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サラマンダー、仲間になる

《いかにも。妾があの有名なサラマンダーじゃ。敬え》


「ははーっ!」


 婦人は思い切り頭を地に擦り付けていた。

 仮にも貴族としてやることなのかと思ったが、ノリのいい人であるらしい。

 娘らはポカン顔で火の精霊を見つめていた。


「これが……精霊?」


「ちったい」


 この中の人間では一番小さいキアと比べてみても、サラマンダーはとても小さかった。

 彼女の小さい手でつんつんと頬を突かれると、精霊様は不機嫌そうに火の粉を撒き散らしていた。


「あちゅい」


 指先を少し赤くしたキアが、その部分をしきりに咥えて舐めていた。


《気安く触るでないっ》


「あの……これは一体どういうことなんでしょうか」


 さっきから話に置いていかれっぱなしである。

 なぜエトナーゼ家に代々伝わる壺に火の精霊なんぞが封印されていたのか。


「それは私が説明しよう!!」


「あらパパ!?」


「わーぱぱらー」


 いきなりカーテンの中から白スーツに青い薔薇を咥えた髭面の紳士が飛び出してきた。

 心臓に悪すぎるわ。

 一体いつからスタンバってたんだ。

 蝙蝠のようにカーテンをたなびかせ、颯爽と窓辺から降り立った。


「あだっ……こ、腰が……」


「もうパパったら無理するから……」


 着地の際に腰をやってしまったのか、大変痛そうに彼は背中より下の部分を何度もさすっていた。

 よくみるとそれなりにお年を召しておられる方のようだ。

 渋いハンサムなおじさま顔に似合わない「たはは」という軽めの笑いと崩れた表情がギャップを生んでいた。


 椅子に座り、ようやく痛めた腰を休み終えると彼は「こほん」とわざとらしく咳き込んだ。


「どうも。はじめまして。私はこのエトナーゼ家の家主、ファルカン・エトナーゼ13世だ。今も現役を夢見て戦う貴族戦士ファルカーンと呼んでくれ給え」


「きゃーパパかっこいいー!」


 婦人……いや夫人はもうすっかりファルカンさんにメロメロになっていた。

 一方家族である娘たちはしらーっとした顔つきで興味なさげに冷酷な目線を実父に向けていた。


「パパそれやめて。恥ずかしいから」


 耐えられなくなったレミがぼそっとつぶやいた。


「ははは。パパの何を恥じる必要があるレミ。……っといかんいかん。いえね。仲のいい一家なんですよ。ついつい話が脱線してしまっていかんねこれは。ははは」


「は、ははは……」


 なんだか婦人といい、とても話しやすくて面白い人だ。

 変に気取ってないのが良いのかもしれない。


「でその壺についてだが……実はパパ。そこに何が封印されてあるのかは、私のひいおじいさんのひいおじいさん、そのまたひいひいひいひいひいひい…………今何個『ひい』って言った?」


「もうパパったら!」


「まぁーとにかく。そこにおわす火の精霊サラマンダー様の仰った通り。ざっと数えるだけでも数千――いや数万年以上もずーっと昔から、来るべき日に備えて封印を施され、我が王家で預かっていたのだよ」


「そうだったんですか」


「それでええと……ロシュアくんであってるよね。私の荷物を救ってくれた王家の偉大なる恩人よ。先程の質問にあった『何故我がエトナーゼ家が長年にも渡り、火の精霊の封印を見張ってきたのか』……についてだが」


 あれ。それ僕心の中で言いませんでしたっけ。

 エスパーか何かなのか。


「それは私の一族である者たちが、封印の守り人であったからだよ。それがエトナーゼ家の創始者とも呼ばれる人たちであり、私たちのご先祖様はエトナーゼという王家が成立するずーっと前から雨の日も風の日も与えられた使命を全うし続けてきたのだよ」


「それはなんというか……すごく、壮大です」


「だろうな。ところでこの壺を見てくれ給え。こいつをどう思う?」


 どうと言われても。

 そういえばもう封印は解けてしまい、すっかり色も失われてしまっていた。


「これによって火の精霊サラマンダー様は晴れてお目覚めを果たした……ということになるのだが、伝承によると精霊は呼び起こした本人に付き従うことになっておるのじゃ」


「は、はぁ」


「よって気の遠くなるほどの長い年月の間、誰にも破れなかった封印を破ったロシュアくん!キミが正当なサラマンダーを使役する人物となるのだ!!」


 その場の全員が顎を外す勢いで驚いた。


「まぁ。ということはやはりロシュア様は伝説の勇者さまなのですね」


「やっぱり!ロシュア様は初めからそうだとこのターシャも信じておりました!」


「ちょ、ちょっと待ってよ。僕は壺に触っただけで……封印を解くつもりでやったわけでは……」


「しかしこれまで誰も封印を解くことができなかったのだ。形はどんなものであれ、これはキミが掴み取った運命なのだよ」


 なんか本当に話が壮大になっていってるぞ。

 僕が伝説の勇者だなんて……ははは。あり得ない。

 夢だとしても出来すぎてるくらいだ。

 パーティーの荷物係で、炊事洗濯当番で、これまで何の役にも立たなかった僕が。

 できることといえば趣味の魔法研究くらいの僕なんかが。

 たかが壺を握ったというだけで……。


 しかしサラマンダー様も僕を認めるように、頭の上にどすんと座り込んだ。


《というわけじゃ新たなご主人様よ。これからよろしくたのむな》


「えっ、あっ……はい」


「いやーめでたいめでたい。こんなにも晴れがましい気持ちで一族の悲願を達成できるなんて。もう思い残すことはなにもない。妻よ。娘を頼んだぞ」


「いやぁあああなたぁああ消えないでえええ」


 彼は笑いながら太陽の光に包まれ……窓辺から脱出していった。


 泣き崩れる演技とかではなく、本当にリリザ夫人は大泣きしていた。

 なんだこの一家は。


 娘たちも同じような感想だったかもしれないことが、彼女らの冷めた顔からなんとなく想像できた。


 頭に乗ったまま怠惰にも動きを見せないサラマンダー様は、屋敷を出た僕たちにそのままついて行くことにしたらしい。

 それを見てまたターシャさんがぷりぷりと怒っている。


「ちょっと!サラマンダー様だかなんだか知らないけどね!この人と最初に奴隷契約を結んだのはこのわ・た・しなんだからね!!」


「待って待って!奴隷契約なんか結んでないよ!?」


 というか、契約って(仮)だし!!

 やめてよそんな語弊の生じる言い方は!


 聖女様の必死な訴えにも、火の精霊様はどこ吹く風。

 我関せずの様子であくびをかいていた。


《こうるさい娘じゃのう……なぁ新しきご主人よ。こやつ燃やして灰にしてよいか?》


「良いわけないでしょ!!この人、ターシャさんは僕にとって大切な仲間なの!もしキミが僕に従う精霊だっていうんなら、僕の仲間も僕と同様に大事にしてもらうからね!いい?」


《ぐぅう……他ならぬご主人様にそう言われると……》


 彼女は燃やす行き場のない炎を天空に向けて吐き散らしていた。

 軽く火を放っただけで、雲の一部が消し飛んだようにぽっかり穴が開いた。

 大丈夫かこの面子。

 異性好き好き聖女に、神話の精霊サラマンダー。

 そして何故か伝説の勇者扱いされている元A級荷物係……。


 世界どころか魚さえすくえそうにない変な面々だ。

 こうして新たに賑やかな仲間も加わった僕たちは、一応やるべきことも終えたことなので、早速ギルドでクエストに出かけてみることにした。

 

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