⑬教会編:負けらんねぇ
土曜日の朝7時になった。
眠いのをこらえて、公園に向かう。
ろいこは朝に弱いみたいなので置いていく。
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ヨシアはバスケウェアで公園に着ていた。なにやらやる気スイッチ全開のようだ・・・・
「なあ、ペドロさんって人は土曜日も来るんだよな?」
「多分。毎朝ランニングに寄るみたいだよ」
呼木さんがやってきた。
「おはようございます。2人とも」
「おはよう、呼木さん。ペドロさんはそろそろ来るかな?」
「ほほっ、やる気に満ち満ちてますね。羨ましい限りです」
呼木さんも少し眠そうだった。昨日お巡りさんに補導されて疲れてたもんなぁ・・・
ペドロさんが向こうからやって来た。
「Ohーーーーーー!!!おはよぉーございまぁぁぁす!!!」
サンシャイン池崎みたいに元気が有り余っているペドロさん。朝からうるさいぐらいに活発だ。
「おはようございますペドロさん。今日はヨシアくんがあなたに用があるみたいですよ?」
「Ah?」
「ども、ヨシアです。バスケ部やってます」
「Humm?」
「あなたとバスケで対決がしたくて待ってました」
「Ô! (オー!)」
なんでバスケなんだろう。たしかペドロさんはサッカーが得意のはずだ。
「Bpasquetebolはブラジルの方でもやってたよ。サッカーの合間に」
「やっぱり、ペドロさんも強そうだ」
ヨシアは運動神経いい人に全員バスケ勝負を挑むようだ。以前ろいこにもバスケ勝負を挑んだことがある。
〈1点でもシュートできればなんでも1つ言うことを聞いてやる〉というご褒美みたいな勝負を挑まれたが、ろいこは終始翻弄されて、蜂の一刺しでボールを奪ってシュートしかけたけど入らなくて……
思えばあの勝負からろいこはバスケに打ち込むようになっていた。
「ルールは3点先取にしましょう」
「わかった。それでいいよ」
日本対ブラジルの対抗戦が始まった。やっぱろいこも呼んでおくんだった。今更ろいこのスマホにモーニングコールを入れて起こした。
「ひどいよめりい!」
「ごめんごめん。今度スタバでコーヒー奢るよ」
「コーヒーは苦手なのっ!」
プツッ、と通話が切れる。一目散にやってくるだろうなあ、すまん、ろいこ。
ハンデとばかりにヨシアからのボールだ。
オフェンスに長けているヨシアだが、1回後ろに退がり様子を見る。
ペドロさんの表情は真剣そのものだ。気を抜いたら一瞬でやられる。
「(クソっ……!攻める隙がない!)」
ペドロさんの身長は190はあるだろうか……ヨシアとは差がありすぎた。
「どうしました?」
「くっ!」
バトル漫画のような睨み合いが続く。
一瞬気を緩めたのか、ヨシアはボールを高くドリブルしてしまった。
刹那、ペドロさんが鷲のようにボールを鷲掴み、そのまま空の彼方へフリースローでシュートしてしまった・・・・
ボールを奪われたのが受け入れられず、フリーズするヨシア。しかし直ぐに正気に戻る。
「・・・・もう一度だ!」
「É claro!(エ クラールー!/勿論!)」
ヨシアはやっぱりカッコイイ。正直に認めたくないけど。
今度もヨシアからのボールだ。今度は果敢に攻めていくヨシア。
しかしペドロさんのブロックは堅い。まるで城壁のような堅固さを感じる。
「もう終わりじゃないですよね?」
「まだまだ!」
「(正直ゴリ先輩より強いぜこの人……!
フェイントを掛けてもすぐに対応してきたし、小手先は通用しないか……)」
今までにない強敵と対面するヨシア。
不意に私はピコーンと、アタマの豆電球が閃く。
「ダビデとゴリアテみたいだ!」
「そうですね。ダビデは巨人ゴリアテ相手に戦う話に似てますね」
「ヨシアはダビデっぽいですよね」
「けれど、ダビデは“神さまに全て委ねた”から勝てたのですよ。自分の力に頼るのは、良くないことです」
「(自分の力……!?)」
ヨシアの走馬灯が再生される。
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幼い頃、俺は病弱だった。
そんな俺を心配してか、じいちゃんがとあるビデオを見せてくれた。
「ほれ、アメリカの強いスポーツ選手たちじゃ。
コレ見て元気出せい」
黒い肌の、見慣れない人達が、ひとつのボールを巡って走り出す。
汗が光る。あの人たちのプレイに、俺はいつしか夢中になってしまった。
「どうじゃヨシア!バスケやらんか!?」
俺のじいちゃんは神主だった。なんでじいちゃんが数あるスポーツの中からバスケを選んだか知らないが、じいちゃんがサッカーを見せていたら俺はサッカー好きになっていただろう。
でも、俺はバスケを選んだ。
じいちゃんは神社の神さま達に祈願していた。俺の体が強くなるようにって。八幡さまは武の神さまだから、きっと強くしてくれるって言ってた。
「自分の力」で強くなったんじゃない。
俺はじいちゃんのお陰で強くなれたんだ。
「じいちゃん……」
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うっすらした意識の中でじいちゃんを思い出す。
汗と熱で体がヒートしてきた。もう肩で呼吸するほどスタミナも消耗している。
この後電車に乗って部活に向かわなきゃいけなかったが、もう後のことはどうでもいい。
「1点でも、入れてやるッ・・・!」
ヨシアは息が切れながらも勇猛果敢に攻めていった。
それはさながら戦場の兵士のようだった。
しかし、現実は残酷だった。
ペドロさんはボールをひょいと奪うと、あっさりフリースローでシュート。プロとアマのような、雲泥の差が浮き彫りになった。
「〜〜〜ッ!!」
一瞬鬼の形相になるヨシア。
その後3ゲーム目もペドロさんがゴールし、3-0。
あんなに悔しそうなヨシアを見るのは初めてだった。
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「も〜〜っ、終わってるっぽいじゃ〜ん」
ろいこがドタドタとやってきた。髪は整ってないし服はジャージとだらしのない格好だった。
「あれ?ヨシアくんは?」
「先に部活行ってるよ。元気なかったから、そっとしておいてね」
「あ───。」
ペドロさんは少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「大人気なさすぎましたね……」
「いや、ヨシアは手を抜くと逆に許さないタイプだから。全力で相手してくれて謝謝?ペドロさん」
「謝謝は中国語じゃんっ!」
ペドロさんはランニングに戻り、ろいこは部活へ向かった。
私は呼木さんとデボーション(聖書を読んて神様にお祈りすること)をした。
クリスチャンはみんな朝からこれをするらしい。
朝の読書、なんて時間が小中学校の頃にはあったが、朝に本を読むと、なんか特別感がある。
「今日はヨシュアの話をしましょう。ヨシアくんの名前の由来になったと思われる人ですね」
「呼木さん、アタシと2人きりなんだから敬語ぬきでいいよ。堅苦しくない?」
「そうですか。それじゃ敬語ぬきで」
「※1モーセからイスラエル民族を導く使命を受け継いだのが、ヨシュアだね。後継者として、最初は上手くやっていけるか不安があったんだ」
「だからこそ神さまが
『ヨシュア記 1:9わたしはあなたに命じたではないか。強くあれ。雄々しくあれ。恐れてはならない。おののいてはならない。あなたが行くところどこででも、あなたの神、主があなたとともにおられるのだから』
と、何度も強くヨシュアを励ましたんだ。
めりいちゃんは将来に不安はないかい?大丈夫、ヨシュアが励まされたように、めりいちゃん、キミの未来も神さまが導いてくださるよ」
私は胸の布をきゅっと握った。神さまが心の中に来ているような、そんな感じがした。
※1モーセ⋯名前はヘブライ語 (イスラエルの言語)で「引き上げる者」。エジプトで奴隷にされていたイスラエルの人々を解放し、神さまが約束された約束の土地、〈カナン〉まで民を導いた。
歴史的に見てもモーセは40歳頃までエジプトで将軍として働いていて、イスラエルにとっても人類史にとってもスゴい人!
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続く。
ペドロさんのモデルはこの前RIZINフェザー級王者になったクレベル・コイケさんです。
クレベルさんは磐田在住の人です。ぜひ知って貰いたい磐田市の有名人のひとりです。
あと何話か前にW杯がどうたらとか書きましたが、ただの時事ネタです。作中現在のシーズンは6月頃なので、W杯はやってません。やっちった。




