追放side カムイの視点 あり得ない
おかしいと思ったんだ。
あのドラゴン然り、こいつらの場違いな実力然り。
そもそも俺とこいつらにここまでの実力差があるはずがないんだ。
ということは八百長。
いや、国王がこのクエストを仕込んでいたことから全てが今に繋がっているんだ。
あの吹き飛ばし攻撃もしてこなかったし、間違いない。
「はい。で、今8層を越えてきてるわけだけど」
突然マリーのやつが振り返って話しかけてきた。
「だからなんだよ」
「言ったわよね。あたしらが第8層まで越えて、あんたのいう不正とやらが覆ったら覚悟しといてねって。あ、ちゃんと発言は記録してるから。言った言わないの議論に持ち込むのは無理だから」
「ふ……ここまでのうのうと不正を行っておいてよくそんな発言ができるな」
「は?」
「さっきのドラゴンはな、俺たちと戦った時には強制的にダンジョンを追い出す【大竜巻】を使ってきたんだよ。だが、お前たちにそれを使わなかった。これがどういうことかなんて猿でも分かるぜ。お前たちはあのドラゴンと――いや、王様と組んで最初から俺たちをはめるつもりだったんだよ!」
ドンッ!
決まった。これは言い逃れできまい。
全ての証拠が点と線になって結ばれていく。
ははは。さぁどうする?今更謝ってきても手遅れ――
「あはははっ!バッカじゃないの?あのドラゴンが竜巻を使うなんて当たり前のことじゃない!時間かかりすぎなのよあんたたちは!」
「は……?何を言って……」
「ふっ。いやな。私たちもかつてこのダンジョンを攻略しに訪れたことがあってな。あいつに何度も吹き飛ばされたことがあったんだよ。まぁ、といってもそれは昔の話で今はこうして何回もクリアできるようにはなってるんだがな」
「懐かしいよねー。……まさか冒険者共通の試練を指して『不正』なんて言い張るとはね〜いやー笑わせてもらったわ〜」
「ちょ、ちょっと待て。何回もクリアしてって……」
「あぁ。このクエストを受けるのは今回が初めてだが、『古龍の洞窟』自体来るのは初めてではない。これで12回目だ」
「じゅ……!?」
あ、ありえん。そんなはずがない。
「まぁ実力試しには丁度いい場所だよな。連携の確認も歯応えのある敵と行えるわけだし」
「そうそう。Aランクになるとこのクラスの相手としかまともな勝負になんないしさー」
な、なんだ?
なんでそうなってんだ?
こ、これは誰もクリアしたことのないクエストのはずでは……。
なんだ?古龍の洞窟ってのはあちこちでクエストにされてるのか?
「ああ。ドラゴガイアを倒すというのが初めて王都から与えられたクエストってだけで、別にここは前々から訪れることができるぞ」
「そうそう。最近だよね?その魔神ってのが現れたって確認されたのが」
「まもう何回も来てるし大丈夫だとは思うけど、油断しないどこ」
「そうだ。むしろ何回も踏破しているからこそ、そうした慢心が生まれやすい。国王による直々の依頼だ。みんな全力で挑もう」
「おー!」
そうして深紅の薔薇の面々はなんてことない顔で、見知ったダンジョンの奥地へと向かっていった。
あ、ありえない……。
こんな化け物屋敷に12回も訪れているなんて。
そんなバカな。それこそ不正だ。
しかし、あいつらの失敗記録が残っている以上、これは不正では片付けられそうにない。
なんだよギルドのやつも紛らわしい書き方するなよ。
古龍の洞窟なんて初めて聞いたぞ。
くそっ。また振り出しに戻っちまった。
しかし良いことは聞いた。
魔神に挑むのはこの場にいる全員がはじめての事になる。
ならばこいつらも全員消し飛ぶはず。
そうだ。ちょっと死ぬのが遠のいただけだ。
たとえお前たちが何度この危なっかしい魔境を乗り越えていようと、その一度で全滅は必死。
こいつらも破滅の道を辿る事になるのだ。
精々今のうちに良い顔をしているがいい……うっ。
「うぼろげええええ」
「ああそうそう。さっきから苦しそうにしてるみたいだが、この先は相応の実力が無ければダンジョンの放つ〝圧力〟に負けて肉体が保てなくなるから気をつけろ」
「な、なんだと……じゃあなぜお前たちは……」
「あたしらは十分踏破可能まで強くなったんですー」
「まぁそういうことだ。なんとか頑張って這いずり回ってくるんだな。さもなくばここで立ち去るのが利口というものだ」
「ふ、ふざけるな……こんなもの……」
しかしソアラはとっくに限界が来ていたようで、もうその場から一歩たりとも動けなくなってしまっていた。
全く情けない。
「おいルーナ……そこでソアラの面倒見とけ……」
「か、カムイ様は……?」
「こ、ここから先はお前らには無理だ……自分の身体を大事にしろ……俺が魔神の首持って帰って必ず戻るから」
「さ、さすがカムイ様……!なんて頼もしいお言葉……それに動けなくなった私どもを気遣われるなんて……なんと寛大なお方なんでしょうか」
ふっ。これだからバカは扱いやすくていい。
お前らにうろちょろされると足手まといになりかねないからな。
悪いが俺はこいつらと〝先〟に進ませてもらうぞ。
しかし俺が女どもを置いていくと、ミシロのやつがソアラたちの元まで歩み寄ってきた。
「なにしてんのミシロちゃん。そんなバカどもほっといて行こ?」
「で、でも……ここで黄昏の皆さんを置いていったら……何が襲って来るのかわかりませんし……」
「は、はぁ……?お前な……中途半端に裏切っておいてそれはねぇだろ……」
「貴方は残らないんでしょう。でも私は残ります。残って……守れる人を守ります。貴方も、深紅の皆さんもお強いそうですので、私の力は必要ないと思います。もう誰も私みたいな悲しい思いをさせたくないんです」
はぁ。何悲劇のヒロイン&ヒロイックムーブかましてるんだか。
ちょっと強くなったからってほんと調子に乗りやがって。
悲しい思いだぁ?
死ななかったんだから全然悲しくもなんともねーじゃねぇか不幸自慢やめろ。
まぁいいか。お前らなんか必要ない。
好きにやってそこで野垂れ死んでおけ。
「しゃあねぇ。おいいくぞアンルシア」
「……その様子でいけるのか?君も残っていた方が良いと思うのだが」
「笑わせんな。俺は強い。だからこの先に進む。それだけだ」
「まぁ良い。自分の身は自分で守れよ。この先の安全は我々でも保障しかねるからな」
「へっ……誰が……!」
しかし未知の領域、11層以降にもなると桁違いに頭痛と吐き気が襲ってきて、立つことすらままならない状況が何度も続いた。
こうなると最早戦うとかそういうレベルにはなく、ただただ必死であいつらのけつを追いかけることしか出来なくなっていた。
終いには地面や壁も湾曲し出して、それが余計に気持ち悪さと目眩を助長させた。
苦しい。息が苦しい。
吐き気がする。音がどんどん遠くなっていく。
俺の周りだけ薄暗い呪いでもかけられたように視界が黒く濁る。
ぼやけた視界の中でも、あいつらが楽しそうに笑い合っているのだけがなんとなく伝わってくる。
今はそれに対する怒りだけが原動力になっている気さえする。
だがもう今更後戻りをすることもできない。
一歩歩くたびにより強大な苦痛を背負わされている。
くそ。こんなのあり得ねえ。こんなものを何度も踏破するなんてどうかしてる。化け物だ。
そうだ。こいつらは化け物なんだ。
人間じゃなかったからここまで涼しい顔してこられたんだ。
ふざけるなよ化け物どもが。人間様に対してドヤ顔で偉そうに自慢垂れ流しやがって。
「なぁ、あいつそろそろやばいんじゃないか?」
「ほっとこほっとこ。あーいうバカって死ななきゃ治んないし」
「だが死なれても目覚めが悪い。ちょっと私が手を貸してこよう」
「とかなんとかいって〜ホントはクエスト終了時に死人が出てたら成績下がるからでしょ?」
「ふっ。まさか。私はあいつとは違うんだぞ?あんなのでも仲間であることに変わりはない。ならば見捨てるわけにはいかないさ。まあ高すぎるプライドから差し伸べた手なんて振り払われそうだが」
また何か悪口言ってやがるな……。
くそ。ここまで全部あいつのせいだ。
あの忌々しい荷物係。あいつが抜けてから散々だ。
こんなことなら控えのメンバーだけでも補充してから追い出すべきだった……。
まさかこうなるなんて夢にも思うまいよ。
「ほら立てるか?」
「だれに……物……言ってやがる……」
目が霞んできやがった。
汗が止まらねぇ気持ち悪ぃ。
なんで俺がこんな目に……。
ゆっくりとアンルシアの手に連れられ、薬を飲まされると少しだけ吐き気と頭痛がましになっていった。
「優しすぎ」
「こんなやつ助けてもどうせ良い事ないよ?」
「ああ。私は見返りなんて期待してないよ。八つ当たりされても返り討ちにするだけだ」
「やるぅ〜」
「ちっ……お前らだって魔神を相手にすりゃそんな口効いてられなくなるぞ……!」
「あんたさぁ。助けてもらったんだからお礼の一つくらい言えないの??」
「つうかここまでずっと思ってたことだから言うけどさ。あんた人としての常識がまるで無いのね」
「何?」
「常に自分が優秀だと思い込んでて、それを疑わず自分以外は全員取るに足らないクズ。ずーっとそんな歪んだ価値観で行動してきたんでしょ。ちょっとでも自分の思い通りにならなかったらすぐに他人のせいにする。そうやって都合の良い生き方しかしてこなかったから周りから人が減っていったんじゃない?」
「はっ。人が減った?いつ?だれが?」
「前にいたロシュアくんって子と、それからあのミシロちゃんね。そんで今そんな暴君みたいなあんたにも神様のように慕ってついてきてくれたルーナちゃんたちも切り捨てようと置いていった」
「なんかあたしたちと一緒について行けば自分も戦えるとかひどい勘違いしてない?あんたがあの子達を足手まといみたいに扱ったように、あたしらにとってはあんた足手まといでしかないから」
「ふ、ふざけるなよ。ちょっと前までは俺とほぼ同じかそれ以下でしかなかったっていうのに!」
「それもさぁ。ロシュア君がいたからなんじゃないの?」
は?何で今あんなお荷物の名前が出て来るんだ?
おかしいだろ。あいつが俺たちの足を引っ張ることはあっても、俺たちの役に立ったことなんてただの一度もないぞ?
「だからその前提がそもそも間違ってるんじゃないのかって。ここまであんたたちみたいによく見積もってもB級くらいしか実力のない連中がAのトップに輝けていたのは、あの子の補助があったからじゃないの?」
「ていうかさ、同時にいくつもの補助魔法使いながら全員分の荷物持ってたってやばくない?そんなこと普通できないから」
「相当な実力者であったのだろうな。まぁ、トップがこんなやつだったせいで今まで埋もれてしまっていたのだろうが」
「なんか噂によると今めちゃくちゃ活躍してる冒険者が現れたらしくって、パーティーを組んでギルドマスターからもお声がかかってるんだってー。今思えばあれってロシュアくんの事だったのかもね」
「……なるほど。つまりお前たちはロシュアくんに見限られたってことだな」
「ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!!なんで俺たちがあんな雑魚に!!」
バカな。あり得ない。
全部ここまであいつのおかげだったとでもいうのか?
いやいやそんなはずがない。
たしかに補助魔法は受けた。が、そうなる前から元々俺はソロでもA級の実力者だったんだぞ。
「それ……何年前の話?」
「過去の栄光に溺れて努力を怠ったお前たちがいつまでもA級でいられると思ったのか?」
「そ、そんなはずねぇ……そんなはず……」
努力はたしかにしてこなかった。
しかしそれは俺たちに才能があったからで。
じゃ、じゃあ……じゃあ……
「っとお喋りはこの辺にしておくてしよう。そろそろ14層――つまり最下層付近だ」
話してる間にも結構敵を倒して進んでいたみたいで、いよいよ俺はその古龍の洞窟の最終フロアまで来てしまっていた。
ええい。余計な話で頭を混乱させやがって。
龍の魔神とやらを拝んでどうとでもしやがれ!
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