㊾クリスマス編「クリスマスコンサート開催前」
十二月の風は、もう冬の匂いだった。
はれるや教会の前には、小さなモミの木。
ろいこがぶら下げたオーナメントが、少し傾いている。
「それ曲がってる」
「わざとだし」
「絶対うそ」
めりいが直そうとすると、背後から声がした。
「……今日もやってんだ」
振り向くと、らむがいた。
黒いマフラーを巻いて、両手をポケットに突っ込んでいる。
その隣には、少し距離を取るように立つモーセ。
「こんにちは」
モーセは相変わらず丁寧だ。
「二人とも来たんだ!」
めりいが顔をほころばせる。
「まあね。どうせ暇だし」
「クリスマスコンサートの準備って聞いたから」
モーセは教会の看板を見る。
《Christmas Concert 12/24》
その文字を、少し長く見つめていた。
ロビーに入ると、温かい空気に包まれる。
アンジェラさんがクッキーを並べている。
奥でははれるや牧師が脚立に乗って電飾をつけていた。
「らむくん、モーセくん。よく来ましたね」
「どうも……」
らむはまだ少しぎこちない。
でも、前みたいに“敵地”に来た顔はしていない。
ソファに座って、四人でココアを飲む。
「でさ、クリスマスって実際なに祝ってんの?」
らむが聞く。
「イエス様の誕生日だよ」
めりいが即答。
ろいこが補足する。
「正確な日付は違うって説もあるけどね」
「なんかさ」
らむはマグカップを見つめる。
「誕生日祝うってさ、祝われる側がいないと意味なくね?」
「いるじゃん」
めりいは言う。
「目に見えないだけで」
「便利だな、それ」
「でもさ」
モーセが静かに言った。
「“神が人になる”っていう考え方、すごいよね。
うちではそういう教えはないから……」
少し、言葉を選ぶように続ける。
「でも、もし本当に神が人間になったなら……
それって、距離が近いってことじゃない?」
空気が少し変わる。
ろいこが、ちらっとモーセを見る。
「近い神、か」
「うん。
祈るとき、遠くの王様じゃなくて、
隣に座ってくれる存在なら……」
モーセはそれ以上言わなかった。
「らむちゃん、最近さ」
めりいが横から言う。
「前より柔らかくなったよね」
「え?」
「なんか、話すときのトゲが減った」
「それ、悪口?」
「褒めてんの」
めりいが笑う。
「教会ってさ、別に改宗させる工場じゃないからね」
ろいこがぽつりと言う。
「来たい人が来て、帰りたい人は帰る。
でも、来たらちょっとだけ温かい。
それでいいんじゃない」
らむは黙ってうなずいた。
奥の会堂から、ピアノの音が聞こえる。
クリスマス曲の練習。
♪ きよしこの夜
めりいが立ち上がる。
「ねえ、コンサートさ。
二人も来る?」
らむは少し考えてから言った。
「……来るよ」
モーセも続ける。
「僕も」
その返事は、前より迷いがなかった。
窓の外には、小さな雪。
めりいはふと思う。
(チラシ一枚だったのに)
(こんなふうに、一緒にココア飲んでる)
夢みたいだ、と。
でもこれは夢じゃない。
静かに始まっている、何かの物語。




