古龍の洞窟へいざ
「……どうした?早くその者どもを封印しろ」
「了解です……――ですが、その前に」
ターシャさんはくるりと振り返って王の元を向いた。
「貴方を封印させてもらいます!!」
「な――なんだとぐっ……こ、こんなもの……!!」
奪い取った壺を使って、ターシャさんは暴君の封印を行った。
白い波動が王を包み込み、抵抗する彼を容赦なく壺の中に押し込んでいった。
それを確認した彼女が勢いよく壺に蓋をし、こちらに持ってきてくれた。
「た、ターシャさん……?」
「はいっ!ターシャですよロシュア様!」
よ、よかった……。
洗脳はちゃんと解かれてたんだ。
「いやー焦ったわ……洗脳解除と封印の壺失敗した責任取って、拙者腹どころか盲腸まで切り裂く所存でござったからなぁははは」
「クラウスさんも、魔王様も……みんな本当にありがとう。……これで封印ってされたんだよね?大丈夫だよね?」
「今度の封印はちょっとばかし改良を重ねてね。ま、なんてことはない。魔王様と王様がいちゃこらやり合ってた頃に王様をじっくりこってりもっちりと観察して、あの人の細胞とかを知らぬ間に抜け手で少しばかり拝借して、それを組み込んで封印術を作っただけのことさ」
「いや。もうわけわかりません。ちょっとで出来ることをこえすぎてます」
片手でお菓子食べてもう片方の手で封印作ってる合間にこの人どんだけあれこれやってたんだ。
間違いなく封印のMVPになったのは魔王様とこの人だ。
というか、この人こそ封印されかねないほどの超危険人物だ。
収容しなきゃ……。
「やるではないか人もどきよ」
「人もどき言うな。魔王様にお褒めいただき光栄ですよあっしは。へへっ。……いやね、あいつは常に相手より進化する戦闘民族みたいな意味不明すぎる怪物だったみたいでさ。だったらその細胞を封印に組み込めば無限に封印できるよね?って思ってさ。壺の中であいつは今頃自分との戦いを強いられてるってわけさ」
「へぇ……そ、それは多分ずっと安全ですね……」
《そんなに凄いものが作れるなら、ふざけてないでさっさと作っておれ》
「それがね火の奥さん。王様元気ルンルンだったじゃないですか。ロシュアたんのバフ援護+力を取り戻した魔王様最終形態の完全覚醒でもあいつまだ生きてたじゃないっすか?現に最初に封印施した時も秒で復活しやがるしさぁ。つまり弱らせておく必要があったわけなんですわ。それもあそこまで追い込んだからこそこんなにばっちり封印が成功したわけで……あっ。あと聖女様の名演技あってこそのもの……だね!」
クラウスさんは笑ってターシャさんの肩をポンっと叩いた。
「まったく。ひやひやさせよって。私はてっきりターシャが完全に寝返ったのかと思ったぞ」
「えへへ……ごめんなさいみなさん!ロシュア様!あいつを油断させないと成功しないと思って……」
《敵を欺くにはまず味方から……よく言ったものじゃ。いやー天晴れ天晴れ》
「本当だね。ありがとうターシャさん、それにみんなも!」
「よぉおおし!これで一件も落着不時着僕腰巾着だし、ギルド帰ったらみんなで焼肉っしょおおおお!!」
全ての緊張が抜け、異様にテンションが高いギルドマスターに釣られてみんな大はしゃぎで盛り上がっていた。
そうして帰路に着いたところで、ギルドに走ってくる亜人の女の子が現れた。
「た、大変です……!助けて欲しいんです!」
「おいおい落ち着けよ龍人ガール。まずは深呼吸して。そして心に決意を込めて。さっ、それじゃあ明日に向かって盛大に一歩を踏み出したまえ」
「なにナチュラルに追い返そうとしてるんですか。……あのどうしたんですか?」
全身黒っぽい人間の女の子をベースにしたような龍人娘は、息も絶え絶えにこちらを見つめてきた。
「助けて欲しいんです……!私たち今古龍の洞窟に挑戦してるんですけど……仲間たちがまだ中に残ってて……それでものすごくつよい怪物と戦ってるんです!」
「怪物?」
「あー……あのクエストかー……」
ギルドマスターさんは何か思い当たる節がありそうにニヤニヤすると「じゃ、あとは君たちに任せるよ!人助けは立派な仕事だからね〜じゃねー!」といって颯爽と消えてしまった。
「え、あ」
「お願いです!!私たちを助けてください!!このままだとみんな……殺されてしまうかもしれないんです!!」
泣きながら迫ってくる彼女の胸が腕に触れ、不覚にも顔が熱くなるのを感じた。
それを見逃さなかったターシャさんが早速嫉妬の眼差しを向けていた。
危ない危ない。
「わわかりました。じゃあ今から行きますので場所を思い浮かべてみてください」
「……えっ?」
「そこに向けて【転移魔法】で移動します。記憶はあなたのものから伝ってなんとか行きますので」
「あ、あっはい」
そうして彼女が目を瞑り、僕たちが一塊となって魔法陣の中に入り込んでいく。
「【転移魔法】」
パッと僕たちがギルドから消えると、すぐさま洞窟の入り口までたどり着いた。
「な、なんですかーここ」
「古龍の洞窟か……聞いたことあるぞ。ここには古来より番人でたる龍が潜んでいるとか……しかも最近ではなにやら魔神と言われる亜種までもが出現したらしいぞ。均衡を脅かしかねないと里にも伝え聞いてはいたが、幸いまだ洞窟から出てこないということを理由に討伐が見送られていたのだ」
「そうなんですか?」
リーネさんが頷くと、謎の黒い龍人娘さんは興味深げに見つめていた。
「さっ、急ごう――ええと」
「あ、私はミシロと申します。ええとこれでもいちおう〝元〟人間です」
「人間!?」
「と言っても人間としての私はもう食べられて死んじゃったんですけどね……」
「死んだぁ!?」
「……転生……ということか?」
《そういえばごくまれに強い思いをもって死んだものは、記憶はそのままに来世で別の肉体を得て蘇ることがあると……まさかこの娘がなぁ》
そんな凄いことまであるのか。
この世界はまだまだ僕の知らないことだらけだなあ。
「私は何度生まれ変わってもロシュア様の正妻になりますけどね〜」
「あっ、ちょっとターシャさん……」
「え、えっとお二人はそういう関係……なんですか?」
「ち、違わないけど違う!今はまだ仲間だよ。と、とにかく先を急ごう!早くしないと君の仲間が!」
「は、はい!こっちです!」
◇ ◇ ◇
ギルドが指定した難易度がSに相当されるだけあり、ここの魔物は今までの比べ物にならないほど強かった。
何せAランク以上の怪物モンスターたちがぞろぞろと出現してくるのだから。
まあ強化魔王様の敵ではなかったんだけど。
「す、すごいです……あ、あのお名前をお聞きしても?」
「私か?私はラ・デジャーク・ド・ヴォルだ。世間では魔王と――」
「わああ!まお……ジャークさんストップ!」
「もがが」
「えっ?」
「あ、あはは……な、なんでもないですよ」
うっかり魔王様の存在が知れ渡るところだった。
彼女は伝承の中でじっとしていてもらわないと。
たまたまパーティーにいるけどちょっと強い変わり者くらいの認識じゃないと後々大変なことになりそうだ。
そうして並み居る強敵をボコボコにしていき、10層の付近まで差し掛かるところだった。
「あだ!」
先頭を突っ走っていた魔王様が何かとぶつかったようで、全員の動きが止まってしまった。
「いってーな誰だよ!!前くらいちゃんと見……」
あ、あれ。なんかすごい聞き覚えある声が……。
「もしかしてあの人……ロシュア様!」
「えっ誰か居…………」
そこに居たのは、僕にとって忘れることのできない――そして思いがけない人物だった。
「お、お前…………ロシュアか?」
「カ、カムイ………」
あっちは知らないだろうけど、これで通算二度目の再会となってしまった。
しかも今度はばっちり顔まで見られた。
「な、なんでお前なんかがこんなところに居るんだよ!!……ってミシロ!?まさかお前が呼んだのか!?」
「そ、そうですよ!だって『深紅の薔薇』の皆さんが心配で……」
「えっ?今アンルシアさんたちがいるの!?」
「は、はい!とんでもない魔神とずっと戦い続けていて……この姿になってから色々わかるんですけど、みんなもう相当無理してるみたいです」
「わかった。今すぐ行こうジャーク」
「心得た。……ま、私とお前の敵ではなかろうがな」
僕は魔王の背に乗り、一気に深淵まで駆け降りていった。
「あっ、おい待ちやがれ!!」
背後からうっすら聞こえたカムイの声を無視して、僕たちはすぐさま最下層に降りていった。
「ぐわあああっ!!」
そこでは深紅の薔薇の皆さんが殺される寸前まで追い詰められていた。
《もう技は見飽きた……死ぬがいい》
「待て!!魔神よ僕たちが相手だ!!」
《何……?》
「あ、あれってアンルシア――」
「ああ……あの髪、あの服装……間違えようがない。ロシュアだ……。あのバカのパーティーを抜けたと聞いていたが……ここに戻ってきてくれたようだ……」
深紅の薔薇の皆はとても深い傷を負っており、今にも倒れそうになっていた。
後で治します。すみませんが、一旦この勝負を預からせてもらいます。
「行くよ」
「ああ」
《ぐぉ……なんだこの凄まじい力は……》
この空間でなら大丈夫。幸い凄い地下だし、相手は魔神だ。
「『究極魔法』――『双隕石』」
魔王様と僕による二つのメテオが一つになり、魔神に向かって襲いかかった。
圧倒的な威力の爆風が巻き上がり、魔神の巨体を貫きダンジョンの壁にも大きな穴を開けた。
「えっ」
そのまま魔神は隕石に飲み込まれて消滅し、残った隕石がダンジョンを破壊しながら進んでいった。
「えいやあのちょ、すストップ!ストーップ!!」
しかし僕の掛け声でもダンジョンの崩壊は止まらず、全14層を誇る古龍の洞窟は下層から順番に一気に崩れ落ちていき、全員を連れて脱出した頃には全てが瓦礫の中に埋まってしまっていた。
「や、やりすぎた……」
だってまさかこんなにも威力があるなんて思わなかった。
うーん………どうしよっかこれ。
「やったなロシュアよ」
「う、うん……うん?」
「す、凄いです……凄すぎますよ!!さすがロシュア様です!」
「やれやれ魔神どころかダンジョンまで崩壊させてしまうとは……キミは実に大した男だよ」
《たまげたのぅ……妾でもこんな芸当はできんぞ》
仲間たちからお褒めの言葉が飛び交う中、僕に対して唯一好意的ではない目線を向けてきている物が居ることに――僕は気付いていた。
カムイだ。
パーティーと離れ、孤立し、洞窟の奥底にいた彼は今、何を思っているのだろうか。
僕が顔を見たのを察知すると、こちらに向かって何か言いたそうに歩いてきた。
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