乱戦突入
「ええとですね……」
「あーわかってる皆まで言うな!」
「いや皆の『み』どころかまだ何も言ってませんけど!?」
「まあ分身使って見てたし大体わかったから大丈夫。……いやーにしても感激したよ。『僕はお前を許さないぞ!』とあいつに向かって啖呵を切ってあたしのこと悲しんでくれたからさ〜愛を感じたよね愛を!!」
「や、やめて……辱めないでください……」
あの時は本当に死んだと思ってたんだ。
凄い黒歴史を製造してしまった。
「おいおい。何も黒歴史扱いする事ぁねぇだろ。あたしは500年ぶりに胸がときめいたんだぜ心臓発作以外で」
「不死身でも心臓発作に陥る事があるんですか……」
「なまじ死ねない分苦しみ続けるのは辛いぜ……」
不死身特有の悲しみを耳にして、それほど良いものでもないのかもしれないと思ってしまった。
心臓発作ってどうやって治すんだろ……。回復魔法でどうにかなるもんなのか?
「で、今は復活魔王VS最古の王で大怪獣血戦やってるわけなんだね」
「は、はい……すみません。また勝手に封印を解いてしまって……」
あなたが生きていると知っていたらあんな危険な賭けには出ませんでしたとも。ええ。
「いやいや。流石にあたしが本気でやり合ってもあいつを倒すのは無理だろう。10年くらい時間くれれば相打ちくらいには持ち込めるだろーけど、その前に星が半分無くなっちゃうよ。あはは」
「わ、笑えない……」
「それにしてもよく魔王を懐柔したねー。あたしもギルドのみんなも力を取り戻した魔王は絶対裏切りヌルヌルすると思ってたんだわ。どんな手を使ったかは知らないが、よくやったぜ流石あたしが見込んだ時期ギルマス筆頭候補や」
「ま、まぁまたいつ何が起こるかわからないので、この戦いが終わったらもう一度力を封印しますよ。そ、それよりもみんなが!」
「ふむふむ。洗脳されて寝取られちゃったわけね。寝取られはな、いいぞ」
「いやよくないですよ」
「まあ洗脳解除なんて鼻くそをほじるより簡単にできるからいいけどさ。それよりキミの魔力を取り戻しておくのが先決じゃなほれ」
ブゥンと体が一瞬光に満ちるとぐっと体に力が湧いてきた。
「す、すごい……なんですかこれ」
「魔力回復魔法とかいう一行で矛盾する魔法」
「そんなものまで使えるんですか?」
「今さっき思いついた魔法」
「嘘!?」
彼女は舌を出して笑っていたが、真偽のほどは不明だ。
「じゃあ一緒に着いてきてください!早くしないと大変なことになっちゃいますよ!」
「うーん……じゃあ後500年は待って。今疲れちゃって」
「待ってる間に普通に滅びますって。ギルドマスターとして働いてくださいよ」
嫌がる彼女を無理やり転移魔法で連れて、仲間たちの元に飛んでいった。
居合わせたタイミングは最悪そのもので、たった今魔王と王による魔法攻撃でぶつかり合って爆発する寸前だった。
「おーやってるやってる」
「ま、まずい!【魔法防御】――ってぇ!?何やってんですかクラウスさん!早く壁の中に!」
「馬鹿野郎!こんな激戦もう滅多に見られねぇんだぞ!?S席でしっかりその目に焼き付けとけ――」
ボォンと巨大な魔法と魔法の衝突による大爆発が起こり、ギルドマスターはその中間地点に乗り出したため、挟まれてしまった。
爆風に乗ってギルドマスターの身体が宙に舞い上がっていった。
「クラウスさーん!!」
「ぐふっ。あー死ぬかと思ったー。てか一回死んだわ。貴重な生命なんだと思ってんだボケ。パイ食わすぞゴラ」
「自分から飛び込んでいったくせに……」
僕らの乱入にも気が付いていないということは、この二人は既にこっちにはいない。完全に二人だけの世界にいるという事だろう。
「どうやって割って入りましょうか……」
「百合の間に入る男はゴブリン騎士によって骨身も残らず抹殺されるってどっかの古事記に書いてあったよ」
「ここにきて何意味のわからないことをいってるんですか。あの暴君を封印する手段ですよ!」
「うーん。5000倍で効果なしだったんだからもう無理じゃない?はい終わり」
「諦めが早すぎる!!でも体力も減って魔王と激戦を繰り広げている今なら長い時間封印していられるんじゃないですか?」
「そうは言ってもねぇ……あのレベルを沈めるとなると相当変態的な魔法力が要求され……ええいわかったそこで待ってろ!いい感じのタイミングになったら出て行くから!あたしが出来たっていったら新しい封印の壺持ってくからちょっと王様止めてて!」
「んな無茶苦茶な!!」
仮に運良く王様を止めていられても、封印の壺が間に合っていなければ意味がない。
まさかずっとあの動き回る怪物を止めておけということなのか。
いくらなんでも無茶振りが過ぎるぞギルドマスター。
「仕方ない……!」
蘇った魔力で加速し、魔王と英雄の二大激戦に割り込んでいった。
「お前!何故ここにきた!」
「その通りだ下民よ。余は今究極に愉んでおるところなのだ。邪魔をするなら貴様の存在を消すぞ」
「消されるわけにはいかないんでね!ちょっと大人しくしててもらいますよ!」
魔王様に補助魔法として【速度上昇】、【攻撃上昇】、【魔力上昇】を追加で重ねがけした。
懐かしい。こうやって援護魔法で後方支援するのが僕の役目だったよな。
初心に立ち返って本領発揮といこうじゃないか。
役に立つかはわからないけど、少なくとも僕だけの力で殴り合うよりよっぽど効果的ではあるはずだ。
「なんだこれは――力がみるみるうちに湧き上がっていく」
「ほう。ということは全盛期以上の力になったという訳だな。面白い!!今のお前には少々退屈をしていたところだ。余を驚かすに値する力を」
何らかの音が発する前に魔王様の姿が見えなくなった。
「見」
突然王の身体が地面に叩きつけられた。
僕にさえ何が起こったのか全く分からなかった。
消えたはずの魔王様はいつの間にかさっきまでの定位置に戻り、見ると拳から煙が吹き上がっている。
そのことからどうやら今、殴ったのだとかろうじて推察できた。
「何事か……何事であるか……余は今何を……」
やがえ殴った音が風圧と共周囲に舞い込んできた。
ようやく放心の王にも、自分が何をされたのか理解できたようだ。
以前よりも遥かに力を増し……いや、ワンランク上の生物に転身したかのようなオーラをバンバン解き放ちながら魔王様は微笑んだ。
「喜べ英雄よ。たった今この瞬間から貴様の勝機は消え失せた。私は今、人類史上稀に見る歴代最強の魔王であるからだ」
そういう彼女の力は、確かに紛れもなく未だかつてないほど強大で生命力に満ち溢れていた。
直接頭にまでズキズキと流れ込んできてうるさいほどに脈打っている。
「……もしかして僕はとんでもない怪物を誕生させてしまったのか?」
全力でそうでないことを祈るばかりだ。
続きが気になる方、
面白いと思っていただけた方は
☆☆☆☆☆で応援お願いします!
ブクマ、感想、レビューなども
いただけると嬉しいです。




