激闘の末に
「くっ……まさかこの余を上回る存在が現れようとは……!面白い!お前は余が本気で戦うに値する存在であるぞ!」
「……さて。これから貴様を5手で沈める。精々身体の方、もたせておけよ」
「何を言っている。もうお前になす術はない。余の本気はお前の時を永遠に奪うのだ。【裸の王様】追加章――【絶対君主の刻】」
世界全体の時を止める暴君の力は、他ならぬ魔王ただ一点に集約されていた。
完全に魔王は固まったように動かなくなってしまった。
「これでもうお前は動かない。この瞬間からお前の時間は未来永劫奪われた、ということだ。どうだ魔王よ。この俺の全てをかけた一撃だ。しかしお前という存在は我が魂に永遠に刻まれていくことだろう!ははは!何も悲しむ必要はないぞ!お前の像を我が城のど真ん中に建てて、これからも神話として語り継いでいこうではないか!!」
「あーちゃー。これにて『Aランクパーティーを追放された僕』完結!残念!しかし未来は変革を拒んだ!最凶最悪の暴君によるバッドエンドってやつだね!完敗に乾杯!」
「何くだらないこといってるんですかクラウスさん!!このままだとみんなが――」
その瞬間、石像と化したはずの魔王が蠢き出し、妖しげな光と共にかつての姿を現した。
「な、何だと!?あり得ぬ!余の最高の技だぞ!!」
「あぁ。随分と肩がこってしまった。確かに私の時間は奪われてしまったぞ。まぁ、ざっと2000年程度だったがな」
「ど、どういうこと?」
「あいつの能力で時間が止められた世界に精神が閉じ込められてしまったのだ。まぁ信じられぬだろうが、既に私はそこを抜けるために2000年の歳月を使い果たしたというわけだ」
「そんなに!?」
いやもうなんか。この二人の戦いだけスケールが違いすぎて何とも言いようがない……。
「おーっと!終わっていたかに思われていた勝負だったが、まだ決着はついておらず!!魔王無事!王様愕然!この先の展開が全く読めないぞー!!」
「そんでなんで実況風になってるんですか……ていうか!早くしてくれませんかね!!」
「いま必死でやってるんだよ!片手で!!両手だともう片方がおやつ食べられないからね!」
「いや!!両手でお願いします!!遊びじゃないんでほんと!!」
シリアスな戦闘に対して、片方は全くそのかけらもないやる気で参加していた。
こんな凄まじい戦闘を目撃してもいつも通りにいられるのは、初代からずっと今に至るまでギルドマスターを勤めてきた狂人のなせる技というわけか。
この人も大概人外の領域に片足突っ込んでたな。
そういう面に於いては3人とも同じ存在みたいなもんだ。
「おい。今あたしの事とち狂ったシリアスにできない狂人だって思ってたな?狂人が強靭なメンタルでセンチメンタルな雰囲気をぶち壊しにしてるってそういう目をしてたな?」
「してませんし思ってません。封印に集中し――て危ない!」
封印の壺作成に乗り出していたクラウスさんの背後に操られたリーネさんが切りかかっていた。
「え?何?ま。ま、そう焦らない。落ち着いて」
しかしそれをノールックでかわして片足で反撃で蹴りまで入れている辺り心配するだけ無駄だったみたいだけど。
「それよりきみは愛しの魔王様に補助魔法切れないように見張ってなよ。まぁ多分まだまだ続くとは思うけどさ」
「う、うん……」
「さて……それではこちらの反撃といこうか。防御を忘れるなよ?するだけ無意味だと思うがな」
王による最高の攻撃を受け切った魔王様はノリノリで反撃に転じていた。
空間を引き裂きながら魔王様の巨大な分身と思わしき手が出現する。
「まず一手――」
大気を歪ませる強烈な一撃が王に向かって振り下ろされる。
返しに【王の拳】を展開させるも、比べてみるとよく分かる、両者による拳の規模の違い――威力の違いが。
あれほど大きく見えた王の拳を勢いよく飲み込んでいき、魔王の黒い鉄拳が王の肉体を粉砕していった。
人間が曲がっていいような方向ではないところにまで捻れ、王はふらふらと立っていた。
究極魔法すら軽々と凌駕していく強大な一撃を放った魔王様に、僕は身体の芯まで凍りつくような感覚に襲われた。
やばい。こんなの絶対勝てない。
というか補助魔法の領域を超えてないか?
こんなに怪物になるものなのか?
なんだか散々非道を働いた暴君に対して、若干の同情さえ感じてしまう。
「ふ、ふふふははは……い、いいぞ。いいぞ魔王よ……昔を思い出してきたぞ……この痛みこそが余の最高の時間……生きていると感じる瞬間だ!」
「どうやらまだ自分の置かれた状況が理解できておらんようだな。お前はもう詰んでいるんだよ、たった一人の空虚な暴君よ」
王が肉体を修復する余裕さえ無く、魔王による次なる攻撃が炸裂した。
防御に回った王の右腕ごと半身を引き裂き、そこら中に血を撒き散らしていった。
「二手」
律儀に手数を数えながら、再生していく王に向かって更なる攻撃を向けていった。
「で、デコピン!?」
「加減せぬと消えてしまうからな。――男ではなくこの星が」
細い中指から放たれたデコピン(レベル9999)は、魔王がそういうだけあってスケールが桁違いであり、風圧が触れただけで大地は大穴を開けてそこだけ消し飛び、王の左腕を巻き込んだ。
「ぐっ……!」
両手を無くしまともに治すこともできない王が、はじめて恐怖に歪んだような顔つきに変化していった。
「これで三手目――次は四手目だ」
今度はその指を天高くにょきにょきと伸ばしてゆき、それを高速で王の両足に向けて叩きつけていった。
ようやく王はここで防御らしい防御壁を発動させたが、目にも留まらぬ指の連撃により一瞬でそれらは砕け散っていき、とうとう王を支える両足も完全に崩れ去った。
「さぁ。これで止めだ――五手目」
四肢を失って地に転がる王に対して完全にオーバーキルダメージに等しい巨大な漆黒の球を出現させていた。
い、いや流石にそれはまずい!!
この星ごと消えてしまう!!
「も、もうすこし威力抑えて――」
「よぉし!完成したぞー!!さぁこいつを使いな坊や!」
というところでようやくクラウスさんの新生・封印の壺が完成した。
「助かります!!」
それをこちらに手渡してくれた後、クラウスさんの肉体が貫かれてしまった。
「な……!?」
それは王の切り離されたはずの腕だった。
腕はクラウスさんの心臓を貫くと、そこから徐々に魔力を奪い取っていき、やがて腕から王の肉体が再生していった。
その瞬間、それまで四肢を失っていた王であったものは消滅した。
「不覚じゃ……」
「くくく……この女の生命力は凄まじいぞ。さぁ。五手目で余を倒せるかな?」
「卑怯者め……!」
「何とでもいうがいい。しかしよりにもよってそれが冷徹な人類の宿敵たる魔王の言う台詞か」
魔王様はやや威力を落とした漆黒の球を王に向けて振り下ろした。
「これが最後だ!何が何でも受け止めてくれよう!」
そう言って王は両手を広げて黒球に触れて弾き返そうとした。
しかしその圧倒的な威力に耐えきれず、そのまま地面に沈んでいった。
「やったか!?……あっ!フラグいっちゃ、ったぁ!!ごめんよぅごめんよぅみんな……ごふっ!この償いは必ずするから……ハラキリ100回でゆるしてちょんまげ……ううう」
「い、いやあの。今は黙っててもらえると助かります」
というか心臓貫かれてるのにまだ生きてるし。
不死身ってだけで本当とんでもないなこの人。
「……がっ……!なんという……!」
土煙の中から満身創痍の王が立ち上がった。
人類に化け物がいるとしたら、間違いなくクラウスさんとこの人だ。
しかし今度は本当にボロボロになったようで、もうこちらに吸収してこようなどとはしてこなかった。
「五手目で倒し切れなかったのは不覚だが、これでお前も終わりだな人類にあだなす暴君よ。大人しく封印されるがよい」
「くくく……ははは……これで終わりだと?笑わせるな」
王が笑うと、すぐさま後ろから操られた3人がやってきた。
もちろん魔王はそんな攻撃を受け付けなかったが、反撃することもできなかった。
「くっ――」
「お前たちは『仲間』と呼んだものたちは傷つけられないらしいからなぁ!さぁ!どうした?やれるものならやってみるがいい!」
「クラウスさん……洗脳を解けるっていってましたよね。それお願いできますか?」
「んもーちょっとまって!心臓治すから!……よし治った!はい魔法発動!!【洗脳解除】」
クラウスさんが両手でパン!と音を鳴らすと、周囲に不思議な波動が満ち溢れ、3人の仲間たちに向かっていった。
「ん……あれ、どうしたというのだみんな」
《……はっ!寝ておらんぞ!妾はまだ起きておるわ!!……あれ?》
「よ、よかった……みんな元に戻ったんだね」
全員洗脳の紋章は解けているようだった。
これでひと安心だ……。
「ターシャ……さん?」
しかしターシャさんだけは何故か洗脳が解け切れていなかったようで、僕から勢いよくツボを奪い取ってしまった。
「な、なにを!」
「ふふふ……私の主君はたった一人だけなのよ……♡偉大なる世界の王に相応しい……アルリム様だけ……」
「お、おい!どういうことだ!」
《もしかして妾たち……操られておったのか?だが今そこの女に直してもらったであろう!?》
「んにゃっぴ……これもうわかんないですね……」
我らがギルドマスター殿は顔面を『?』マークにして唸っていた。
そ、そんな……嘘だよねターシャさん。
「くくくくく……はーっははは!!どうだ見たか!!これが余の力だ!!貴様ら弱者が敬愛する『友愛』や『信念』など王の前では無力!!さぁ!その忌々しい壺を使ってそいつらを封印しろ!!」
「了解しました……♡」
「くっ……最悪だ……!」
そうして操られたターシャさんは僕たちに封印の壺を向けてきた……。
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