追放side カムイの視点 それは意外な
「い、今なんて言いやがったこのクソ女……」
「お前、弱いだろって言ったんだが」
こ、こいつ。言うに事欠いてこの俺様が弱いだと?
ふざけんな!
そんな虚言を吐くことは許されねぇぞ。
寝言も寝言の大寝言だ。
いくら寛大な俺だってそんな発言は聞き流すわけにはいかねえ。
「いや、お前だけではないな。お前たち黄昏のメンバー全員についてだ。正直Aランクもの実力があるとはとても思えない。少なくとも今はな」
「何よ!カムイ様だけじゃなくてあたしたちまで愚弄する気ぃ!?」
「いや、事実でしょ。ここまであんたたち、あたしらに頼らず何かできた?何かしてくれた?」
「な、何よ。勝手にでしゃばってるだけでしょ!?深紅の薔薇なんかいなくたってあたしとカムイ様がいれば……」
「攻略できると?ほほう。メタル化モンスターに手も足も出せていなかった分際で随分と大きく出たな。それともまだ現実が見えていないのか?」
確かにこいつらは今の俺たちよりほんの少し、ほんの少しだけ強いかもしれない。それは認める。認めてやる。
だが俺たちがこのダンジョンをクリアできないなんてのは、少々思い上がりも甚だしいぜ。
「ま、まぁいい。そんな余裕は8層にいったらかき消されちまうもんな。今はそうやって好き放題言ってりゃいいさ」
「ならここから先はお前たちだけの力でなんとかするんだな」
「えっ?」
「これまでの君たちの態度を鑑みれば、まるで自分たちの方が実力があるのに我々が前に出ているせいでロクに戦えていない、という結論が導き出されるのだが……どうだ?合ってるか?」
「そ、それは」
「合ってるよなぁ?ぜんぶお前たちの言う通りにしてやると言っているんだから。さぁ、どうぞ先頭に出てくださいよ。あなたたちの方が強いんですから。間違っても『俺たちを盾にして逃げた』なんて言いませんよね?」
「い、言うわけねぇだろ!!」
この女、完全に俺たちを舐めてやがる。
今に見てろ。まぁまずは先に進んでやる。
その第一歩を踏み出そうとしたその瞬間、俺の足が何かに掴まれるような感覚がして、見てみると右足に黒い腕が張り付いていやがった。
「うっ、うわあああっ!!」
「あ……あぁ……う……」
「な、なんだこいつ!!」
全身粘液に塗れたそいつは、さっきアンルシアが倒していったブラックドラゴンの腹の中からゾンビのように這い出ているようだった。気色悪い。
止めくらいちゃんと刺しとけ無能め。
「た、助けてくださいよ……カムイさん……」
「ええい!なんだなんだ気色の悪い化け物め!!何故俺様の名前を知っている!!」
「つ、冷たいじゃないですかぁー……ずっとダンジョンに置き去りにしていくなんて……」
なんだ?こいつ何を言ってやがる。
モンスターなんだからそりゃ倒すか逃げるに決まってるだろ。
しかしよくよくそいつを見てみると、なにやら龍のような人のような、ちょっと見覚えのある姿をしていた。
「ま、まさかお前……」
「そうですよ……ここで食べられちゃったミシロですよ。皆さんのパーティーメンバーに入った……」
「う、嘘よ!!あんたみたいなおぞましい化け物があの子だなんて!」
しかし食われた下半身の部分を除けば、どことなくミシロの面影がないこともない。
なくなった部分は完全に龍のようなたくましい尻尾と脚になっており、黒い鱗がぬらぬらと輝いていた。
全体的に薄く灰色ばんでおり、ミシロはほとんど龍人として生まれ変わったと言っても過言ではなかった。
「やはりな。ドラゴンの胎内に何かいるとは思っていたが……」
「どういうことだよ!説明しろよアンルシア!」
「ブラックドラゴンの雌はお腹に宿した子供のために栄養を求めてあらゆる生物を喰らう性質がある。だが稀に食した生物の遺伝子情報を混入させた合成種のような子を産み落とすことがあるという。もっとも過酷な環境で生息するブラックドラゴンの子供が、中途半端に遺伝子を混濁させた劣勢種では生まれてもすぐに他の生物に殺されてしまうので、実際に目にすることは滅多にないのだがな」
ま、まじかよ。
そんじゃミシロは一度食われて龍の子として転生したってのかよ。なんてやつだ。
「並々ならぬ執念が無ければそもそも食べられた段階で死滅していたであろう。よく頑張って生まれてきたな」
「は、はいぃ……ありがとうございますどこのだれかわかりませんが……」
生まれ変わったミシロはアンルシアの腕に抱かれてわんわん泣きじゃくっていた。
「お、おい!元はといえばそいつは俺たちの仲間だぞ!勝手に引き抜こうとすんじゃねぇ!」
「へぇー?見捨てたくせに?」
「見捨ててねぇよ!ちゃんと取り返そうと戦ったさ!そしたら……」
「え?そしたら何?勝てなくて逃げたの?」
「逃げたのではない、戦略的に撤退したのだ」
そう。俺様が仲間を置いて逃げ出すわけがない。
状況があまりにもこちらの不利だったのと、仲間たちの精神状態からいって諸々判断した結果撤退こそが一番合理的な結論であっただけだ。
「うわぁ〜……よくそんな事が言えるね」
「ともかくだ!さっミシロ。戻ってこい。俺たちもこうしてまた会えて嬉しいぞ」
しかしミシロのやつは頑なに俺様たちの元に戻ろうとはしなかった。
ぶちっ。あーそうですか。
ロシュアといいどいつもこいつも拾ってやった恩を忘れてあっさり鞍替えですか。
「ふっ。まぁ教育の差が出たということだな『黄昏の』」
「黙れ!……おいミシロ。お前今そうやっていい子ちゃんしてそいつらとくっついてるみたいだがな、どーせそいつらだって自分たちがピンチになったら真っ先にお前を見捨てるぞ!わかってるのか?!その上でそっちにつくんだからな?そこんところよく考えてから決断しとけよ?」
「フラれた男がくどいっつの。ミシロちゃんはアンタたちの都合の良い操り人形じゃないの」
「そもそも普通に戦っていてあんたら3人だけ無事でミシロちゃんだけ死ぬなんてありえないからね?どういう戦い方させてたのか手にとるように分かるっつの。そんな扱いしておいて今更『俺たちの仲間』ですって?聞いて呆れるわ」
「全くだな。どうせ強くなって帰ってきたから手のひらを返してきただけだ。それに仲間を真っ先に見捨てたのはお前たちの方だったな」
「ぐ……!」
なんなんだ。さっきから俺たちに対してイラつくことしかやってきやがらねぇ。この女もミシロもダンジョンも全部だ。
全部のケリがついたらもう生かしてやらねぇ。ぶち殺す。
生まれたことを後悔するレベルで地面に頭こすりつけさせて土舐めさせてやる。
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