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宝蟲の回廊へ

「シロニアちゃん、何か食べたいものないかな?」


「大丈夫っす!!このシロニア、マスターの頼みとあらば24時間365日年中無休3食睡眠なしの徹夜で皆さんをお運びいたしま〜す!!」


「うん。いやそうされると困って」


 瀕死の淵から蘇った奇跡の名馬(娘)は有り余る元気からか、時々こういう向こう見ずで無茶苦茶なことを平気で言い出すところがある。

 前に引き取られた飼い主は餌も与えず手入れもろくに行わず、うまく働かなければ鞭を振るって痛めつけるほどだったという。

 劣悪極まりない環境で育ったからか、少々一般の労働感覚が麻痺してるようなきらいがある。本当彼女は被害者であって、何も悪いところはないんだけど……。


 うちはみんな明るく優しいホワイトパーティーを目指してるので、そんなおぞましい真似は絶対にさせない。


 ご飯はちゃんと希望と栄養に沿ったものを見繕ってくるし、休みもきちんと与える。

 そんでもって本人が「働きたい」と思う環境でのびのびと働いてもらう。

 馬のままだと僕らには分かりづらい本音も、今こうして会話することでちゃんと聞いてあげることができる。


「うーんでも普通に食べられるものならなんでもいいっすよ?ゴミとか、魚の骨とか……あ!あとたまにある形成肉の残りとか――」


「も、もう良い……もう良いだろう!……悲しくなってくるよ……シロニアちゃん」


 どんだけこの世の地獄みたいな環境で今日まで生きてきたんだ彼女は。

 ブラック企業も真っ青な暗黒世界で働いてるじゃ無いか。


《のぅシロニアよ。ご飯というのは普通にちゃんとした食べ物でな。お主が今まで食べてきたゴミになる前の出来上がったものなのじゃよ》


「?」


《いまいち実感が湧かぬか……ならばやはりここはニンジンじゃろうて!》


 精霊様も馬=人参みたいなお考えだったとは。

 なんだか親近感湧いちゃうな。

 王都の野菜市場に顔を出し、金貨一枚で一番良い人参や野菜を丸ごと買い占めてきた。


「生で出すってのもどうなんだろうか」


「うーん……でも却って料理とか味付けしない方が馬にとっては良いんじゃないだろうか。私たちが普段食すものは塩分や色んな添加物が多いしな」


 真面目な顔つきで名付け親であるリーネさんが言っていた。

 たしかにそうか。

 じゃあ少し馬車の綺麗なお水で洗ってからお出しするとしよう。


「はいこれご飯だよシロニアちゃん」


「なんですか?これ!」


「何って……野菜とか食べ物かな」


「えーっ!!すごいです!!野菜ってこんなにおおきいものなんですね!初めてみました!」


 や……やめてくれ……それ以上はもう……。

 涙なしでは語れないほど悲惨な人生……いや馬生を歩んできた彼女は今、その悲しい過去と訣別するように新鮮な野菜を口に運んでいった。


 すると彼女は髪の毛を逆立せてぞわぞわと身体を震わせた。


「ううう〜ん!!美味しいいいい!!なんですかこれ!なんですか!!」


 あまりの興奮からあちこちをむやみやたらに走り回り、顔を耳まで真っ赤にして唸っていた。


「こんっなに美味しいもの食べたの生まれて初めてです!!マスター、これ全部食べて良いんですか?」


「う、うんいいよ。好きなだけ食べていいよ」


「す、好きなだけ!?嘘でしょ嘘でしょーっ!!ぴーっ!ぴーっ!シロニアもう大興奮ですー!!」


 喜んでもらえてよかった。

 でもあまり勢いつきすぎるとその辺の民家を突き破りそうで心配なんだけど……。


 初野菜をぺろりと一人前完食すると、なんだか彼女から湧き上がるオーラのようなものが可視化できるようになっていた。


「な、なんですか?これ!」


 ターシャさんが凛々しく揺らめき立つシロニアちゃんの髪の毛をさすって言った。


「マスター!どうやらシロニアはレベルアップしちゃったみたいですね!なんだかお腹の底から力がみなぎってきちゃいます!」


「そ、そんな事もあるんだね……」


 本当に一段と逞しくなったみたいだ。

 これまでそれなりにエネルギッシュだった彼女ではあるが、ますます元気で力強そうに進化していた。


「さぁ皆さん!!ご飯と日頃の感謝を込めに込めて全力疾走120%で飛ばしていきますよー!!ひとっ走り付き合ってくださいね!」


「頼もしいですわシロニア」


「ふっ……さすが私の名付けた名馬だ!いよっ天才白馬!」


《いやそれただ名付け親あぴーるしたいだけじゃろ》


「あはは。よしみんな揃ったね?じゃあ出発しようか!」


 そうして新生シロニアちゃんが引く馬車に乗り込むと、今度は風を切るような超スピードでダンジョンに向かって突っ走っていった。


 その驚くべき所要時間なんとたったの5分。

 ここまでくると一種の瞬間移動魔法みたいだ。


 まだ力を使い果たしてすやすやと眠っている魔王を僕の部屋のベッドで寝かせて、僕たちはキラキラと輝く宝石あふれるダンジョン宝蟲の回廊に突き進んでいった。

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