魔王と英雄
「その声……お前まさか魔王か?魔王なのか!?」
「いかにも魔王だが」
王はここにきて初めて驚いた顔つきになり、やがて狂ったように笑い始めた。
怯えているのではなく、むしろより高まる興奮と旧友に会えた嬉しさから――といった感じで。
「よもや再びお前と相対することになろうとはな!!我が宿命にして存在意義!最強最高にしてこの世界唯一の友よ!!」
止められていたはずの王の時間も動き出し、気分の高揚に伴い大気は心臓が脈打つように鳴動していた。
「おいおいはしゃぎすぎだ。私は貴様などとっくの昔に忘れておったわ」
凄まじい力を持った者同士、オーラとオーラでバチバチと殴り合っていた。
そう。魔王の力を封じ込めていた封印の壺を完全に解いてしまったのだ。
一度目の封印を破ったのは僕じゃない可能性がまだあったにしろ、この二回目に限ってはもう誰がどう言い繕うこともできないほど僕の責任だ。
もし戦いに決着がついて、魔王がその力をもって世界を滅ぼし始めたとしたら全ての戦犯はこの僕だ。
しかし今はこれしか解決策がなかった。
魔王はこちらを振り向いて微笑んでいた。復活かそれとも互角に渡り合った人間との再会に喜んでいるのかは図りかねるけど。
「さぁ。今のうちにお前はギルドに戻ってあの四賢人とやらを呼び寄せてこい」
「で、でもそれじゃ魔王が……」
「今は私の心配などしてる場合か!お前は何のために罪を背負ってまで封印を解いたのだ!人間の世界を守るためだろう!ぐずぐずするな早くしろ!」
僕は魔王の情熱のこもった声を聞き入れ、その眼差しをしかと見つめ返した。
嘘はついていない。どうやら僕の心は通じているみたいだ。
彼女はもう人類の敵ではない。僕たちの仲間であるジャークだ。
そうと分かれば早速シロニアちゃんに頼んでここを抜ける。
魔法が使えない今彼女の足だけが頼りだ。
「おっと逃がすわけが無かろう罪人よ。貴様は余を謀ったばかりか、こんな人類に対する厄災まで解き放ってしまったのだ。その罪償わずしてどこへ行けると言うのだ――【王の箱庭】」
まずい。また例の時間停止か!
まあ今この状況で相手を逃さないようにやるにはそれが一番手っ取り早いけど。
相変わらず体は自由に動かないし、頼みの綱の魔王まで止まってしまっているし、最悪だ。
「お前には止められた時の中で永遠に命を失うことになるのだ。さぁ、審判が下され――」
しかし何故か王の身体は薙ぎ倒され、勢いよく地面に吹き飛んだ。
顔を見ると殴られた形跡が存在する。
だがどうやって――どうやって止められた時の中で彼に攻撃を……。
「ま、まさか――!」
「そのまさかだ王を名乗る小物よ。お前は時間を止められるらしいな。さしもの私もそんな大技には敵いはしない。だから未来で殴っておくことにした」
「……そんなバカな理屈があるか。貴様の拳は未来にあるとでもいうのか!」
「魔王に理屈など通用するはずがないだろう。そんな事も忘れてしまったのか?」
再び時間を止めるも、王はありえない箇所から攻撃を喰らい時間がまた動き出してしまった。
「す、すごい……」
なんというチート対決だ。
魔王だからできる芸当……いやむしろ魔王にしかできないだろう。
「ならば余は未来を見て対抗するとしよう!」
王の発動した未来視によって、今度は魔王の攻撃をかわし反撃の一発を浴びせかけた。
「一度見せた技が二度この余に通じると思うか」
「ああ思っておらんよ。貴様は他の人間とは違うからな」
魔王がそう言った直後、王の顔面が歪み始めた。
再び王が倒れて地に崩れ落ちる。
「何……?」
「だから今度は時間差で2発入れておいてやったぞ」
「くっ……くくく……ははは!面白いなぁ!お前との戦いに常識なんて無意味だな!!」
「お互いにな」
二人とも久しぶりの本気を出せてとても気持ちよさそうに、イキイキとしながら戦っていた。
その様は完全に異次元の領域に突入しており、クラウスさんの時も十分人外だったが、こちらは本当に実力の拮抗したもの同士による本気の殺し合いとなっていた。
魔王の身を裂いた王の腕が千切れ、今度は王が反撃に魔王の首をもぎ取る。
魔王は失った首から龍の頭を召喚させ、王の肉体に噛み付いていく。
メテオでも傷一つまともにつけられなかった王の装甲に、傷どころではないダメージを与えている――が、これも瞬時に再生を果たして再び技と技のぶつかり合いとなる。
「すごい超決戦だ……っと、そんなことしていられない。早くギルドに戻って助けを呼ばないと」
そこに立ちはだかるのは王によって操られ傀儡と化した、我らが虹の翼の誇る乙女三人衆だった。
「そこを通して……って言ってもダメか」
「排除します」
まずいな。これを避けながら無傷で進めるものなのか。
いや、迷ってる暇はない。
とにかくこの仲間による攻撃の嵐を回避し続けて馬車に乗るしかない。
リーネさんの剣が、サラの火炎が、そしてターシャさんの拳が三位一体となって襲ってくる。
避けても避けてもキリがない。
全部の魔力をメテオに使ったのは失策だったか。
「マスター!助太刀致しますよ!!」
シロニアちゃんの馬由来ハイキックによって、乙女達3人を弾き飛ばした。
「さぁ乗りましょう!離脱しますよ!」
「う、うん!」
僕の力を受け継いでいるだけあって、彼女も中々頼もしい戦力だ。
本当は戦いには巻き込みたくなかったけど……。
僕を乗せた馬車は全速力で王都まで突っ走っていき、仲間たちを振り切って進んでいった。
「ふぅ……どうにか助かった」
しかしここからどう説明してなんと切り抜けようか。
『森へ調査に出かけたら人類最古の王と遭遇して襲われました。ギルドマスターも死にました。助けてください』とでも言えばいいのか。
国を掻き乱す狂人として即刻牢屋にぶち込まれるかもしれない。
だがそれ以上他に説明のしようがない。
とにかく今はピンチなのだと理解して援軍を呼んでもらうしかない。
王都が見えてきた頃、ようやく一息つく事ができた。
背後を確認すると誰も着いてきている様子はなかった。
まずは王都のギルドだ。
と言ってもギルドマスター亡き今、僕のツテなんてあるのだろうか。
四賢人なら全て知ってるだろうから話をしたいが、呼び出すのは不可能に近いだろう。
ギルドマスターがあんなだからちょっと誤解してしまうけど、本来なら上級の役職にはまず出会う事は敵わない。
謁見も書類を何回も通してようやく許可が出れば面会が達成できる。
あちら側から呼び出してもらう以外に簡単に巡り会う術はない。
「いらっしゃいませ。本日はどう言った御用件でしょうか」
「す、すみません……いまヤリの森でギルドマスターがちょっと大変な目に遭ってるんですけど……」
「そうそう。大変な目に遭ってるのよね〜本当困った困った」
隣によく聞いた声と見た姿のむちむちギルドマスターがそこに立っていた。
「えうわあああっ!クラウスさん!??え、待って待って死んだんじゃ?」
「勝手に殺すでない」
そして今度は後ろからギルドマスターが現れた。
「やっほ〜」
「え?え?ふ、二人?」
ギルドマスターって三つ子だったのか?
「ちがうちがう。こんなつよかわ美人が3人も居てたまるか。君と同じ分身体だよ分身」
クラウスさんが指を弾くともう一人のクラウスさんが消滅した。
「おまたせ。じゃ話を聞こうか」
「あ、うんはい……」
なんかピンチだった事とかさっきまでの出来事がすっぽり抜けてしまったなあ。
ともかく生きていたなら早く助けに来てもらわねば。
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