『跪け』
「ほぅ。そこの小つがい。よくぞ余の事を知っているな。義務を果たしている。加点ポイント8億点だ特別に会話する事を許そうぞ」
「あいつは……とにかくやることなすことめちゃくちゃなやつなんだ……!ボクと唯一互角以上に渡り合った男なんだけど、自分と欲望を満たすためならなんでもやるようなやつなんだ!」
「そ、そんなに……?」
だが、彼女の言うようなオーラは感じない。
ということは魔王戦の時のように大きすぎて感じ取れない可能性がある。
あの魔王様が嘘をつくようにはみえない。
ならば目の前の人間は正真正銘の英雄にして王なのだろう。
……ただの裸の危ない人にしか見えないが。
「み、見た目に惑わされるなよ……!あいつは『裸の王様』という固有能力を持っていてな……あいつの前ではあらゆる魔法が通用しない上、身体の自由を奪う力も持っているんだ」
「そ、そうなの?」
けど別に僕たち戦う必要はないわけだし、この人をギルドに報告書と一緒に連れて行くだけなら何も問題はないはず。
「ま、まぁ色々あるとは思うけど……まずは僕たちについてきてよ……ええとアルリムさん?」
「それは余に対する命令であるか」
「め、命令というかお願いというか……」
「ふっ。ならば『跪け』」
彼がそう言った瞬間――体にものすごい負荷がかかってきて、思わず足をついた。
「な、なんだコレ――」
「う、動けないです……!」
周りを見るとどうやら他のみんなも例外なく地面に付しているようだった。
先程までの話を合わせて状況を判断するに、この人が何かをしたという認識で間違いないだろう。
「ほぅ。下民ながらお前は余に抵抗できるというのか。久しく見ぬ下民であるな」
「な、何だよ……!いきなり何するんだ!」
これでも必死で抵抗してどうにかしゃがむ程度で済ませているだけで、少しも立ち上がることができなかった。
ちょっとでも気を抜くと一気に持っていかれそうだ。
しかもこの人は魔法を使ったような感じも、何かしたという気配もなく、ただそこに立って言葉を発しただけだ。
これが王と呼ばれる男の力なのか……!
「偉大なる王にお願いをする時は頭を垂れて土にその身を屈するのが礼儀だ。しかし答えは『断る』だ。興が乗らん。どうしてもと言うのなら何か芸を見せて余を楽しませてみるんだな」
「くっ……ふざけたことを……!」
刀を握りしめてリーネさんは悔しがっていた。
その目は闘志十分であったが、その場を動くことはできなかった。
誰にもなす術がない――絶体絶命と思われていたその状況だったが
《ご主人!!みんな!!》
ただ一人だけ暴君に立ち向かうことができるものがいた。
炎の精霊サラマンダーだ。
サラだけは遅れてやってきたためか、王の圧力の影響を受けていなかった。
《【双炎煉獄龍】!!》
いつぞやの薬草の森を焼き払った炎の一撃が無防備な王の身体を燃やし尽くしていく。
かけていた圧力は消え、僕たちは動けるようになった。
攻撃から守るために一時的に解除したのだろうか。
ともかくこれはチャンスだ。
「ありがとうサラ!」
《礼には及ばん――しかしなぜあの男がここにおる……!》
「これは驚いたぞ。余驚愕ぞ。あの時いじめてやった火の小娘ではないか。久しぶりだな。俗に言う『感動の再会』というやつだな。また会えて嬉しいだろうそうだろう」
全裸なのに燃える炎なんかなんてことないように、払い除けもせずにアルリムは燃えたまま決めポーズのような姿勢を取っていた。
《二度と会いたくなかったわい。まぁ魔王の封印が解かれた以上、必然貴様の出現も薄々だが心にはあったよ。こんなところで巡り会うことだけが予想外じゃったがな》
「ふん。しかしこんな火遊びで満足するようなお前ではなかろう。さぁもっと余に素晴らしいショーを披露してみせろ」
《ふざけたやつじゃ……何万年経とうと貴様は貴様というわけか》
サラが炎という炎をこの場に集結させ、炎の翼を纏った巨鳥のような姿に変貌していた。
《済まぬみんな!身の安全は保証しかねる!ご主人様の後ろにでも隠れておれ!》
「わかりました!」
「ってちょっと!?それって僕が防御魔法張らないとダメじゃんか!」
《こやつを倒すにはこれだけでも足りんくらいじゃ。ガタガタぬかすでない!愛する女くらい自分一人の力で守ってみせろ!》
「あ、愛するって……」
ぎゅっとしがみついてくるターシャさんの裏にリーネさんが。そのリーネさんの裏にシロニアちゃんが。シロニアちゃんの後ろに魔王様と仲間たちで長い列をなしていた。
「ええい。もう【魔法防御】!!」
緑に光る五角形の防御壁を展開し、炎の余波に耐えようと備えた。
《さぁ火遊びで済むかな?旧世代の覇者よ。【無限灼熱】!!》
その場に生えていた木々を一瞬で蒸発させ、凄まじい熱気を放ちながら火の塊となったサラが王の肉体に体当たりしていった。
王は逃げも隠れもせず、それを片手で受け止めた。
「くっ……」
しかし足は徐々に後退していき、やがて地面までもがマグマの如き灼熱の炎に包まれた。
《全てを焼き尽くすまで止まらんよ!貴様には悪いが、大人しく眠っていてもらうぞ!》
「す、すごい……こんな力があったのか……」
流石は炎の精霊様だ。
というか、これだけの力があれば魔王にも勝てたんじゃ……?
「ぐおおお熱い熱い――ぐはぁここまでかぁ」
《……ちっとも押されとるような顔には見えんぞ》
「ははは。どうだ。余のピンチ演出は。全員騙されたであろう。さてそれでは終わらせるとしようか」
それまで押されていたはずの王の身体は炎を受け止めたまま動かなくなり、片手で炎を振り払ってこう言った。
「【裸の王様】――【王の箱庭】」
その直後、突然炎が消えてサラが向こう側まで吹き飛んだ。
何が起こったのかまるでわからないうちに、アルリムは再び同じ技を発動すると、次は僕の肉体が吹き飛んだ。
「かっ……は!」
「ふむ……お前は下民の、しかも人間にしては中々肉が硬いようだな。余の拳を受けて身が消し飛ばない人間はお前で初めてだぞ」
今僕は殴られたのか?
だがどうやって?
拳も動きもまるで見えなかった。瞬間移動でもされたというのか。
「ふふふ。か弱きお前の心を読んでやろうか?『今自分は瞬間移動でもされて殴られたのではないか?』とな」
王はゆっくりとこちらに近づいてきた。
「残念だが不正解だいと硬き肌を持つ頑丈な下民よ。余は世界の時を止めたのだ」
「は……?」
「もう一度言うぞ。余はこの世界における唯一にして絶対の王だ。だから余はあらゆるものを自由に操ることが可能なのだ。たとえそれが普遍にして恒久なる【時間】という途方もない概念であろうとな」
王は右手を振り下ろして再び例の力を使った。
「【王の箱庭】」
今度は見逃さないようにその力の正体を見極めようと両目に力を込めた。
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