睨み付ける。それに従うように彼も質問を投げる。


「なら、ここフラシュッド以外の特有術式の詳細を聞かせてもらう」


 その一言にケイリーは少し、眉を顰めて嫌そうな表情のまま小声でブツブツと唱え始めた。


『そういうのは、実際遭遇して楽しむもんなんだが、なんでこうも他の区域の奴も聞きたがるんだろうか。そんなネタバレを踏んでミスリードだった時、この後大変なことになるっていうのが分からないのか?』


 その小声を聞いていたけど何のことか見当がつかず、周囲が困惑し始めたのに気づいたのか。一つ咳をして、声を発する。


『詳細は教えない。明確に答えて仕舞えばここ、テラ・アルカヌムが存在する意義の秘匿化が保持出来なくなる。だが答えないというのもこちらのプライドが許さない』


 額に手を当てて、一本取られたような悔しがる顔を下に向ける。他人から見れば、情報を一方的に所持しているのは彼女なんだし、誤魔化してもバレないのに、律儀な人だなと感じた。


『他の区域と同じように一言で表現しよう。アクノルドは『恩寵』、ボーデェストは『気息』だ。これで推測してくれ、ただ多角的視点によって解釈の相違が生じる一言だと忠告もしておこう』


 そんな心の中での指摘を当然看破し、僕の方へ恨みを込めて睨み付けているように感じた。余程、思考を読まれるのが嫌なようだった。

 そーっと目を背けることで、僕はその場を誤魔化す。


『これだから同族は嫌なんだ』


 チッと鳴った舌打ちがボヤきに聞こえると、話は終わったと言いたげに魔素操作を解き始める。


『まぁ、誰が勝とうとボクとしてはどうでもいい。その副次的効果で既に満たされている。と言うことで後は他の区域の奴らと張り合えるように頑張ってくれ』


 そう言うと、完全に操作が解けたのか。彼女はそもそもここに居なかったように存在を消失させた。


ーーー


「…まさか作成者本人が出てくるとは」


 ゴドリックが顔を空へ向けてそう呟く。

そのまま一度深呼吸をして顔をこちらに向き直し、言葉を続ける。


「ただ、得られた情報はデカい。参考にしつつ、教会の防衛に人員配置計画が立てれる」


 ここに来て、またまた聞いたことない単語を普通に使ってるけど、外からやってきた僕は、今回もトコトン置いてけぼりだ。

 なら催促するしかない。

質問しなければ、ここでは生きていけない。


「教会が何なのかは置いといて、それを何から守るの?」


「この大地には、三つの区域が存在する。

ここ『フラシュッド』、北部に『アクノルド』、西部に『ボーデェスト』。また大地にいる人数は合計で百名。あのケイリーとエバ、テンそれにアルマ?と言う少女を抜いてピッタリ百だ。

 問題はここからだ。

ランキングの話をしたと思うが、十五位まで構成されているのがボーデェスト。中堅の十六位までの五十位で構成されているのがアクノルド、その他の下位五十一位までの百位でフラシュッドが形成されてる」


 勢力図を聞かされ、それとなく戦闘を予想していくがどれもこれも芳しくない。つまり。


「それ、詰んでませんか?」


「あぁ、詰んでる」


 他の区域にも首領が既に存在しているのであれば、こちらは周回遅れということになる。なんならケイリーがここが最後と明言してるから十中八九そうだろう。

だから首領を求めていたと。


「トップが台頭すれば僥倖と思っていたのだがな…聖女の弟子達ってのはどこまでも引っ掻き回したいそうだ」


 ゴドリックはそんな恨み節を空に向けて嘆いた後、長い溜め息と共に額に手を当て、考え事に耽る。


「それは僕を含まれてます?」


 適当にそう投げかけると、チラッとこちらを見て再度長い溜め息を吐く。


「あぁ、ここを作り上げた狂人と並べているよ」


「名誉なのか不名誉なのか分からないので、ここでは怒らないことにしておきます」


 評価として良し悪しがわからず、話を流そうと思っていると僕の背中をテンがぽんぽんと叩き、笑顔で告げる。


「怒って良いと思うよ?」


 テンがそう言ってくれたから、僕はほんのちょっとだけゴドリックに怒ってみた。

二の腕あたりをペチペチ叩いてる時に、話さなきゃならないことを思い出す。


「ちなみに、僕はアルマとの合流を第一目標にしてますから。戦力の一部と考えないほうがいいですよ」


「あぁ、そこは理解している。逆に目的を明確化してもらった方がタダで手伝ってくれるよりもありがたい。ただ」


 含みがある言葉で止めるから、首を傾げると彼はその続きを発言をする。


「いや、テンを助けるためにあそこまで尽力した人物が悪い奴とは思わない」


「それは買い被りすぎじゃない?」


「…そうかもな、ただそんな奴を昔知っていたから」


 チラっとジュードを方を見るゴドリックと、気配に気づいたのか目を逸らすジュード。

二人の間に何かあるんだろうと鈍い僕でも感じ取れた。

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