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復活

「愚かな。王に楯突く無意味さをその身で味わうがいい」


「危ない!」


 暴君の一撃が突き刺さろうとした瞬間、みんなの前に躍り出た。

 背中が引き裂かれるような感覚に襲われる。


「ロシュア様!」


「こ、こんなの痛くもなんともないよ……」


「強がるな。人間に耐えられる一撃では無い。魔力も尽きた今、そうして立っていられるのがやっとのはずだ」


「……だから盾になるんでしょうが!」


 魔法も使えない、置物状態の僕がそれでも唯一まだ役に立つ方法があるんだとしたら、それは頑丈さを活かしてみんなの盾になることだ。

 昔はよくこうして敵の注意を引きつける盾役になってたもんだなあ。

 よくあんなの耐えられたと思うけど、今となれば法外な防御力による賜物だったのだなあと痛感する。

 が、王の前に防御力なんてものは通用しない。

 皆平等に吹けば飛ぶ紙切れのようなものである。


 故に痛いがまだ耐えられないレベルじゃない。


「覚悟しろ!我らがリーダーを傷つけた痛み、ギルドマスター殿を殺した罪!その全てをこの剣で裁く!!【森羅万象斬】!!」


 リーネさんが王の背後から属性攻撃の塊で斬り付けた。

 しかしふらりと身体が揺れただけで、王に対する致命傷にはならなかった。


「森羅万象だと?この程度で森羅万象を名乗るなど笑止千万だエルフのつがいよ!」


「がっ……!」


 王は勢いよく彼女の喉元に手をかけて握りしめていった。


「やめろ!」


 その手を引き離そうと必死で王の肉体にしがみついたが、一瞬で払いのけられてしまった。


「森羅万象あまねく全てを司るのは余のみだ。貴様の様な交配を繰り返した劣等血種などではない」


「は……離せ……!」


《ええいその手を離さんか小僧!全身焼くぞ!!》


 サラも灼熱の業火を吹きつけたが、王はただそれを「邪魔だ」の一言でかき消して吹き飛ばした。


「どうにも貴様らは欺瞞や不遜が多すぎる。王に対するなんたる無礼なことか。偽りを述べても無駄なのだ。この絶対的な存在たる王にはあらゆる虚偽は通用しない。たとえばそうだな。つがいどもが『自分たちは心や魂で繋がった仲間』だとか抜かしておったな。まずはその欺瞞から暴くとしよう」


「何……!?」


「【王の契約(コントラクト)】」


 王によって手にかけられたリーネさんに妖しげな光が満ちていった。

 彼女はぐったりとうなだれると、王の腕に抱かれる様に眠っていった。


「さぁ――我が従順なる僕よ。あの憎き嘘つきどもにこの上ない死を」


「了解しました君主アルリム様……♡」


 再び目を開けたリーネさんは体のあちこちに紋章を宿し、目から光が奪われていた。

 彼女は刀を握ると何の躊躇いもなく僕に向かって斬りかかってきた。


「ちょ、ちょっとどうしたのよリーネは!」


「多分だけど操られているんだ!」


「ふはははっ!!貴様らの節穴だらけの瞳でもしかと見たであろう?貴様らの言う〝繋がり〟や安っぽい〝絆〟などこの程度のものに過ぎないのだ!!余が願えばこの通りだ。いくら足掻こうとそれは変わらない。仲間など馴れ合いなど無意味なのだ」


「そ、そんなことありません!」


「強情なつがいだ。では存分にその仲間同士、血で血を洗う狂宴を愉しむといい……ふははは!」


「リ、リーネさん目を覚まして……!」


「リーネではありません。アルリム様に絶対服従の僕1号です」


 あの様子だとこちらの言葉はもう何一つ届いていないだろう。

 元に戻す方法はたってひとつ、あいつを倒すことだけ。


 しかし肝心の仲間が減って、あいつの手駒にされていくんじゃどうしようもない。


「言い忘れていたが、手下にできるのは一人だけではないぞ」


《き、貴様――まさか妾まで》


「余は精霊であろうと意のままにできる【王の契約】」


《あああっ!》


「サラまで……!」


 サラもリーネさんと同じように王の言いなりとなって襲ってきた。


「行け僕2号よ」


《了解しました……♡》


「このままじゃみんなが……!」


 リーネさんの剣術に加えてサラの炎が飛んでくる。

 一つ一つでも厄介なのに、彼女たちタガが外れたみたいに強くなって襲いかかってきてる。

 力も仲間だった頃より強い。より使いこなしているかのような……。


「お前の疑問に答えてやろうか、余を失望させし下民よ。当然ながら余の操り人形となったつがいどもは潜在能力まで全て引き出された状態で、それも一切の手加減もなしに相手が滅ぶまで命令を遂行するのだ。邪魔な意識があれば潤滑な攻撃が阻害されてしまうからな」


「なるほど……つくづく独裁者向けの能力だよ」


 だとしたらもう逃げるしかない。

 逃げて……逃げて体制を立て直さないと……。

 ギルドマスターまでやられたのだ。王都も動き出さないわけがない。


 しかし……それでこの男に勝てるのか?

 封印も通用しないし、仲間は次々と操り人形にされてしまうし、まだまだ未知の能力がありそうだし。


 人類の英雄だった男が今や人類最大の脅威というのはなんとも皮肉な話だ。


「運命に抗うな!受け入れろ!!余という王を受け入れることで世界はあるべき姿に整っていくのだ――さぁ第一のつがいよ。元はといえば貴様が欺瞞の提唱者であったな」


「ひっ……!」


「ターシャさん逃げて!!」


 だが彼女の足は転んだまま動かなくなっていた。

 時間が止められた訳ではなく、恐怖で腰が抜けてしまったのだろう。


「楽しみだな。パーティーや仲間の大切さを力説していた貴様自身が仲間をどう料理するのか」


「あああっ!」


 王の手にかけられ、彼女も例の力をその身に浴びてしまった。

 ゆっくりとターシャさんが起き上がってこちらを向いてくる。


「命令だ僕3号。奴を始末しろ」


 するとターシャさんは凄い勢いでこちらに向かってきた。

 紋章は浮き出しており、操られていることは明白だった。


「そ、そんな……ターシャさんまで……!」


「ははははは!!はーっははは!!これは傑作だなぁ!このつがいの言っていた理論は全て破綻したぞ!!なぜならこいつ自身がその『大切な』仲間に牙を剥いたのだからなぁ!」


「人を操っておいてよく言うよ……!」


「あるべき姿に還っただけだ。エルフも、精霊も、そしてそのつがいも。みんな貴様に出会わなければ運命を狂わされることなく順当に我が僕となっていたはずなのだ」


「それは……違う!」


 たしかに僕と出会わなければ、もっと良い人生が歩めたかもしれない。

 けど、こいつの……人を何とも思わないこんな奴の言いなりになることが正解だったなんて、誰にも言わせない。


「どう違うと言うのだ下民よ。皆余が触れたことで本来の姿を取り戻していったではないか」


「そんなもの全然本当の自分なんかじゃない……だってみんな笑ってないもの!」


 サラもリーネさんもターシャさんだって、みんな一緒に過ごしている時は本当に楽しそうに笑うんだ。

 いっつも素晴らしい笑顔で僕や他のみんなを元気にしてくれるんだ。


 だが、今の彼女たちは違う――目は死に、凍りついたようにただひたすら任務遂行に従順な奴隷そのものにしかなっていない。


「笑う……だと?」


 それを聞いて笑ったのは王だけだった。


「笑いなど余以外の存在には必要ない。いや、むしろ許されていないというのが正しいな。王は笑い、民は讃え、それで世界は回っているのだ」


「そんな世界誰も望んでいない!」


 強気で前に出てみるが、何かできることなんてない。

 せめてみんなと戦わなくて済むように王のそばに張り付いていよう。

 主君に忠実な操り人形ならば、他ならぬ主君を狙う道理はない。


「ふん。無駄なことを……」


「ぐっ……は!」


 王の拳による強打が何度も何度も腹部にめり込んでいく。

 その度に血が口から溢れ出し、いよいよ殴られた箇所からも溢れてきた。


「貴様の罪状は重い。余を失望させ、欺き、楯突いたばかりか我が王国に対する批判まで……死など生温い本当の地獄というやつを味合わせてやることにしよう」


「……もうこれしかない……か」


 ごめんなさい皆さん。

 やっぱり僕一人じゃどうしようもないみたいだ。


「何をしている。今更どうしようと貴様の罪は消えぬ。未来永劫抜けられぬ死の迷宮に送り込んでくれよう」


「それは御免だね……だから助っ人、呼んでみたんだけど」


 瞬間、辺り一面にとてつもない冷気が満ち溢れ、王の動きが止まった。


「ば、馬鹿な……余の体が……?!き、貴様一体何を――」


 王はその言葉の続きを言い切ることなく殴られて吹き飛んだ。

 そこに立っていたのはかつての威厳を取り戻した魔王、ラ・デジャーク・ド・ヴォルだった。

 彼女は僕の前に立って王を睨んでいた。


「ようやく再会()えたな。愛しき私の隣人よ」

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