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みんなでいただきますっ!

「あ、もしかしてロシュア様ですか?大変申し訳ありませんが、そろそろ営業時間の終了となりますので、クエストなどの用件はまた明日にでも……」


「ああすみません。ええと、馬車の停車についてちょっとクラウスさんとお話ししたいことがありまして……」


「あたしがなんだって?」


「うわあああっ!突然背後から現れるのやめてくださいよ!」


「あひゃっひゃひゃ。いやーめんごめんご。チミのリアクションが一番おもちれーからさ」


 心臓止まるかとおもった。今完全に受付さんと二人しかいなかったよなこの空間。

 どっから現れたんだ本当。

 人を驚かすことと死角から現れることだけを生きがいにしてるみたいな人だなあ。

 心臓がナイーブな僕にとって天敵じゃないか。


「話はキミをストーカーしてる間に聞かせてもらった!ここに来ることもわかっていた!!」


「ストーカーしてたんですね……」


「にゃははは冗談だよ。冗談。普通に未来見たんだよ」


「そっちの方が衝撃的なんですけど!?え未来見えるんですか!?」


「うん。ほんのちょっと先の未来だけどねー」


 不死身で未来視持ちで初代ギルドマスターって……。

 ちょっと一人で属性欲張りすぎじゃないですか?

 いや強すぎる。この人一人いれば魔王とかなんとかなったんじゃないのか。


「そーゆーわけにもいかないのよ」


「ナチュラルに心も読んでくるんですか」


「マナの波長ってやつ?キミみたいなのは裏表なさすぎてわかりやすいよね」


 さも簡単な風に言っているが、実際にそれをやるのは極めて困難であり不可能に近い。

 そもそもマナの波長なんてうっすら見えることがあれば良い方な、あらゆる生物に流れている微弱な波みたいなものだ。

 そこから思考を読み取ってみるなんて賢者でさえ容易ではない。


 ずっと初代からギルドマスターやってるわけじゃないということか。


「万能なのも困りものにゃんよ。なんでもできちゃうと、あちこちで引っ張りだこの人気者だからねー」


「大変ですが頑張ってください」


「なんなら一日代行やってみるかい?楽しいよ?」


「いえ結構です」


 ギルドマスターは誉あるギルドの最高責任者だ。

 一日とて、責任ある超絶激務に押しつぶされるのは火を見るより明らかだ。

 素人が安易な気持ちで突っついて生きて帰れる保証はない。


「うーんでも真面目な話そろそろ後継者を考えてもいい頃だとは思ってるのよねー」


「えっそうなんですか?不死身なのに」


「そうなのよねーいや劣化で交代したいわけじゃなくてねー。みんなも同じ顔ばっかみてたら飽きてきちゃうかとおもってさ。噂じゃあろうことかこのあたしが『不死身なのをいいことに我が物顔でギルドを私物化してる』とか『ギルドマスターが超セクシーで毎回目を逸らすのに苦労してる』とか、『息子の教育に悪い』とかあることないこと言われてるわけよ〜」


「それはほぼ事実なのでは?」


 後半は自演乙みたいな感想だったが、ギルドで好き放題してるのはこれまでの彼女の態度を鑑みれば妥当な評価であるかもしれない。


「まぁ考えておいてくれよ。色々できてフリーの人間なんてそうそういないんだからさ」


「ま、まぁ一応考えておきます」


「今晩はカレー?美味しそうだね」


「まだ出来てませんよどんな未来みてるんですか」


「にゃははは。あーそうそう馬車の件だっけ。うんどこでも適当に営業妨害にならない位置ならいいよ。はいこれ許可証」


 彼女はでっかい指紋が押された紙切れを渡してくれた。

 下の方に汚い字で『ぎるどますたーきょかしよお』と書いてあった。おいおい……こんなのでいいのか。


「それを馬車の見えるとこにぶら下げとけば憲兵も『んぐぐ……!』って言った後黙るから」


「大丈夫なんですかそれ……」


 ともかくこれ以上長居するわけにもいかないので、大事な許可証を受け取って馬車に戻っていった。

 とりあえず釘と木の板を用意してそこに許可証を括り付けて馬車のドアにかけた。

 中ではみんなが待ち切れないというように割烹着姿になっていた。

「さぁ!やりましょう!!」


「うん。じゃあ野菜を切るのはリーネさんで、お皿の準備をターシャさん。加熱担当をサラに、ジャークと僕はカレールーを作ろうか」


 それを聞いてターシャさんはひどくショックを受けたような顔をしていた。

 なんかすごい罪悪感が押し寄せてきたが、安全な料理を行うためだ。許してくれ。


「そっ、それか……手が空いたらメインを手伝ってもらおうかな〜……なんて」


 すると彼女の沈み切った顔は光を取り戻して明るくなっていった。


「わかりましたーっ!!急いでお皿の準備してきまーす!!」


「あっ、一応お皿は注意して運ん」


 しかし僕の注意の甲斐なくパリィイインという予想通りの効果音が厨房の向かい側で鳴り響いた。

 ま、まぁこうなるわな……。うん。

 割れたお皿を再生させて彼女をなだめると次はリーネさんのところに向かった。


「野菜を切るなんてドラゴンの皮膚を剥ぐより簡単じゃないか」


 そう言う彼女の手つきはプロ料理人そのもので、皮剥きの難しいものを曲芸師のようにすらすらと捌いていった。


「玉ねぎは気をつけてね。切ってると目に沁みて涙が出てくるから」


「ふっ。この私がそんな……玉ねぎごときに涙するはずがなかろう。座して任せておけ」


 よし。やはりリーネさんは切る方が向いている。

 味付け担当には向いていなかったのだ。前回の悲劇の1/3は彼女が担当していたことを考えるとこの役職が相応しい。


 焼くものがないとヒマをするのはサラだった。

 なんの気もなく調理台を椅子に座って見つめる彼女は哀愁を漂わせていた。


《構わん。待つことには慣れておる》


 やめて。一万年待った精霊様が言うと重みが違いすぎるからそれ。


「よし……じゃあ僕らはルーを作ってようかジャーク」


「うん」


 ルーの作り方は至ってシンプルだ。

 唐辛子にカレー粉に少量の水を加えてすり潰して混ぜるだけだ。

 力作業とコントロールがなんとなく出来そうな元魔王様を呼んでみたが……どうだろうか。


「いい感じじゃない」


 彼女は初めてにしては上手に混ぜられていた。


「これ食べてもいいかな?」


「う、うーんまだだよ。これから野菜とか混ぜて本格的にカレーにしていくからね」


「わかった」


 どれ野菜の出来は……。


「うう……目にじみるううう」


「即落ち早!」


 リーネさんは涙と鼻水を垂れ流して真っ赤にしていた。

 言わんこっちゃない。

 しかしそれでも野菜の切り付けは完璧であり、あとはこれに火を通すだけであった。


「あのー。何か手伝えることってないですか?」


「そうだね……じゃあこれを全部鍋に入れてくれるかな」


「はい!お任せを!!」


「うっかり滑って落とすなよターシャ」


「私そんなにドジじゃないもーん……てうわぁ!」


「危ない!」


 床の木の部分に足が引っかかった彼女が、野菜のしこたま入ったボウルを宙に舞わせた。咄嗟に【浮遊魔法】をかけてそれを静止させた。

 大丈夫野菜は一つも溢れていない。セーフ。


「ご、ごめんなさい……」


「いやいいんだよ。じゃあ入れていこう」


 そうしてリーネさんが切りそろえてくれた野菜を、ターシャさゆが水の入った鍋に投入し、サラが炎を吐いて火をつける。

 野菜に火が通ってきたら僕と魔王様が作ったルーをぶちこんでいく。

 あとはパンとかカレーに付けるものがあればいいな。

 買っておいたパンを全員分均等にちぎって皿の上に置く。


《ご主人様よ。ぐつぐついってきたぞ。もう火を消すか?》


「そうだね。鍋をどかすからあとは消しておいてね」


「うわあ……美味しそうな香りですね……」


「もうお腹ぺこぺこだ。待ち切れんぞ」


 全員が一階のリビングで席につき、熱々のカレーをお皿に注いでいく。


「これがカレーというものなのか?」


 魔王様は不思議そうにカレーを見つめていた。


「そうだよ。僕たちが作ったルーがみんなの野菜を合わさってこうなったんだ」


「ふむふむ」


「よーし、みんなの分ちゃんとあるね?」


「はーい」


「じゃあ僕たち『虹の翼』の正式な初クエストクリアということで!みんなありがとう、お疲れ様!いただきます」


「いただきまーす!」


 スプーンでカレーを掬い上げると、スパイスのぴりりとした香ばしい匂いが湯気と共に漂ってきて、お腹の奥がカレーを求める声でいっぱいになっていった。


「うんんん〜美味しいね」


「はい!私の入れた野菜がいい味だしてます」


「これ私が切ったんだぞ。星形にしてみたんだ!すごいだろ!」


「すごいねリーネさん」


《何を言うか。妾の絶妙な火加減あってこそじゃぞ》


「ボクとお前のルーが一番美味しい」


「みんなみんな欠かせない美味しさを担ってるよ」


 本当に美味しい。

 これまで食べたカレーの中で一番だ。

 やっぱり食事は一人で取るものじゃなくてこうやって大勢の仲間と楽しく食べるものだなあ。


「はいロシュア様あーん♡」


「た、ターシャさん……それは」


「おいこらターシャ。それは私の切った部位が入ってるじゃないか。そこは私がロシュアにあーんさせるぞ。ふーふーっ。ほらロシュア、口を開け給え。そして私の玉ねぎを食らうのだ」


《ご主人様は妾のカレーをあーんしたいのだよな?遠慮しなくてよいぞ》


「ボクもお前に食べさせる……!」


「やー、まいったな……どこから食べたらいいかなぁ」


 右を向いても左を向いてもみんなが僕の方にカレーを持ってきてくれている。

 とりあえず近場のターシャさんか順番に食べていった。お行儀悪いけどね。


「きゃ〜♡やっぱり私の愛が一番なんですよ!」


「な、何を言うか!キミは一番近かっただけだろう!私の玉ねぎが一番だったと涙を流せ!」


《妾のカレーよな?》


「ボクはこの中で唯一お前と一緒に作ったからな」


「みんな美味しいよ!」


 しかし僕の逃げるような優柔不断な回答はお気に召さなかったようで、その後しばらくはあーん合戦が楽しく続いていった。


 いやぁ良いなあこういうの。こんなにワイワイやったの何年ぶりだろう。

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