追放side カムイの視点 深紅の魔法剣士
にわかには信じがたい光景が目の前で起こっている。
俺たちがどうにか慎重重視で攻略してきた世界を、こいつらは物ともせず平気な顔で進んでやがる。
俺たちが来た時は拝めなかったアイテムたちをいい感じに収めて一端に冒険みたいなことしてやがる。
クソがふざけるなよ。
何がどうなってんのか。
俺の苦戦を嘲笑うかのように……!
これが屈辱で無くてなんとするか。
ダンジョンてのは階層を超えていくたびに、段階的に魔瘴の濃度だかなんだかが濃ゆくなっていくから、レアなアイテムも目白押しになるがその分モンスターの実力も跳ね上がるってやつだと聞いたことがある。
6層付近になると俺たちでさえ息を潜めて歩かなければ即死確実だった大型モンスターがそこかしこにうろついてやがったっていうのに、深紅の薔薇はそんなやつらに苦戦する事なく快勝を果たしてやがる。
「いやーSっていっても大した事ないね」
「油断するなよ。どこかの誰かみたいに油断が原因で敗走するなんてことになりかねないからな」
「きゃははは!言えてる〜どっかの自称Aランクとか言っちゃってる恥ずかしいやつと同じになっちゃう〜」
「おい。さっきから俺に対して言ってるのか?」
「はぁー?自意識過剰過ぎるんですけどー」
「くっ……!」
このガキどもが……!
だがそんな余裕もあいつに会えば吹き飛ぶはずだ。
ここの化け物共の硬さも魔法でゴリ押しできるレベルなのはこいつらを見て痛いほどわかった。
単純にソアラのやつが魔法を使いこなせていなかった。それは良しとする。
しかし8層を根城にしてやがるあの龍だけは違う。
単純な実力もそうだが、あいつには魔法を無効にする【反魔法空間】を展開してきやがるからな。
いくらなんだと言っても魔法使いオンリーのこいつらから魔法を取り上げたらただの女子供に早変わりするだろう。
召喚魔法?補助魔法?くだらない。
全ては等しく灰燼と化すのだ。そして俺の言っていた事が嘘では無く真実であったことを認めさせ、このイカれた世界に派遣したあのクソ王こそが間違いであったと知らしめるのだ。
と未来のビジョンに目を向けていると、目の前からブラックドラゴンが現れた。
魔除けすら通用しないレベルとなると、相当強い魔物であるらしい。
それにこいつはミシロを食った上に俺の剣を弾いた憎き宿敵だ。
「今度はお前を倒すぜ!!食いやがれ【龍斬り一閃】!!」
ドラゴンの首元目掛けて強烈な一撃が炸裂する。
――が、またまた例にもよって例の如く硬過ぎる鱗に傷一つつけられずなぎ倒されてしまった。
「ぐあっ!!」
「ぷっ」
その様子を見ていた深紅の薔薇の面々が笑い出しやがった。
「きゃははは!なぁに?そのヘボ剣術〜笑える〜!『今度はお前を倒すぜー』って息巻いてたくせにその程度なの?」
「うるせぇな!魔法しか使えねえやつは黙ってろ!!」
「だってよリーダー?」
「仕方ない……」
アンルシアは剣を取って龍に向かって進んでいった。
はいはいそういやお前も剣使いだったな。
でっていう。
俺が敵わなかったのにお前のちゃちい安物の剣であいつに傷つけられるわけがないだろう。
所詮魔法に頼るしかできない二流パーティーだろうが。
「てやっ!」
しかしアンルシアはドラゴンの鞭のようにしなる尻尾をかわし、その返し際に鋭い剣の一撃を浴びせかけた。
すると黒龍の尻尾は宙を舞って地上に落ちた。
「う、嘘だろ!?」
い、いや。あいつは尻尾を狙っただけだ。
俺は首だ。部位が違う。
そうか。硬さが部位によって違うのか。
盲点だったぜそれは。なんだよ結局知識がモノを言うんじゃねーかダンジョン攻略はよ!!
「ふっ……切りやすい尻尾から切る……基本を忘れてたぜ」
「はっ!」
しかしあいつはことごとく俺の予想に反してドラゴンの硬いはずの皮膚に攻撃を浴びせかけていた。
俺がやった時は切り傷ひとつまともにつけられなかったのに、あいつはいとも簡単にそれをやってのけていた。
しかも補助魔法なしで。
「がんばれーリーダー」
「へなちょこカムイに見せつけてやれー」
耳障りな野次馬どもは一切のサポートもせずにアンルシアの戦いをおやつ感覚で楽しんでやがった。
ということは奴とは小細工なしの1対1で戦っているということ。
あ、ありえない……。
「こいつには悪いが、さっさと終わらせてもらおう」
踏み込んだアンルシアが飛び出し、斬りつけを重ねて十字状の傷跡になった龍の首付近目掛けて剣を振り切り裂いた。
龍の首はスパンと真っ二つに割れ、あちこちを切られまくってスライスされた身体は沈んだ。
「か、勝ちやがった……」
いやいやいやちょっと待てちょっと待て!
あ、アンルシアはつい最近まで俺たちとそう変わらない実力の持ち主だったはずだ!
魔法と剣術どっちもできるけど、魔法の方が強いな〜みたいな印象しかなかったはずだ!
つまり剣において俺を追い越すことは絶対にありえねえ。
そのはずなのに……
「……これ以上余計な勘違いをさせないよう、ハッキリと言っておいてやろうかカムイ」
アンルシアは龍を切り裂いた安物の剣を鞘に収めてこちらに近づいてきた。
「お前、弱いだろ」
「なっ!!」
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