⑥喧嘩別れ!?
下校途中、バスの中でヨシアくんが「バスケ部に入らないか?」と誘ってきた。同じバスケ部員なら男女違えども体育館で話しやすいからだ。
ろいこは乗り気だったが私は気分が乗らなかった。
ヨシアくんに「もっと勉強しようぜ」と煽られたのを気にしている。
異性との付き合いもそもそも今までそんなに無かった。だからアレはちょっとムッときた。ろいこに同じことを言われても受け入れられただろうけど。
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公園に着くと、おもむろに丸いバッグからボールを取り出し、ダンクをするヨシアくん。
相変わらず豪快だ。
今日はあの小学生チームはいないようだが、生意気ボーイの子が見てたら「チッキショー!」と小梅太夫みたいに悔しがるんだろうなあ。
呼木さんがやってきた。
「どこに行ってたんですか?」
私は気になったので聞いてみた。
「いや、散歩ですよ。ホームレスの身ですから、まあ色々と、ね」
バツが悪そうにする呼木。それもそうである。
めりいは臆面もなくホームレスに「今まで何してたんだ?」と聞けるほど遠慮がない。天然の賜物というべきか。
「あっそうだ!しんやく?ってなんすか?」
ろいこが呼木さんに質問した。
「新約聖書のことかな?」
「あっそうそう。電車の中でそれ持ってる人いたの」
「聖書はね、旧約聖書と新約聖書ってあってね、旧約聖書はこの世界が作られた話からイエス様のご誕生前までの話で、新約聖書はイエス様がお生まれになってから世界の終わりの話まで記されてるんだ」
「旧約というのは『旧い(ふるい)契約』のこと。神さまが愛したイスラエルの民が守っていた契約だね。で新約というのは『新しい契約』。イエスさまが旧い約束と違う新しい契約を作られたんだ」
そんな事も知らねーのかよ。という風な顔でろいこの方を見るヨシアくん。むきーっ!ろいこをバカにするな!勉強して見返すぞ!
解説するときは友達口調に戻る呼木さん。やはりその方が話しやすいのだろう。
「イエスさまって誰なん?」
「神さまの子どもで、この世界の救い主だよ。
キリスト(救世主)と呼ばれているね。イエス・キリストが聖書において重要な、分岐点になってるんだよ」
「歴史のターニングポイントにもなっているよな。B・C(Before Christ)、A・D(Anno Domini)って。イエスが生まれた年を0として紀元前、紀元後ってな」
ろいこは頭がショートしているのだろうか。ちょっとチンプンカンプンな顔をしていた。
「聖書を分かりやすく理解してもらうために、順を追って話していこうか」
「いや、それじゃ長くなるよジーサン」
「俺はもっと深いところの話をしたいな」
「そうかな?とりあえずめりいちゃんとろいこちゃんのために最初から話すのがいいかと思って・・・」
「じゃあ俺はバスケの練習してるよ。2人とも頑張ってな」
ヨシアくんは神主の子なのになんである程度聖書の事を知っているのだろうか?本人に聞いてみた。
「YouTubeと図書室の本だよ。今の時代調べればなんでも出てくるしな。
キリスト教に興味あるってより、商売敵だからある程度知っておこうと思ってな」
「敵!?」
「俺の親父の親父、つまり祖父だな。むかしキリスト教の人たちと喧嘩したんだってさ。それを親父は小さい頃に見ていたからキリスト教に対しては良いイメージ持ってないんだ」
「けれども俺は違う。他の宗教の価値観を知って、もっと広い視点で世界を見たいんだ。コービー・ブライアントみたいな、すげえNBAプレイヤーになりてえからな」
「コービー・ブライアント?」
「偉大なバスケ選手だよ。それも知らねーのか、めりい」
堪忍袋の緒が切れた。
「もうなんなの!」
「な、なんだよ。いきなりキレやがって」
「もう頭にきた!ヨシアの知らないことを知って見返してやるんだから!」「失礼します!」
めりいはヅカヅカと足早に帰ってった。
ポカーンとしているろいこ。
「・・・・追いかけねーのかよ?」
「ハッ!いや、いいや。ああなると怖いよめりいは」
「どうして?」
「前にも中2のとき、私がバカバカ言ったらあーやってキレてさ、1週間ぐらい口聞いてくれなかったなー」
「子供かよ」
「で、数学のテストになったら見返してやるとばかりにアタシより良い点取ったんだよね。アタシが22点、めりいが34点」
「ドングリの背比べじゃねーか!」
「まあ見ててよ。ウチのめりいは怒ると怖いよ?1週間ぐらいは話せないしね」
「へーえ?でも俺悪くなくね?」
「あの、ボクを忘れないで……」
呼木が自分の胸に人差し指を指し、自分の存在をアピールした。
続く。
聖書のストーリーを調べる際、ネットで調べると色んなサイトとか動画が出てきますよね。
調べものをするときはくれぐれもデマには気をつけましょう。
次回、めりいの独学編です。