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10 モノローグ(2)

 我々の国の名を、イステン王国という。

 国土に耕作適地が少ないという欠陥がある。そのうえに、大部分を占める山地からも、これといった資源が産出しない。そんな逆境を跳ね返すべく、古来より教育に力を入れてきた。いうなれば、国民が資産ということだ。みんなの創意工夫で国力を高めるという方針を採っている。資源を輸入して、手を加え、輸出するという、いわゆる加工貿易で成り立っている。それもあって、外国の動向を常に注視して、制度を頻繁に変えるなど、変幻自在の風潮がまかり通る国となっている。


 祖父の代では、貴族階層の思惑を国政に反映させるために貴族議会を発足させた。それを父上が一歩進めて、平民議会を設けるべく画策したのだけれど、上手くいかなかった。グレーグ侯爵家のコーネリアス宰相と組んで画策したのだが一進一退。そりゃあ、意識の壁は厚い。みんなの賛同を得るには時間が掛かる。次代のボクで何とか実現してほしいというのが父上の考えだった。

 その学習のため、中等部二年のときに元宰相の下へ通わされた。平たくいうと、帝王学の履修ということ。会議の主催の仕方から、立場の異なる者同士の議論の進め方を実地に経験した。中にベアトリスを加えてもらった。女性の考え方は目からウロコだった。貴族と平民の考え方の違いも驚きだった。ボクが発言しなかった理由は、父上の御前会議を見学させてもらった結果だ。上に立つ人間の言葉は、方向性を与えてしまう。その場では影響が無くても次で反映する。いわゆる忖度(そんたく)という奴だ。こういう点も元宰相に教えてもらった。

 我が国の基本方針は次の4点だ。国の政治は国民の総意に基づくべきである。多数決は議論と配慮を伴うべきである。外国の事例から学ぶべきである。国王は飾りであり、各部署の責任者が力を発揮するべきである。

 “べき”ばっかりだね。ということは、これは一つの考え方であって、絶対ではないということ。バカな振りは、国王なんかに頼るな、ということ。ボクも楽が出来るしね。


 それに対し大きな問題が、西のヴェスト王国だ。山脈を挟んだ向こうに平地が拡がっていて、農業生産力が高い。我が国は食料を大きく依存している。

 物資が豊かだから、考え方が根本的に異なる。社会構成が、支配者の貴族と、生産者である平民との間で身分が固定化している。貴族は既得権益を失いたくないという意識が強い。考え方を変えようとしない。保守的なのだ。そして、我がイステン王国が平等主義に走ることを良しとしない。自国の平民が(うらや)むのが困る。由らしむべし知らしむべからず……というわけだ。手を変え品を変えて妨害してくる。武力侵攻に手を染めたことも一度や二度ではない。我が国は、その対策として、間諜を大量に放って動向を随時監視しているし、武力衝突への備えも怠らない。

 元宰相の孫のコーネリアスの役目は、ヴェスト王国を変革する方策を探ることだった。


         ◆


 ベアトリスと婚約して二年が経った頃、恐れていた事態が起きた。国内の武器の流通が異常な動きを見せたのだ。ヴェスト王国に繋がる守旧派貴族が反乱を企てているようだというところまでは突き止めた。ただ、首謀者が判らない。炙り出すために一芝居を打つことにした。それが婚約破棄劇だ。彼女には辛い思いをさせてしまったが、迫真性を持たすために知らせるわけにはいかない。ご両親にはフォローを頼んだ。

 1回目はわずかな反応しか見せなかったが、2回目で大きく動いた。告発者に平民を立てたことが連中の自尊心を刺激したのだろう。おかしな動きをする生徒をマークして、首魁にたどり着いた。もちろん、証拠を固めて裁判の後、極刑に処した。きっかけとなった婚約破棄劇との関連は伏せた。

 この騒動でハッキリしたことがある。平民の能力だ。貴族にも同じように、「婚約を破棄するための告発をせよ」と命じていたにもかかわらず、枝葉末節の事柄しか取り上げなかった。平民三人には、ベアトリスが王太子妃になってほしいというバイアスが掛かっていたにしてもだ。


 もう一つ、個人的な意図があった。それはベアトリスにボクを振り向いてほしいという願望だ。そりゃあ、何があっても手に入れるつもりだけれど、向こうもその気になってくれれば言うことは無い。そこで、感情を揺さぶろうというわけだ。でも、上手くいかない。例の香水作戦もイマイチだった。

 小説に倣って、乳母の娘である男爵令嬢のナターシャに当て馬を頼んだら、速攻で断られた。なんでも、ベアトリスに窮地を救ってもらったことがあるらしい。彼女を不安にさせる行動など論外だという。では、傍に控えるだけでいいからと頼んだ。まあ、これは周囲の連中の想像を期待というだけになった。


 1回目のとき、彼女が寝入った頃合いを見計らって侯爵邸を訪問したら、ご両親から「大丈夫だ」と太鼓判を押してもらった。夫人に頼んで、私室の扉をわずかに開けて寝顔を拝んだ。

 2回目のときは、大胆にもベッドの脇でしばらく過ごさせてもらった。こんな日なのに寝ている。こりゃあ大物だ。ボクの目に狂いはなかった。小さな声で「ごめんね」と謝った。夫人が「襲っても起きないわよ」なんていうものだから、ムラっときたが、必死に耐えた。ただ、夫人の隙をみて、ほんの一瞬、クチビルを重ねてみた。


 城に帰って床に就くと、すぐに眠りに落ちた。ベアトリスに触れたことで満足したのだと思う。そして夢の中で、(むつ)みあった。ベアトリスも歓喜のテイだった。ああーあ、我が世の春だ。

背景の舞台装置がちょっと大袈裟ですね。辻褄を合わせようと連想に連想を重ねたら、こんな風になってしまいました。必然性に欠けて練りの足りない点はご勘弁ください。まったくもって竜頭蛇尾です。


お読みいただきありがとうございます。

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