追放side カムイの視点 オフゼロと救い
「おいルーナ!!俺たちを覚えているって言ってたやついたよな!?そいつとは連絡取れんのか今!」
「い、いえ……『白銀の』人たちはちゃんと全員揃ってましたし、マドルくんも『絶対行くね』と笑顔で……」
「ならなんでいねぇんだよ!!いや、この際あんな素っ頓狂集団の事良しとする。だがなんで『深紅の薔薇』と『無明の旅団』の連中はきてねぇんだよ!!ちゃんとビラ配ったんだよな?」
「ええ。ただ、『深紅の』方はちょっと今ごたついているとかで、『無明』の方々は2週間前に解散しとかで……」
「どいつもこいつも自分勝手な理由で……っ!!」
「ね、ねぇカムイ様。もしかしたらなんだけど……あたしらがランク落ちちゃった事がどっかでバレたんじゃないの?」
「そ、そんなバカな……」
だがあのとち狂い王のことだ。腹いせに俺たちの情報をギルド中にばら撒いて、それが冒険者の耳に届いた可能性がなきにしもあらずだ。
しかしそんな秒で知れ渡るもんなのか。
ビラにも『A級メンバーだけで最高の時間を過ごしませんか?飲んで話して大歓迎!』ときちんと俺たちがAランクであることをやんわりと示唆しているというのに。
王国の方に信頼が勝ったとでもいうのか。
冗談じゃねぇ。俺たちはいち国家すら凌駕するほどの力を持った大天才軍団だぞ。
あんなやつらが適当に定めた尺度より本物の実力を持った俺の言葉が信じられないわけがない。
まさか……!
「ロシュアの野郎が何かしやがったな……!」
このタイミングで好き放題動けるのは、今現在パーティーを離脱してフリーのあいつしかいない。
あいつなら俺たちの尻尾としてくっついてたから他のAランクメンバーとも地味にだがそれなり交流もあり、場所も知っている。
つまり時系列をまとめると俺たちという最高のパーティーを自らの意思でロシュア離脱→その後なんらかの手段を使って俺たちがC落ちしたことを知る→いち早くそのことを他のメンバーに言いふらす→参加者ゼロ人、こういう具合だ。
こうすると全てにおいて筋が通っている。
おそらく気が弱いくせに変なところで見栄っ張りなあいつのことだ。「俺さぁ〜あいつらのパーティー抜けたんだけど、マジ最悪だったぜ?天才の俺がなんとかやってたからよかったけどさ。その証拠に俺が抜けたらあいつらクエストミスってやがんのって笑えるよなぁ?」とかなんとか上手いこと言って騙したに違いない。
ほんと全てが誤解によるえげつない手法、虎の威を狩る狐もいいところな最低最悪の外道だが、悲しいことに事実というのは儚くもさまざまな色付けが可能な流動的なものなのだ。
あたかも『それっぽい』言い訳があれば人ってやつはコロッとそっちの方を信じてしまう愚かな生き物なのだ。
そこに俺たちという人間を超えた神聖な存在がいくら「違う」「真実はこうだよ」と説法を説いたところで寝耳に水。
あいつらは作られた『それっぽい』嘘を信じ、ありのままの真実に対しては頑なに信じようとしない。
ゴシップなんてのはその良い例だ。
やれ不倫だのやれ犯罪だのでっかく虚構を書いて騒げばそれが真実となって定着してしまう。
しかもそれは目立つ人物であればあるほど『意外性』として認知されやすく、人々の記憶に残りやすい。
つまり俺たちが何らかの不正によってランク落ちしたという『事実』は、憎きロシュアとイカレ王が共同で作り上げた俺たちのクエスト失敗による順当な降格という『嘘』によって塗り固められてしまったというわけだ。
だが私は言いたい。
たしかにランク落ちはしたが、俺たち自体の実力が変わったわけではないということを。
数字に惑わされているだけだと声を大にして言いたい。
順を追って冷静になって考えて貰えばわかると思うが、俺たちほどの実力者がクエスト失敗するなんてまずあり得ない話だ。
つまりこれは失敗ではなく、外部の人間による不正が働いた異常事態だと、人並みの頭があれば気付くはずである。
ところが権力者が作り出したゴシップは、時として人を惑わす悪魔のようなものになることがある。
全てが裏目。全てが俺たちにとっての逆境。
ウルトラスーパーハードモード。
あり得ない。世界が狂ってやがる。
「しゃーねー……あのクソどもにはもう頼らんとして……ん?なんだあそこ誰かいねーか?」
「あれは……『深紅の』マリーさん?!」
驚いた。いや、気が付かなかった。
なんだよゼロ人じゃなかったのかよ。
オフ会1人!!
ゼロも1も大して変わらねえしというかこなかったこと自体が非常識極まりない死刑にあたる大罪だが、今はその1人でもありがたい。
あいつだけでも俺たちから歴とした『真実』を伝え聞いてそれを他の連中に拡散してくれれば、この逆境をこじ開ける風穴になり得るかもしれない。
俺たちはいつもより歓迎モードマシマシで赤髪の魔女をパーティー会場に案内した。
「ささっどうぞどうぞマリーさん座って座って。ほらソアラ!なんか飲み物もってこい!ルーナは飯だ飯!!お客様を待たせるんじゃねぇ!」
「アナタ、何か勘違いしてないかしら」
「ん?どういうことかな」
「私は別にこんな馬鹿みたいなくだらない会合に参加しに来たわけじゃないわ」
……あれ?聞き間違いかな?
今こいつ、自分たちより遥かに格上の俺たちに向かって「馬鹿」とか「くだらない」とか言わなかったか?
「んー……耳の調子が悪いな……え?何て?所詮万年2位の俺たち以下の実力しかない『深紅の』マリーさんが俺たちに向かって今何と言いましたかね?」
「うっざ。いやまぁなんとなくアナタたちの現状は知ってたわ。『白銀の』連中も、元『無明』のみんなも、そしてこの私たち『深紅の薔薇』の全員ね」
「いや……だからそれは誤解であってだね。ロシュアから何を聞いたか知らないけど、俺たちは今王国により卑劣な罠を仕掛けられこうしてクエスト失敗の烙印を押されてね……」
「じゃその不正の証拠ってやつを見せてもらいたいものね」
「というと?」
「私たち『深紅の薔薇』と一緒にもう一度そのSランククエスト『古龍の洞窟』に挑戦してみようって話」
「はぁ?!お前自分が何言ってるのかわかってんのか!?あそこはお前みたいな並の人間が到底太刀打ちできないような化け物の巣窟なんだぞ!?お前らだけじゃ絶対に2層まで辿り着けないね。俺たちだからこそ8層までいけたんであって」
「へぇー。じゃあそれより先に行けたらどうする?」
「あ?」
「だからさ。私らがあんたらと一緒に行ってもし私らが2層より先に進めて、8層も超えたらどうするかって言ってんの」
「ありえないね。そんな机上の空論に付き合うほど俺たちは間抜けじゃない」
「まぁアンタらが今更何を言おうが今の発言、しっかりと記録させてもらったからね。アンタの言うその不正とやらが全部覆ったら覚悟しときなよ」
この女はさっきから何を言ってるんだ?
頭おかしくなったんじゃないのか。
超エリートの俺たちがダメだったのに、お前らが進めるわけねぇだろ。
まぁいい。むしろこれチャンスだ。
このバカ女の妄言に付き合ってやることで、俺たちの真の実力を見届けさせると共に、紛れもない不正の現場をこいつらにも共有させて「不正は本当でした参りましたあひいいい」と言わせることができる。
深紅の薔薇は全員女だったよなぁ……ぐへへ。
その高すぎてもはや馬鹿と化したプライドごとひん剥いてやるぜ!
「いいぜ。何から今からいくか?」
「ええ良いわよ。【転移魔法】――王都ギルドに」
よしよし。この女がバカで助かった。
ここから一気に逆転劇だぜ。
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