王の脅威
な、なんだこれは……!
身体が動かない……。他のみんなも動いてない。
ただ一人動いている人間は能力を発動した王のみ。
「ふっ……まさか余の力の中にいて意識だけでも動かすことができるとはな。こんなことは史上かつてない事態である。何者だ下民よ」
止まった時の中で王はゆっくりと進みだすと、僕の顔の前までやってきた。
瞬きさえできない。顎付近に彼の伸ばした手の指が触れる。
「まぁ喋れないから返事はできないだろうがな。それにしても余が眠っている間に世界はこんなにも変わってしまったというのか。全くたまげたぞ」
体は動かせない。しかしこうして思考ができるということは念じることもできるはず……!
「おっと。その顔は魔法を使いたいという顔だな?だがそうはさせんぞ【空席の玉座】」
アルリムが指を鳴らした瞬間、彼の足元からこの一帯全てにかけて青白い光の波動が満ち溢れた。
「この空間に於いて余以外の存在が魔法を使用することは許されない。よって貴様の魔法も発動しない」
次から次へと不遜な王による超絶インチキスキルショーが展開され、状況はどんどん窮地に陥っていった。
「さてまずこの火の小娘を殴りまくって文字通り生命の火をかき消すとするか。【王の拳】」
とてつもないオーラが彼の右手に宿り、大きな拳の形になっていった。
停止されて動けないサラの腹部に強烈な一撃が食い込む。
が、彼女自身は動かない。拳が当たってズレた分の移動はしたが、そこから先は空中で静止したままとなっていた。
「余の拳は万物を貫く奇跡の一撃である。神々しい光に満ちた我が右腕はあらゆる防御を無力化し、回避不能の攻撃となって襲いかかる。次はそこの小つがいだ。恨みは特にないが――なんとなく不愉快な存在だ」
くっ……だめだ。何をどうしても身体を動かすことができない。
仲間たちが嬲られていく様子を黙って見ていることしかできないというのか。
暴君の無慈悲な拳は元魔王の頭上にも降り注ぎ、彼女は地に顔を沈めることになった。
再び時間が動き出せば、みんなは激しい衝撃の元吹き飛ばされてしまうだろう。
だがそれを回避することはできない。
どこまでも無慈悲な、そして非道な攻撃だ。
「そして余に立ち向かおうと剣を握るエルフのつがい。ははは。こうして見ると昔余が戯れで犯した女によく似ているではないか。まぁそいつもエルフだったのだがな。流石にもう死んだだろうか」
リーネさんにも容赦なく頬に鉄拳を叩きつけ歪ませていく。
「あそこにいるものは……元は人間ではないな。人間化した生物とはいと面白き!特別に生かしておいてやるぞ。……そして最後お前だ」
ようやくほぼ全員に攻撃を加えた王が僕の頭を掴んできた。
口も何も動かないので、ただ睨みつけることしかできない。
「どうやって余の時間に意識を介入させたかは知らないが、その様子ではまだ完全に入り込めた訳ではなさそうだ。であればこの攻撃をかわすことは不可能!王の拳を受けてひれ伏すがいい!」
そしてとうとう僕にも胸部に巨大な拳が突き刺さった。
意識があるはずなのに痛みはない。
だが、拳の勢いに抗えず体は宙に浮いた。
もちろん動くことはできない。姿勢が変わっただけだ。
飽くまでこの状態を自由に変更できるのは時を止めた王ただ一人だけということだ。
「さて。このまま永遠に止まった世界でお前たちの間抜け面を拝むのも良いが、やはり反応が無くては面白くない。再び時よ世界に巡れ――【解除】」
「ぐわあああっ!!」
「きゃああっ!」
「ごっ……ふ!」
動き出した時の中で僕たちは王による強打を受けて血を噴きながら飛ばされた。
ズキンと心臓付近に痛みが発生し、瞬時に身体全体に伝達する。
脳が、思考が「痛い」という感覚だけを残して消え去ったみたいだ。
「ま……まずい……みんなが……!」
痛みこそあるが、どうやらまだ胴体は無事繋がっているようだった。
しかしサラと元魔王様、そしてリーネさんは完全に骨が砕け散ってしまったのか、流血した後ぴくりとも動かなくなってしまった。
死んではいないだろうけど、もう完全に死ぬ寸前だ。
「なんということだ。王のハメ技を受けてもまだ意識があるどころか五体満足で立ち上がっていくとは……この硬さは覚えがないぞ。動けるようになった今もう一度聞くが何者だ?」
「くっ……!僕はロシュア……ただの人間だよ王様!」
「ほざけ。お前のような人間がおるか」
またあの時止めを使われては生き残るのは不可能だ。
とにかくみんなをいち早く集めて撤退しなくては。
おそらくギルドが探していたというのはこの人物だ。
魔王を封印すべく自らも蓋となって守り続けていた当時の人間代表。最古の王――英雄アルリム。
ホントジャークが言ってたみたいにめちゃくちゃだ。
暴君にとってはこれでも本気どころかまだまだお遊びの領域なんだろうけど。
お遊びで大事な仲間や生命を奪われてたまるか。
しかし魔法が封じられてしまった以上【転移魔法】を使って逃げることも、立ち向かって魔法攻撃を行うこともできない。
回復魔法も使えないことから体制を立て直すことも困難だ。
頼れる鍵となるのは王の選別から逃れて生存を許されたシロニアちゃんだけだ。
「シロニア!みんなを馬車に乗せる!!全力で振り切ってくれ!」
「で、ですが……マスター……」
「早くしないとみんな殺されてしまう!」
「人を暴君のように言うな下民よ。殺すつもりはない。屈服させるのだ。その過程で死のうがそれはお前たちが弱過ぎただけのこと」
「十分暴君だよ……!」
これが元人間代表の態度だというのか?
ふざけるな――これじゃこっちが魔王みたいじゃないか。
自分の思い通りに世界を勝手気ままに動かして。
「やはりこの中で最も余の障害になりそうなのはお前だな。だがいかに硬き下民といえど、これを喰らえば塵一粒も残らずこの世から消滅するだろう――さて、舞台の幕を下ろすとしよう。終幕に相応しい音色を奏でるが良い。【裸の王様】、最終章――【勝利を告げる鐘の音】」
王が足に力を込めていった。ただそれだけで天候は変化し、曇りは嵐を呼び雷を降らせた。
計り知れないほどの威力が彼の足に込められていく。
肌でビリビリとその衝撃が伝わってくる。
王の言葉に嘘偽りなく、あれを喰らえば確実にこの世から存在が消し飛ぶ。
「【全てが終わりの刻を迎えて】」
ものすごい風圧と共に豪脚一閃、僕の半身に飛びかかり――
「はいここでギルマスきーっく!」
というところで突然現れたギルドマスター・クラウスさんの蹴りが王の一撃を弾き飛ばし、僕を貫くはずだった攻撃は空の彼方に向かっていき、雲を割いて太陽に顔を出させた。
「く、クラウスさん!?」
「おまたせ。ヒーローは遅れてくるものだ〜ってね」
「余の蹴りを弾くとは、何者だ女」
「あたしは初代にして現役バリバリのギルドマスター・クラウスでございますよ世界最古の王様さん」
いつものように不敵な笑みを浮かべ、我らがギルドマスターはそこに立っていた。
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