14 それぞれの秘密
アルフレッドが取り立てた四天王は大活躍だった。1か月も経たずに隣国は平和を取り戻すことが出来た。ソフィア王女が女王に即位し、弟のコーネリアスはその夫、王配となった。我が父母は、弟の近くで暮らしたいと移住した。弟は一部から恨みの的になっているので、それを護る意味があるようだ。
私にも、落ち着いた日々が訪れた。子ども三人を育てる忙しい毎日でもある。
国民の間で私のイメージは、夫を腹上死させた妖艶な美女だ。へへっ! 美女よ、ビジョ、美しい女なのよ。そう、歳の割りに若く見えるというのが、もっぱらの評判だ。皆は勘繰っている。若いツバメを飼っていて、鋭気を吸い取っているのだとか。はたまた、独身のアンドレか、ライアンが夜な夜な訪れているとか。ははっ、それは無い。あの二人は、祖父の模擬御前会議の頃から“あっち”の関係なのだ。もう一つの噂は、侍女のナターシャさんとだ。百合っていうことね。
どれも違う。けれど、相手は確かにいる。
私は今でも夫婦の寝室で、あのキングサイズのベッドを使っている。月に1度か2度、寂しくなると、大きなガウンを持ち出して、ベッドに被せる。そして、その中にもぐり込む。秘密はガウンが夫のもので、襟に香水を垂らすこと。愛用していたベルガモットだ。夫の死後、机の引き出しの中にビッシリと瓶が並んでいてビックリした。まあ、一生使っても使いきれない量だ。
香水の効果で、すぐに眠りにつく。そして、夢の中で夫と絡みあう。
今、思い出すと、新婚当時の私は、夫を逝かせることと、自らが孕むという目的だけを考えていた。今は違う。あの“夜這い”された一夜のように、快楽を求める。実際の和合いよりも、夢イキの方が遥かにいいのだ。ああっ、本当は私、真正の悪役令嬢なのかもしれない。
昨夜は久しぶりだったので、激しかった。表から突かれた後に、ひっくり返されて裏からも突っ込まれた。もう下履きはグチョグチョだ。朝チュンを聴きながら目が覚めると、それを紙袋に入れて屑籠に捨てる。新しいものを履いたら、寝床に再び、潜り込んだ。朝食も摂らずに二度寝である。
あっ、ナターシャさんが入ってきた。寝床の中からぼんやりと薄目を開けて、彼女の行動を追う。いっ? 屑籠から紙袋を拾い上げた。それ、どうするの? そのまま夫の執務室へ移動していく。私の秘密なのよ、それ……。
一瞬にして目が覚めて、ベッドから起き出す。抜き足差し足、彼女のあとを追う。扉の隙間から、様子をうかがう。
特大の書棚から厚い本を引っ張り出した。ぽっかり空いた空洞に手を突っ込んで何かを引いた。うっ! 書棚がギギーと動いた。出来た隙間に身を入れていく……。しばらくすると戻ってきた。手にしていた紙袋は消えている。書棚が閉まり始める。直ぐに自室に戻り寝た振りをする。ナターシャさんは出て行った。
時間を十分に取ってから起き出す。夫の執務室に入り、書棚に手を掛ける。
その先に目にしたものは……。ううっ! 壁一面に設けられた引き出しだ。数字を書いた紙が貼ってある。たぶん、日付だろう。最新の今朝のものを引き出す。
ええええっ! 入っている。入っているではないか。捨てた下履きが丁寧に拡げられて、乾燥剤まで添えられている。なになに、紙切れに何か書いてある。
「〇年〇月〇日〇時〇分ご就寝。〇時〇分に仰向けで嬌声を挙げられる。〇時〇分にうつ伏せとなり再び嬌声。〇時〇分ご起床。下履きの重量増〇グラム……」
な、な、なんだ、これ。事細かに……。どこで見ていたんだ?
ほかは、どうだ。あちゃあー。少女だった初潮時の下履きだ。シミがある。あああっ、こっちは、あの日の夢イキだ。……ということは、両親もグルだったのか。こちらは、噛んで潰したストローと、紅を拭き取った紙ナプキン……。あの義務だった顔合わせだ。シミ跡のあるハンカチーフにマスカラ……。これは卒業記念舞踏会。大きなシーツが2枚で、1枚にはシミが……。初夜とその翌日かあ。
他にも、切った爪とか、切り捨てた髪の毛、書き損じた手紙等々、細々としたものが、整然と保存されている。
なんだこれ……。夫か? ナターシャさんが引き継いだのかあ。もう、どうでもいいや。好きなようにしてくれ。
◆
息子のロバート国王がそろそろ18歳の誕生日を迎え、成人となる。そして私は、摂政としての役目を終える。独り身となっていた義母である前の王太后に相談したら、離宮で一緒に住もうといわれた。
ナターシャさんに自身の身の振り方を確認すると、お供するという。例の引き出しのことは知らんぷりをして、夫との3部屋をそのまま移してくれるように頼んだ。もちろん、作業は大工さんたちで、彼女は指示をしてということだからね。たぶん、何食わぬ顔で、コレクションを続けることになるのだろう。こんなことに国費を掛けてもいいのかと疑問が無いでもないが、今までの労力を考えると、むやみに否定はできない。私とナターシャさんの寿命が尽きた後のことは分からない。
ううむ。千年後、二千年後に、学者がこれを発見して何だと思うかな。私のアレの記録だなんて想像できないよね。エジプトのピラミッドだって、案外、こんなものかもしれない。
-完-
戦争シーンや子ども達の成長過程を細々(こまごま)と綴っていたのですが、大筋に関係ないので省きました。いつまでたっても完結しないような気がしたものですから……。
添付のイラストは、SeaArtによってAI自動生成されたものです。ティアラを付けたままの就寝は変ですね。
今回で完結しました。お読みいただきありがとうございました。
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