51クリスマス編「クリスマス当日」
朝の空気は澄みきっていた。
クリスマス当日。
はれるや教会の鐘が、小さく鳴る。
早朝のロビーには、来訪者がいた。
八百神主だった。
はれるや牧師が丁寧に迎える。
「ようこそ」
「……話があると聞きました」
二人は奥の応接室へ入る。
静かな部屋。
八百神主はまっすぐ言った。
「パウロ牧師の件です」
空気が張りつめる。
はれるや牧師はゆっくり頷いた。
「ええ」
「なぜ、あの人は、あそこまで……」
言葉が止まる。
かつて、地域の祭礼を巡って対立があった。
神社と教会。
意見はぶつかり、感情も荒れた。
はれるや牧師は静かに語る。
「パウロ先生は、対立した神主さんを愛そうとしておられたようです」
八百神主の目が揺れる。
「……愛?」
「はい。
“勝つ”のではなく、“分かり合う”道を探していた。
ですが、その思いは十分に伝わらなかった」
八百は拳を握る。
「──あの時……私は、幼かった。それを知っていたら、父を諭せたかもしれません」
「過ぎたことです。気に病むことはありません」
沈黙。
「先生は、最後まであなた方のために祈っておられました」
八百神主は目を閉じる。
「……そう、ですか」
それ以上、言葉はなかった。
だが、部屋の空気は、少しだけ柔らいでいた。
礼拝が始まる。
今日は特別な日。
洗礼式。
白いガウンを着た、めりいが立っている。
少し緊張している。
最前列には、ろいこ。
その隣にヨシア。
少し後ろに、らむとモーセ。
はれるや牧師が問いかける。
「あなたは、イエス・キリストを救い主と信じますか」
めりいは、一瞬だけ目を閉じる。
呼木さんと聖書の出会い。
ヨシアとの確執。
ABCキャンプ。
チラシ配り。
らむとの出会い。
モーセの葛藤。
デボラの歌。
呼木の涙。
───全部が、胸を通る。
「……はい。信じます」
はっきりと言った。
めりいはぬるま湯に沈められる。
一瞬苦しいけど、それだけ。
大きな拍手。
めりいの胸に、熱い鼓動が脈打った。
式が終わったあと。
ろいこが腕を組んで近づく。
「なんかさ」
「なに」
「我が子を見るような気分だったよ……」
「誰がママじゃ!」
会堂に笑いが広がる。
ヨシアが照れくさそうに言う。
「貴重な体験だったぜ。
教会誘ってくれてありがとうな。2人とも」
ろいこは少し驚く。
「別に、私誘ってないし」
「でも、いなかったら来てねーよ」
ヨシアは真顔だった。
外に出ると、淡い光。
八百神主が立っている。
めりいと目が合う。
「……おめでとう」
短く、それだけ言った。
めりいは深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
遠くで、はれるや牧師が静かに見守っている。
空には冬の太陽。
めりいは思う。
(ヒツジは夢を見る)
でも今日は違う。
夢じゃない。
水はぬるかった。
声は震えた。
でも、確かだった。
神さまは、遠くじゃなかった。
今日、近くなった。
続く⋯
私自身、洗礼を受けたときのことを思い出しました。
浴槽に沈められるんですよね。いまはぬるま湯ですが、昔は川で洗礼式が行われていたようです。




