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12 御前会議

 そして1か月後、我が国のこの状況をあざ笑う大事件が起こった。

 隣国ヴェストで内乱が勃発したのだ。反乱軍が王城に攻め入り、王族の安否は不明との第1報が入った。守旧派貴族が徒党を組んのだ。我がイステン王国の国王が亡くなり、ヴェスト王国改革の後ろ盾が消えたと判断したのだろう。我が国が敷いていた諜報網が掴み切れない早さで事が進んだのだ。積年の恨みがどっと噴出したかのようだ。

 続報が入る。ほとんどの王族が命を奪われ、唯一、末っ子の王女ソフィアが逃れた。我が弟のコーネリアスが付き従ってアレシア城に入った。逃避行中に発したという救援要請が届いた。さらに、国家の正規軍は国王と司令官を失って瓦解した。一方、貴族の私兵を中心とした反乱軍は、王城を占拠するとともに、アレシア城を包囲した。また我が国との国境地帯に兵を集めつつある等々。


 御前会議が招集された。宰相のアンドレが口火を切る。


「緊急時につき、両議会を開催している暇がありません。王国憲法第104条の定めに基づき御前会議を執り行いします。出席者は、国王の代理人であらせられる王太后陛下、宰相である私、内務卿、財務卿、貴族議会議長、平民議会議長、国軍総司令官、国教大司教です。裁可は陛下が下されます。進行は私が担当します。発言内容は逐一記録されます。では、状況と我が国の対応を説明します」


 要は、ソフィア王女を国家の代表者と見做して、その支援要請に応える。先ごろ締結した教育援助条約に『いかなる障害に対しても支援を惜しまない』とある一文を拡大解釈する。歩兵大隊を隣国国内へ進軍させる、という少々乱暴な論法だ。明白ではない事柄は、誰かが決断の責任を取らなければならない。

 国軍総司令官のウォルター将軍が補足する。


「我が歩兵大隊は一旦、国境で反乱軍と対峙し、隣国正規軍の再結成を待って、これを挟殺します」


 アレシア城には一切、言及してくれない。弟のことが気になる。訊ねたい……と我慢していて、ふと、祖父の前での模擬“御前会議”を思い出す。アルフレッドが無言を貫いていた件だ。そうか、ここで疑問を口にしてしまえば、ウォルターの戦略に影響してしまう……。なるほど、彼は意味があって沈黙していたのか。大司教が発言する。


「我が軍のこの派兵は、両国に安寧をもたらす目的のもの。無用な殺傷を極力避けるように願いたい。進駐軍による乱暴狼藉や略奪が起こらぬよう徹底していただきたい。彼の国の宗教関係者とは良好な関係を築いている。根回しは任せてほしい」


「軍規律のこと、ご忠告痛み入ります。再度徹底します。なお、飛び道具では、指揮官の手足を狙えと指示しています。生け捕って裁判にかけるつもりです。兵隊は武装解除後、出身地までの食料と路銀を持たせて解放します」


「内乱平定後の計画はどうなっていますか」


「従来より隣国改革の指揮を執ってきた私、内務卿であるライアンが総督として赴任し、5年を目途に政治体制を立て直す予定です。議会は一院制とし、我が国のような貴族議会は設けません。改革の立案施行に携わるメンバーは既に養成済みです。平定後、速やかに業務を開始します。その後は、教育制度の定着に重点を置きます。しばらくすれば隣国民の間でも人材が育ってくることでしょう。まあ十年、二十年でサマになれば御の字というほどの覚悟です。

 隣国国民の反感を買わないように細心の注意を払いますが、ナショナリズムの台頭や不穏分子の噴出を完全に防ぐことは不可能です。これらを抑えるために諜報網をさらに強化します。もちろん、行き過ぎが起きないように徹底します」


「費用については、予備費を充当しますが、短期的には足りません。周辺国から戦費外債引き受けの打診が来ています。我が国の通貨建てを希望していますので、当方の為替高騰を狙ってのことと思われます。まあ、甘い汁を少し吸わせてやるつもりです。戦後に貿易が軌道に乗れば、すぐに償還できると考えています」


「みなさん、ほかに意見はありますか。

 それでは、陛下に王国軍派遣を奏上します」


 全員の顔を見渡して、了解と解釈した。


「分かりました。それで進めてください」


「裁可が下されました。即刻、書面にまとめ、陛下の御名御璽、ならびに列席者の副署名を頂きに上がります」


「ご苦労様でした。以後、よろしく頼みます」


 ぐえっ、こりゃあ肩が凝るわ。かつてアルフレッドが呑気に『処刑されてもいい』と述べた言に隠されていた覚悟を悟る。退出しようとすると、アンドレとウォルターに隣室へ導かれた。

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