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11 運命のいたずら

 国王、すなわち我が夫が主導して、平民議会が創設された。議員は選挙で選ばれる。議長にはグスタフが着いた。婚約破棄騒動で告発者だった一人だ。彼ら三人とアンドレは、アルフレッド王の四天王と呼ばれている。国王自体は表舞台から一歩も二歩も引いて、お飾りになりつつある。理由は、「君との時間を楽しむためさ」とウソブいている。はははっ、存外、本音かもしれない。


 その国王が隣国ヴェストへ外交に出かけた。

 隣国々民の識字率を上げる政策を採用してくれ、という交渉だ。我が国は昔から教育に力を入れていて、6歳から15歳までを義務教育とし、識字率はほぼ百パーセントだ。それに引き換え隣国は、30パーセントに過ぎない。貴族と一部の富裕平民のみなのだ。我が国としては、それが政治の不安定さを内在化させているという認識だ。それと、国力が低レベルのままでは、虎視眈々と狙っている周囲の強国に付け入る隙を与えてしまう。食料の大半を頼っている隣国なのだ。その政情の安定化は必須だ。その基礎として学校制度の導入を長年、働け掛けてきた。もちろん、その必要性は彼の国でも一部では認識されている。けれど、大部分の特権階級は、自分たちの優位性が失われるという意識が強く、どうしても踏み切ることができなかった。

 ヴェスト王国の官吏となった我が弟のコーネリアスが熱心に説いたことで、彼の国の国王もその気になり、我が国の援助の下に開始しようという機運が出てきた。議会さえ存在しないので、有力貴族を説得するのに手間取ったけれど、なんとか条約が締結された。

 夫は意気揚々と帰国した。二か月ぶりである。同道したのは宰相のアンドレだ。本来なら隣国担当のライアンなのだが、今回は平民崩れと(そし)られることを恐れた結果だ。このあたり、我が国の連中は慎重のうえにも慎重だ。ライアンは留守を護った。


         ◆


 あちらの王都からここまで、馬車で1週間を要する。私は、夫に旅の疲れを癒してほしかった。でも、溜まりに溜まっていて、堪えられないと言い出した。仕方がない。到着の慰労会が終わった後、身体を清めて寝室で待った。夫は満面の笑みで入ってきた。こりゃあ、重症だわ。そう感じた。

 いつもなら愛撫は丁寧に段階を踏むのに、ところどころを、すっ飛ばす。まあ、こちらも久しぶりだから、サービスにつとめる。

 臨界点に達したか、と思った、そのときだった。


 突然、夫の動きが止まった。私に身を預けたまま微動だにしない。何が起きた? 非常事態だ。


「だれかー」


 私は、あらん限りの大声を張り上げた。仰向けに寝かせて、口と心臓に耳をあてがう。だめだ。記憶を頼りに心臓マッサージと人工呼吸を始めた。ナターシャさんが飛んできた。


「お医者様を! アンドレを呼んで!」


 直ぐに御殿医と看護師が駆けつけて、処置を代わってくれる。


 どのくらい時間が経ったろうか。私に向けられた顔が右に左に振られた。いつの間にか肩にローブが掛かっていた。ああ、我々二人は真っ裸だった。後方には宰相のアンドレが立っていた。


 彼に別室への移動を促された。長椅子に腰掛けて、説明を受けた。若い頃から持病があったこと。私には知らせないように厳命されていたことを聞いた。

 そして、これからのことを冷酷に告げられる。夜が明けたら、長男ロバートの王位継承の儀を執り行う。新国王が5歳と幼いので、私が後見人たる摂政に就任するという。その後は、前国王の葬儀、さらに新国王の即位式と続く。私に涙を流す暇なぞ無いようだ。

 もちろん、真の死因は秘され、長旅の疲れから心肺が衰弱してと発表された。腹上死であることは、関係者が漏洩しなくても噂になって拡散していくに違いない。


挿絵(By みてみん)

心臓麻痺の描写は想像です。イラスト画像は、SeaArtによりAI自動生成されたものです。


お読みいただきありがとうございます。

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