㉜ABCキャンプ編:アガペーの灯火を全世界へ
「今日は少し深刻な話をします」
ヘビゴロウ先生、最終日のP&G(Pray&Gospel)はそのひと言からはじまった。
「日本の自殺問題についてです」
周りがざわつく。
「日本では多くの若者が自分で死を選んでいます」
「自殺対策支援センター ライフリンクに拠ると、日本人の90人が毎日自殺し、1000人が自殺をはかっているそうです」
「年間にすると約3万5000人が亡くなっているそうです。いまこうして話している瞬間にも、誰か自殺しているのです」
「実に嘆かわしいことです。生きていればまだまだ楽しいことがたくさんあるのに!」
絵本ちゃんが苦しそうな顔をした。私はそっと絵本ちゃんの背中をさすってあげた。
「皆さん、いくらこの世が苦しくても、死を選んではいけません。死は恐ろしいものです」
「自分から死を選んだなら、どんなに悲しいことでしょうか」
「聖書でも、①ソロモン王や②エリヤなどが自殺しようとしています。
ソロモン王はこの世のあらゆるものを手に入れた末の虚しさから、エリヤは悪王アハブに勝利した末に、その妻イゼベルに殺されそうになり、今までもう闘ったから、神さまもう私を死なせてくださいという諦めからでした。
しかし、神さまは2人を生かしました」
「私の場合、死にたくなったら育ててるヘビのことを思い起こします。「私が死んだら誰が彼らを育てるんだ?誰かにやって貰うのは嫌だなあ」「この先見たい映画がある。死ねないなあ」
生きるのに些細な目標があればいいんです。誰かのために生きる。それでいいんですよ」
「私たちは、神さまのために生き続けるべきです。
生きて、神さまに祈って導かれましょう!」
『ピリピ3:20
けれども、私たちの国籍は天にあります。そこから主イエス・キリストが救い主としておいでになるのを、私たちは待ち望んでいます』
「私たちは天国人です!日本人とかアメリカ人じゃない!人種や民族にとらわれない、天国の人になろうじゃありませんか!」
①ソロモン王⋯古代イスラエル3代目の王。ダビデ王の子供。神さまに何が欲しいかと聞かれ「知恵」を第一に求め、その知恵により栄華を極めた素晴らしい王さま。
2人の母親が赤ん坊を巡って言い争いをしているとソロモン王は「剣で2つにしちゃえばいいじゃん」と脅し、一方の母親は赤ん坊を庇った。ソロモン王は赤ちゃんを庇った方を正当な母親と見抜いたという一休さんみたいなトンチを効かせるエピソードもあります。
②エリヤ⋯モーセ以後最大の預言者。歴代最悪の王・アハブとその妻イゼベルに真っ向から対抗した。当時イスラエル人が崇拝していたバアルを打ち負かすため、バアルの神官たちに対決を挑み打ち負かした。
最期は火の戦車に乗って天国へ昇っていった凄い人。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「この中にも※①洗礼を受けていない人はいるでしょう」
「ぜひキャンプが終わったら洗礼を受けてください」
「イエスさまを信じる全ての人は、共に神の子とされます(ローマ8:14)。私も、あなたも、教会のおじいちゃんおばあちゃんも、みんな兄弟姉妹!」
「教会だとよく教会員のことを「〇〇兄弟」「〇〇姉妹」と呼び合いますよね?イエスさまを信じる人はみな血縁関係を越えて家族になるのです」
『ヨハネ14:6
イエスは彼に言われた。『わたしが道であり、真理であり、いのちなのです。わたしを通してでなければ、だれひとり父のみもとに来ることはありません』
「どうか洗礼を受けてください。強制ではないです。受けたい!と思ったときに洗礼を受けてください」
「自分の意思、自由意志で洗礼を受けることが重要なのですから」
※①洗礼⋯クリスチャンになるための儀式。古い自分を捨て、新しい自分になることです。
教会で用意されたプールに入り、牧師先生が神さまに祈って聖霊さまを心に授かります。
イエスさまもバプテスマのヨハネから洗礼を授かりました。イエスさまの12弟子は、イエスさまの昇天後に聖霊さまを心に預かりました。
聖霊さまが心にいて下さるからこそ、僕らクリスチャンはこうして語れるんです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ひとつ映画を見ましょう。皆さん、映画は好きですか?」
「大好きー!恋愛映画とかー」
「俺はアクション映画好きー!ワイルドスピード最高!」
私の場合、映画は金曜ロードショーでやってるのを見るぐらいだ。
「そうですか!私は映画大好きで、暇さえ出来れば映画館によく行きます!」
「キャンプの最後に、ぜひ見せたい映画があるので映画鑑賞会をやります」
「マーティン・スコセッシ監督の『沈黙』を上映します。静かに、鑑賞してくださいね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
映画館なんて子供の頃行ったぐらいだなあ・・・とぼんやりスクリーンを眺める。チャペルは平らなので、みんな寝転がったり座ったりして映画を見ている。
「沈黙」という映画は、音がいっさい無い。環境音と台詞がBGMになっている。
ロドリゴ神父とガルペ神父は隠れキリシタンの人たちに寄り添う。
江戸幕府の井上筑後守は、ロドリゴ神父を捕まえて「転べ(信仰を捨てろ)」と誘う。最初は拒否していたロドリゴ神父も、仲間のガルペ神父が殺され、信徒たちが度重なる拷問に遭うのを見て、心が壊されていく。
「この地は荒れ地だ。信仰が根付かない」
ロドリゴ神父が吐き捨てた、この言葉が印象に残った。私も、呼木さんが聖書を教えてくれなかったら、クリスマスの本当の意味すら知らずに一生過ごしていただろう。
鑑賞後、みんなの表情が重かった。
ペドロさんも、珍しく重い顔をしていた。これは鑑賞会で見せるような、軽い内容ではない。私はものすごく心を締め付けられた。
でも、すごく考えさせられる。クリスチャンになるって、こんな大変なことなんだな。
※①沈黙についての解説
⋯江戸幕府による激しいキリシタン弾圧が行われていた17世紀の日本。長崎で捕らえられてしまったポルトガル宣教師のフェレイラを追って、弟子のロドリゴとガルぺはキチジローの協力でマカオから長崎へと潜入。そこで隠れキリシタンと呼ばれる日本人たちに出会うが、キチジローの裏切りにより、ロドリゴらも幕府に捕らえられてしまう。
岡田斗司夫氏の解説が分かりやすくて面白いので見てみるとオススメです。スターウォーズやドラえもんでこの映画を例えていて、すごく分かりやすかったです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「この映画を作ったマーティン・スコセッシ監督も、原作者の遠藤周作先生もクリスチャンです。
映画っていいですよね。音や映像などの情報、五感で体感できる小説ですね」
「あなたの賜物を活かす、そんな職業に将来就いてくださいね。たとえどんな場所だろうと、神さまはきっと用いて下さいます」
「医者だろうと、消防士だろうと、アスリートだろうと、小説家だろうと・・・」
祈りの時間、わたしは私の将来の夢について考えてみた。
私は読書が好きだ。だから小中学生の頃は「将来作家になります」と漠然な夢を卒業文に書いていた。
「もっと将来について、よく考えた方がいいんじゃないか?」
私は口を押さえ、色々思案をめぐらした。
「アレコレ考えるより、まずは神さまに祈ろう」とヘビゴロウ先生の声があった。
私は慌てて手を組み、神さまに心の中で祈った。
「神さま、私の将来の夢はなんでしょうか?教えてください!」
返事はなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
祈りの時間の後、みんなで話す時間になった。
「沈黙、怖かったねー」
「でも、大切なメッセージを伝えてた」
「ロドリゴ神父みたいに、苦しいこと、耐えてかなくちゃいけないのかな?」
「・・・・・・」
みんな沈黙へ包まれた。中高生の多感な時期に、あの内容は心に堪えた。
そこへ、「ポペガーーーーーーーー!!!」
ペドロさんが割って入ってきた!
「うわっ!ビクッた!」
「辛気臭く悩むことないですよ。神さまがいるから楽しくいきましょ」
「そんなの、大人のペドロさんに言われたって……」
「私も子供の頃、ああいう迫害に遭ったこと、あります」
「えっ」
「私は元々ブラジルの生まれでした。
私の場合、元々はユダヤ教徒でしたから、①トーラーを持っているのをとても珍しがられました。最初は珍しいものを見る同級生の目も、年が経つにつれてイジメへと変わっていきました」
「お前ユダヤ人なんだってな!」「うちのじーちゃん言ってたぜ!ユダヤ人はバイキンを移すってな!」
「そ、そんな訳ないよ。ぼくバイキンじゃないよ」
「バイキンが喋んじゃねえ!」
向こうでのイジメはかなり酷いものでした。あらぬ暴力を受け、私は苦しかった。死のうと思ったこともあった。ヤハウェ(神さま)を信じていてこんな目に遭うのなら……私は自らの生まれを呪いました。
しかし、向こうでキリスト教の牧師先生に逢ってから、全てが変えられました。
ユダヤ人の辿った歴史、聖書の預言、ユダヤ人がずっと待っている救世主はもう既にこの世に来たんだ。ということを牧師先生から教わりました。
あの時は嬉しかった。牧師先生は、私に親身になってくれた」
「みんなにも、そういう助けてくれる人がいますか?」
※①トーラー⋯ユダヤ教の聖書。モーセ関連の話を記した5書をまとめた巻物です。「虎の書」の元ネタなんて言われますが、それは俗説です。トーラーとネイビーム(イザヤなどの預言書)、ケスビーム(詩篇箴言などの諸書)を合わせてタナハ(TNK)と呼びます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
キャンプの最後に、お別れの挨拶をすることになった。
「カウンセラーの皆さん、グランドワーカーの皆さん、キッチンワーカーの亀さん、みんなありがとうございます!!」
「そしてこの3泊4日を守られた神さま、どうもありがとうございます!!!!みんな拍手!!!!」
チャペルで拍手が響いた。
「まだまだ!!!もっと拍手!!!」
みんなはサッカーのサポーターばりの、割れんばかりの拍手を繰り出した。
誰も見たことのないことが
作詞作曲:長澤崇史 先生
誰も見たことのないことが いま この地に起こる
誰も聞いたことのないことが いま 起こる
祈りは聞かれている 叫び続けよう
主の為される 御業を伝えよう
荒野には道を 荒れ地には川を
新しいことが 今この地に起こる
「皆さん、アガペーの灯火を日本に、全世界に届けましょう!!
キャンプファイヤーの後にやったキャンドルライトを思い出してください!
荒れ地でも、耕して種を撒けば実ります!!パウロ義綏先生の言葉です!本当にそうなりますように!※①アーメン!!」
※①アーメン⋯本当にそうなりますように。という祈りの結び。むかしアーメンをからかって「アーメンソーメン」なんて言っていたら親に叱られました。神さまの言葉はからかってはいけないですね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
P&Gのあと、亀さんが昼食を作ってくれた。
「キャンプ最後の昼食だから、おわカレーね!また会おう!」
亀さん独自のアレンジを利かした、中華風カレーだという。中国とインドのコラボレーションだ。
「また会おう!次は10月!」
10月には爆裂賛美、通称「爆賛」というのがあるらしい。キャンプで歌ったより何倍も歌い続けるそうだ。またみんなに会えると思うとワクワクする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
立つ鳥跡を濁さず。
寝室に置いてあった荷物をすべてまとめた。そしてスマホ等も返却してもらった。
「待ちわびた!スマホちゃーん!」
ろいこはスマホに飛びついた。そんなに恋しかったのか。
スマホのない生活も、とても久しぶりな気がする。たまにはいいな、スマホから解放された生活も。
「あの、ヒツジ先輩……ライン、交換しよ?」
「あっうん」
「せっかくならみんな友達になっとこーよ!」
めりいグループのみんなでスマホをふるふるした。ふるふるなんて滅多に使わないけど、振ってる間はなんか楽しかった。
「よし!完了!」
3回ほどふるふるをやって、みんなを友達追加した。
「あっ!あとキャンプのレジェメの方!」
ヒーローちゃんに言われ、レジェメの裏表紙を見た。QRコードがいくつか貼ってある。
「ABCキャンプのライングループと、公式アカウントとサイトのリンクね!」
キャンプが終わっても、みんなとラインを通じて繋がれる。あったかいなあ・・・・
後で亀さんやヘビゴロウ先生、ペドロさんも友達追加しておいた。
「俺も追加してくれよな!」
おカッパも追加しておいた。名前を黒木ミツチからおカッパに変更。
「おい!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
行きは登った坂も、帰りは下り坂。
キャンプが終わったという充足感と、寂しさを感じながら帰路につく。
「あーキャンプ終わったあ〜」
「みんなとしばらく会えないのかあ」
「2ヶ月もすれば会えるんだから、辛抱よ!」
「しょぼん〜」
絵本ちゃんは、浮かない顔をしていた。
「絵本ちゃん、私も神さまも一緒についてるからさ、ファイト!」
「うん……ヒツジ先輩、ありがとう」
「わたしもついてるぜ!」
「あーしも」
「わ、私も!」
「えへへ……」
「僕もさー!」
突然やってきたのは、猿先輩だ。
「同じ教会の仲間なんだからさ、もっと頼ってくれよ!」
「うん、ありがとう、猿先輩!」
「うっきー!」
猿先輩は最後まで脳天気で明るい人だった。
みんなでC駅までやって来た。しばらくの別れとはいえ、やっぱ寂しさがある。
みんなに別れを告げ、私とろいこは電車に乗って家へ帰って行った。
続く。
ABCキャンプ編、完結しました!
執筆しているあいだ、とても楽しかったです。僕の通っていたHBCキャンプ場をモデルとして、あの頃に思いを馳せながら、キャンプのレジェメに書いてあるスケジュールを見ながら書きました。
本作を見たあなたが、聖書を手に取り、教会に行ってくれることを心より神さまにお祈りしています。




