⑫教会編:キミの心の中に
前回のあらすじ
謎の外国人に話し掛けられためりいとろいこ。
どうする!?
「うわあああああああああっ!!」
めりいとろいこは一目散に逃げ出した。
「ああっ!!逃げないで!待ってください!」
「ヨブキ!ヨブキさんの知り合いです!ワタシ!」
「えっ」
2人は立ち止まった。流暢な日本語だった。
「ワタシはペドロ・エンリケ・ホーダムント。ブラジルから来ました」
「ヨブキさんとはこの公園で会いました。
朝散歩をしているとき、ヨブキさん聖書読んでました」
「『あなたはクリスチャンですか?』と声を掛けると『ええそうです』と優しく返してくれました」
「彼と会ったのは3日前の朝ですね。
それ以来朝には話しています。
おふたりのことは、ヨブキさんから聞いていました」
「呼木さんは今どこに?」
めりいが質問した。
「それが、今朝尋ねたらいなくて・・・
おふたりが来るまでリフティングしてました」
「朝からリフティングを!?」
「あ、正確に言うと昼には1度家に戻っているので午後からですね」
「そうとは知らず、待たせてごめんなさい・・・」
めりいは謝罪した。ろいこも続けて「サーセン」と謝る。
「いえいえ、こちらこそ」
「また明日、会いましょう。
今度はお昼に」
「いつも公園に来るのは放課後と部活後になるから、午後5時の間に来ることになると思います」
「OK!」
ペドロさんは右手でOKサインをする。絵に描いたような陽気な人だった。
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次の日の部活後、公園へ向かった。
ろいこは昨日落ち込んでいたが、練習に打ち込んでいた。
スポーツ用メガネが汗で濡れるほどに。あのメガネはバスケを始めるにあたってろいこが自腹で買ったという。ろいこは本気なんだ。本気でバスケに打ち込んでいるんだ。だから悔しい気持ちになれるんだ。
私には、そういう本気になれるものがないなあ。
空を見上げる。虚しい。
公園に行くと、ペドロさんがバスケのゴールにサッカーボールを蹴ってシュートしていた。
「もう別の競技じゃん・・・」
「おっ、おふたりさん!来ましたね!」
「名前を聞いてませんでしたね」
「あっ、めりいです」
「ろいこっす」
ろいこはややダウナー気味だ。練習の疲れもあるが、劣等感に苛まされている。
「メリィ!ロイク!OK!」
OKじゃないが。名前間違っとる。
「NoNo、ろいこ!」
私はろいこに代わって訂正した。
「Desculpe(ジスクウピ/ごめんなさい)!ロイコ?」
「YesYes」
英語はNEW HORIZON(中学英語)レベルもついていけないが、なんとか会話出来てる。
「本題に入りましょう。ヨブキさんは警察署にいました」
「警察!?なんで!」
「事情を聞きに行きました。どうやらずっとこの公園でホームレスをしていたので、心配した人に通報されたようです。現在警察で事情聴取を受けてるみたいです・・・」
「ホームレスなんてファべーラでもいるのにね」
「ふぁべーら?」
「スラム街のことね」
「でもそろそろ戻ってくると思いますよ。サッカーでもして待ちましょう」
「わたし運動できないんだけど……」
私たち3人はパスをしながら呼木さんが帰ってくるまで時間をつぶした。体を動かしている間はろいこも元気そうだった。
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「それっ!地を這うシュート!」
「ぐわあああ〜!ネイマール〜」
いつの間にかノリノリになっているろいこ。すると呼木さんが向こうの方からやってきた。
「ヨブキさん!」
警察の職質を受け続け、呼木さんはやや疲れた顔をしていた。
「ああ、疲れた・・・」
「大丈夫ですか?!」
「ちょっとベンチで休ませてください・・・」
ベンチに腰掛ける呼木さん。センチになっているので敬語口調だ。
「ふぅっ・・・・」
「何があったんです?」
「警察の方から色々質問責めを食らいました。無理もない。ホームレスをしているのだからね」
「どうしてホームレスを?」
私はギョッとした。ペドロさんは忌憚のない質問を呼木さんに突き刺した。でも、正直それは私達も気になっていたことだ。
「・・・・・」
呼木さんは黙ってしまった。無理もない。過去になにかあるのは私たちは察していたが、とても聞けるものではなかった。
「その話は、またにしましょう」
「それより、ろいこちゃん。浮かない顔をしてますね」
「わかる?」
「顔に出てますよ」
「私さ、バスケで上手くいってないの。劣等感に悩まされてるっていうか」
「はあ、なるほど」
「私は結果が全てではないと思うな。スポーツの世界は誰彼と競うものだけど、本来は心身の健康のため、スポーツで世界の人たちと繋がるためにあるんだ」
「ワタシサッカー大好き!!!※1ブラジリアン柔術もやるよ!※2カポエイラも!」
ペドロさんが口を挟んできた。
「ペドロさんのファミリーネイムも、グローバルなものですね」
「ホーダムンド。輪っかの世界。世界のみんなと手と手を繋げたら楽しい」
「ミンナ家族!話したら友達ね!」
「ペニーワイズみたいな事言うなあ」
「神さまも、頑張るろいこちゃんを励ましてくれているよ」
「本当に?全然わかんないけど」
「胸に手を当ててご覧。神さまは、キミの一番近くにおられるんだ」
私も胸に手を当ててみた。心臓が脈打つ。
ヨシアが「お米の中にも神さまはいる」などと言っていたが、まさか心臓の中に神様がいるとでも言うんだろうか?
「神さまはキミの心に来られている。今も、心のドアに声を掛けておられるんだ。誰の心にも、神さまは声を掛け続けておられるよ」
バンプオブチキンのラフメイカーを思い出す。心のドアは内側からしか開けられないものだ。
今のろいこの心は、ドアノブが錆び付いているような状態だろう。
「私の、心に……」
ドクン、と心臓が脈打つ。生きている命の鼓動だ。
「私の心にも、神さまがいるのかな……」
「よっしゃ、なんか元気出てきた!呼木さん!ありがとう!」
いつものろいこに戻った。
「どういたしまして!ハレルヤ!」
「はれるや?」
「“主(神さま)を褒めたたえよ”という意味さ。クリスチャンはよくこの言葉を使うよ!」
ハレルヤ。いい言葉だ。
私は今日の出来事を日記に書いておいた。
※1ブラジリアン柔術⋯日本の柔術から生まれた武術。多彩な寝技が特徴。グレイシー一族、最近はクレベル・コイケが有名
※2カポエイラ⋯同じくブラジルで生まれた格闘技。ブレイクダンスのような動きが特徴。バトゥーキという漫画が面白いから推して見るべし(ダイマ)
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「って事があってね〜」
私とろいこは学校でヨシアに昨日あったことの一部始終を伝えた。
「ほーん、ろいこ、俺に嫉妬してたんか」
「それはもう昔の話!神さまが心にいるから怖くないもん!」
「それは何よりだ。メンタルが悪けりゃバスケは続けられないからな」
「えへっ」
「オレも親父に『呼木さん達とは関わるな』なんて言われたよ。けど、そんなの知ったこっちゃないって、突っぱねてやった」
「度胸あるなあ」
「これぐらいの試練を乗り越えなきゃ、NBAスターにはなれねえからな。呼木さんやお前らといるのも楽しいし」
「それにしてもペドロさん、か」
「面白そうな人だな。土曜日に会いに行ってみるか」
「部活は大丈夫なの?」
「土曜日は午前中だけだからな」
ヨシアはなんでペドロさんに興味を示したのだろう……?
続く。
今まで注釈入れるの忘れてました。すいまそん。
本作を読んだ読者の皆さんが聖書を読むことを、祈るばかりです。アーメン。




