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09 モノローグ(1)

王太子の語りで、ネタバレ回です。理屈っぽいところは性分です。ご勘弁ください。長くなったので2回に分けました。

 初等部六年で経験した精通(せいつう)は、ビックリだった。だって、突然だったから。木に登っていて、あそこを枝に押し付けたら、ピピって出てしまった。パンツが濡れたけれど、しばらくしたら乾いた。へへっ。女生徒のスカートが風でめくれて真っ白な下履きを目にしたその夜、夢の中でまた出た。なんか、ふわふわっとして、気持ちが良かった。病気なのかと心配になって調べたら、医学の書物に夢精(むせい)と出ていた。あーよかった。男になったのか。もー、最高だ。

 それ以来、自然と女の子を目で追うようになった。もちろん、侍女から母上に報告がいって、一通りのご注意を頂戴した。王太子の相手は、選り取り見取りだから、ガッツクな。これはという娘を選んだら言え。ただし、立場上、以後の変更は認めない。一人を決めたら死ぬまで添い遂げろ。覚悟を持って決断しろ。選び方のコツは、その子の母親を観ることだ。将来の姿だ……てな具合。


 改めて学園中を眺めると、あー、目移りしてしまう。好みの娘がこんなに多いとは、うれひーい。ボカーシアワセダナアー。公爵令嬢がカワイーイ。いやいや、伯爵令嬢の方はツンとすました横顔が何ともソソる。富豪の娘は清楚でセンスが最高! どれでもいいって言われても、あー、迷うなあ。いっそ、ハーレムを作りたい。全部ってことは……。ああ、ダメなのか。国民に示しがつかない。なるほど……。残念。一人だけね。

 じゃあ、じっくり彼女らの母親を見よう。舞踏会に連れてってもらって、物陰から観察する。母上の侍女長が教えてくれる。えっ、あの女性が公爵令嬢の母親かあ。化粧コー、香水がクー。こっちの伯爵夫人は宝石ギラー、贅沢三昧。えっ! 富豪夫人は、こんなにフクヨカなのか。駄目だなこりゃー。選べねー。


 ところで、あの男の人は? シャキッとして背がタカー、カッコいー、父上よりも数段上。へー、宰相補佐なの。将来は宰相を約束されているのかー。えっ、娘がいるの? だれ? あー、うちのクラスのボスザルじゃねーか。もう、サル山の大将。あれやれ、これやれって、うるさいんだ。ぼくら、へへーって、平伏だよ。へー、あんな父親から生まれたんだ。あっ、違うか。父親は種か。じゃあ母親は? 舞踏会には、なかなか出てこないってー。母上の同級生かあ。興味が出てきた。ときどき二人でお茶会してるのか。じゃあ、そのとき教えてよ。陰から観るから……。


 ありゃ、ボスザルもいっしょか。えっ、ボクも同席するの。母上にチクったな。あー、ボスザルが睨んでる。こえー。母親? おお、かっけー。こりゃあボクでも惚れそー。この女の人がいいー、駄目なのかー、残念。えー、あの父親とこの母親の間にできた娘がボスザルなのか。信じられない。ボスザルが大きくなったら、こうなるの? 保証してくれる?

 中等部へ進学したら、あれっ? ボスザル、なんか、シナっと、なってるぞ。今までの威勢の良さはどこに行ったんだ。なんか、女の子らしいというか。はははっ、初めから女の子だよね。いやいや、急にナヨってなってきたんだ。ボクらをドヤしつけなくなったし……。そうか、女の子はこの時期、初潮だよね。ボスザルも女の子になったのか。

 でも、()れれば嚙みつくのは変わらない。皆は「悪役令嬢」って呼ぶ。けれど、ボクには解る。ありゃ、正義感の塊だ。こらえ性がないだけだ。そう考えると、勝気だと知れる。可愛いよね、ベアトリス。ベアトリスかあ。美しい響きだね。

 夜、夢の中に出てきた。ボクを見つめてニコって微笑むんだよ。抱き締めたら、ドバーッて出ちゃった。あれだよあれ。最高だった。


 母に言ってしまった。あの娘がいいって。そしたら、一時の感情に流されては駄目だってさ。貴方の立場は重大なのだ。相手となる娘もそう。国の命運を左右する。じっくり、その気になって観察しなさい。そうね。3年。ただ、その間に他の男の子に横取りされるってこともあるわね。あの娘の両親のところへ行って、待ってもらうように頼んできなさい。まあ、娘の自由を縛ってしまうけれど、選ばれなければ()き遅れになるけれど、それこそ王太子権限よ。我が国の将来がかかっているのだから、あなたには許される。それじゃあ連絡しておくわ。一人で頼みに行ってらっしゃい。土下座でも何でもしなさい。

 ひとこと注意された。宰相補佐は恐妻家で有名だって。それ、カッコいいの?

 内緒でと、お願いしたら、ベアトリスがお茶会で留守の日を指定された。通された客間に、侯爵夫人が一人で待っていた。夫の侯爵は留守だって。「私が判断します」って。あっ、うちと同じだ。

 で、即断即決だった。王太子権限を認めてもらった。


 母上と約束したから、ベアトリスの観察を始めた。もちろん、約束が無くても気になるよね。

 最初の着眼点は、健康だ。実をいうとボクは心臓に影がある。秘密になっているが、不治の病っていう奴だ。父上も病気がちだから遺伝かもしれない。元気一杯は羨ましい。彼女を初等部時代から知っている。運動神経が抜群で体力もピカイチだ。早熟(ませ)た考え方をすれば、身体が頑強な子どもを産んでくれるということ。

 ボスザルとして培ったリーダーシップも垂涎モノだし、発想が柔軟で、正しいことへの執念が強く、相手を裏切らない性癖も魅力的だ。真摯に勉学に打ち込む姿勢は健気(けなげ)だ。

 この思いは、コーネリアス元宰相の下で共に学ぶ中で、さらに強くなった。

 ベアトリスとなら生きていける。信頼関係を築けると確信した。約束の三年が過ぎたときに正式に婚約してもらった。


 そう、婚約はしたのだけれど、どうも上手くいかない。学園での会話でも、月イチのお茶会でも全く振り向いてくれる気配が見えないのだ。そこで父上に「母上を篭絡したコツを伝授してください」とお願いした。そしたら、祖父からの秘伝だという奥の手を教えてくれた。

 それは、香水だ。一般的には女性が用いるものとされているけれど、それは匂いに対する感受性が強いからに他ならない。自分で楽しむためにつけるのだ。で、男がつけると、女性が寄ってくるという。生き物のフェロモンだな。ただ、難しいのは、一人一人の女性には好みがあって、個人的な好き嫌いがあるということ。そこで、国一番の調香師に頼むこととした。いくつか候補を提供してもらって、定例のお茶会で試した。ほとんど何の反応も無かったけれど、一つだけベアトリスが妙な動きをしたものがあった。キョロキョロと辺りを見回したり、テーブルの下を覗くのだ。それがベルガモットだった。

 調香師の言うには、会うときに耳たぶに僅かに付けろ。直ぐには効かないから、付け続けろ。そうすれば匂いとボクのイメージが結びついて、彼女の心身に沁みついていく。

 母上での結果はどうだったのかと問うと、国家機密だと笑ってごまかされた。結果を見れば判る。バッチリだったのだ。

 ボクは、この香りを他の男に使われたくないから、あらん限りの数を買い占めた。まあ、全部は無理だよね。まあ、気持ちの問題だ。そして、付け続けた。で、おかしいのだが、もう、香水をつけるのが日々のルーティーンとなって、意識しないで付けるようになってしまった。慢性病だね。

香水の蘊蓄は妄想です。「ボカーシアワセダナー」は加山雄三でしたか。

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