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㉛ABCキャンプ編:自殺問題

「絵本ちゃん!」

(めりい)は女子トイレの個室ドアを開けようとした。しかし、鍵が掛かっていて開けられない!


「ヒツジ先輩!?」


「絵本ちゃん!どうしたの!?なんで死にたいなんて……」


「ほっといてよ!!今が楽しいうちに死にたいんだ!!」


「なんで、楽しいなら尚更死んじゃダメだよ!ていうかなんで死にたいのさ!!」


「・・・・わたし、中学でイジめられてるんだ」


「えっ!?」


「クラスで馴染めなくなって、浮いた存在になっちゃって、みんな直接手出しはしないんだけど、陰で私に聞こえるように陰口を叩いてきて……

『根暗』とか『教室の隅でなにか描いてて気持ち悪い』とか……」


「そんな……」


「次第に持ち物隠されるようになって、送られてくるプリントもクシャクシャにされて……」

「先生にも相談したんだ。でも先生は『イジメは良くないなあ』とか言いながら、何もしてくれなくって……」


「親には相談したの?」


「したよ!でもお母さんには『仕事が忙しいから後にして。アナタだけが苦しいんじゃないの』って流されて、お父さんは『らんりの痛みはよく分かる』って言ってくれたけど……解決してくれなくて」


「アナタだけが苦しいんじゃない!」「キミの痛みはよく分かる」って言われるの、すごく嫌なんだ……ワタシの痛みはワタシだけのものだし、他人にワタシの痛みが完全に理解できる訳がない!」


「わからないよ。確かに」


「けど私は、絵本ちゃん……らんりちゃんに寄り添ってあげたい!」

私は心が張り裂けそうだった。キャンプでできた友達が、こんな苦しんでいるのに、ずっと気付いてあげられなかった。

私は溢れる涙を止められなかった。この鍵が開いてくれたら、らんりちゃんを助けられるのに。抱きしめて、助けになりたい。


「開けて、らんりちゃん……まだ人生長いから、死んじゃダメだよ」


「イヤだ!もう死なせてえ!」


「死んじゃダメだよ。私もイジめられたことあるけど、友達(ろいこ)がいて、先生(呼木さん)がいて、きょうまで生きてこれてる」


「私の学校にはそんな人いない!神さま信じていてもこんな苦しいなら、いっそ」


「スキットで大活躍してたじゃんか!なんで死ぬの!死なないでよ!らんりちゃん!」


「どうしたの!?」

やってきたのはヒーローちゃんだった。


「ヒーローちゃん……」

「めりいちゃん!?どうしたの!!」

「らんりちゃんが、中に……」

「鍵が壊れちゃったの!?待ってて、いま開けるから」

「いや、あの」

声が出なかった。こんなに泣いたのは初めてだった。


「ピッキングならおまかせあれ!」

「待っててね、らんりちゃん!」


らんりちゃんの返事がない。心配になってきた……

「いま他のカウンセラーは会議中だからね……わたしがちょうどトイレに来て良かった」

ヒーローちゃんは用具を持ってくるとカチャカチャと手早く鍵を分解していく。

「開けるだけならちょちょいのちょいよ!なんだ、壊れてないじゃない」

ヒーローちゃんは扉を開けた。

「さーらんりちゃん!おまたせ!」


果たしてらんりちゃんは首にタオルを巻いていた。そしてトイレのパイプに括りつけていた。

「らんりちゃん!なにを!?」

ヒーローちゃんは急いでタオルを解くと、らんりちゃんの肩を掴んだ。

「お願いします……死なせてください……」


バシッ


ヒーローちゃんはらんりちゃんにビンタをした。そして強く抱きしめた。

「バカっ!死ぬなんて言うな!」

ヒーローちゃんが来てくれて本当に良かった。私は何も出来なかった。


「アレ〜どした?」

他の女子カウンセラーがやってきた。らんりちゃんと私は食堂へ呼ばれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


食堂にはカウンセラー全員と、講師のヘビゴロウ先生、亀さんが座っていた。明日の日程について話し合っていたみたいで、コーヒーと紙をみんなそれぞれ机に並べていた。


「どうしました?」

ヘビゴロウ先生が尋ねる。

「実は……私のグループのらんりちゃんが、首を括ろうとしてまして」

ヒーローちゃんが事情を説明する。


「そうですか……

らんりちゃん。どうして死にたいと思ったのかな?」


「学校でも家でも、誰も助けてくれなくて……苦しかったんです。キャンプは楽しいけど、キャンプが終わっちゃったら、そのあとに夏休みも終わって、また、あの苦しい学校に戻らなきゃいけないかと思うと、苦しくて……」

らんりちゃんの声は嗚咽からか(かす)れていた。

(まぶた)は泣いて赤くなっていた。


「そうですか。それは辛い思いをしましたね……」

「でも私、言ったじゃないですか。どんな時でも、神さまが愛してくださるって」

「神さまがいてもイジめられるんなら……」

「イエスさまも、イジメられっ子だったんですよ」

「えっ」

「信じていた弟子に裏切られ、ローマとユダヤ議会に引き出され、人々から『十字架につけろ』と罵られ、茨の冠とトゲの(ムチ)身体(からだ)に受け、杭で打ち付けられ、十字架の上で死ぬまで放置されて……」

「さすがのイエスさまも耐えきれず『父よ、父よ、なぜ

私をおみ捨てになったのですか』と神さまに苦しい思いを吐き出しています(マタイ27:46)」


「かつてインドなどで貧しい人を救ったマザー・テレサはこう言いました

『痛みを受けたことのある人だけが、痛みを理解できるのだ』と。

らんりちゃんの苦しみは、苦しみを受けたイエスさまがよくご存知の筈です」


「問題が解決されるよう、一緒に祈りましょう」

私もらんりちゃんやヘビゴロウ先生、ヒーローちゃん、他のカウンセラーと一緒に祈った。こうして、一緒に祈ってくれる人がいるのは、なんと心強いことだろうか。

「学校教えてくれ……俺が、悪いヤツ倒してやる」

大佐カウンセラーが言うとホントに倒しそうだ。


「クリスチャンが暴力するのはいけませんよ。そうだ。私がなんとか助力しましょう」

「えっそんな……」

「困った時は助け合いと言うじゃないですか。大丈夫!」

ヘビゴロウ先生は、頼りになる人だ。


「さ、もう寝なさい

明日は最終日なんだから」


私はらんりちゃんを連れて、寝室に戻った。みんなを起こさないよう、こっそりと。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌日、私は起きるとらんりちゃんがまたいなくなってないか見渡す。良かった、ちゃんと寝ている。

どうやら起きたのは私だけみたいだ。


ブワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


爆音が廊下から響いてきた。なんだこれ!?

「おっはよーございまーす!!私、あさりから目覚ましに※①角笛の音を聞かせに来ましたー!!」

とんでもない起こし方である。


「うっせ、※②ブブゼラかよ……」

「頭が痛い……」

ろいこと烈っちゃんが起きた。まだ眠そうである。

ギャル先輩は……すごく不機嫌そうだ。

「後でクレーム入れたるわ、クソッ」


らんりちゃんも頭が痛そうにしていた。

「痛いよぉ」

「絵本ちゃん!」

私はらんりちゃんもとい絵本ちゃんに抱きついた。

「ふえっ!?」

「良かった!生きてて!」

「え?え?なんなん?」


「キャンプ終わっても生きててね!絵本ちゃん!」

「うん、ヒツジ先輩……」

私は絵本ちゃんの手をギュッと握りしめた。こんなに積極的に動くのは、生まれて初めてかもしれない。

「大袈裟すぎんでしょ……」

ろいこはやれやれといった表情だ。


※①角笛⋯イスラエルの伝統的なラッパ。クードゥーという牛の角を使って音を鳴らす。実物を吹いてみたことがあるのですが、鳴らすのに相当コツがいります。

※②ブブゼラ⋯南アフリカの伝統的なラッパ。FIFAワールドカップ2010でやかましいぐらいに鳴り響いていたアレ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


デボーションの時間、ろいこは一足先にチャペルに来ていた。ギャル先輩を呼んで、話をしたいそうだ。


「2人きりで、話したいんすけど……」

「おーなんだー?」

ギャル先輩も朝に弱い。さっき変な起こされ方をしたもんだから、眠そうだ。

「わたし、これからめりいと上手くやっていけるか不安になってきたんです」

「ふむ」


「めりいってば、キャンプに来てからすごい変わったんですよ。元々はすごい消極的な子だったのに」

「なんでですかね?」

「それはね、キャンプには神さまがいるからだよ」

「神さまが、人を変えるんじゃよ」

眠いせいか仙人みたいなキャラになっているギャル先輩。


「──神さま。ってのも、よく分かんねーっす。アタシ、呼木って変なじーさんに出会ってから、なんやかんやで教会に来るようになったんで……」

「ほう」

「教会来ても、なんか言ってることがよく分かんねーし、神さま?とか言われてもピンとこねーす」

「ふむ」

「なんかこう、めりいの事、正直年下の子ぐらいに思ってたんすけど、キャンプに来たら年上みたいに変わっちゃって……フクザツです」


「あーしなんてイケメンの大学生に誘われたから教会来ただけだもん。ろいことめりいは動機が純粋でいいよ」

「イケメン?ウチの教会にもイケメンいるっすよ」

「ま?今度教えてや」

「りょっす」

「まー、友達が変わっちゃうなんてよくある事だよ。気長にやんなよ。ギクシャクしても、時間が経てば良くなるもんよ。それに……」

「私たちには神さまがついてるじゃんか!変われるよ、ろいこ!」

ギャル先輩はろいこに拳を突き出した。

「・・・なんか元気出てきたっす。ありがとうっ!」

ろいこはギャル先輩の拳にグーパンした。

「いって!!」


「あっ、2人とも何してんの」

「めりいの話してたんだよ!」

「えっ、私の?」

「めりいの部屋にさ、子供ものの服しかなくて」

「わー!わー!プライバシーの侵害だー!」


「ししっ」とギャル先輩はろいこに笑顔を送った。

ろいこは、にっこり笑ってそれに応えた。


続く。

今回は社会問題になっている「自殺問題」を取り上げました。


自分もイジメを受けたことがあるので、どうしてもこの話は外せなかった。

いじめ問題は学校や親がケアしてくれなかった場合、最悪の事態になります。自分は親や学校がちゃんと動いてくれたのでどうにかなりましたが、イジメを受けているあいだはとにかくしんどかったです。


ハートリボン運動というイジメをなくす一環の運動があるそうですが、神さまどうかその活動が実を結びますように。

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