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王の力

 ロシュアたちが馬車を魔改造して王都に出立したその頃。

 とある街のとある酒場に、怪しげな黒服の3人組が入り浸っていた。


「で、情報は?」


 紫の髪をした女性が気怠そうに足を上げた。

 黒スーツのスカートから覗き見える生足が薄暗い酒場のか細い光に照り返されて白く目立っていた。

 催促されたことでサングラスをかけていた太っちょの男は焦りながら冊子のページをめくっていた。


 ため息をついてその男から冊子を取り上げ、代わりに情報を読み上げたのは同じくスーツの青年だった。

 天に逆立った金髪に一つ目のゴーグルを装着しているのが風変わりな印象を与えていた。


「俺たち『暗黒の(さそり)団』に与えられたギルドからの司令は特級危険指定人物、コード:ゼロの迅速な捕獲もしくは活動停止処置であり、危険度はS級。これまでの冒険者黙示録に情報は一切無し。その人物は男。特徴は葉っぱ以外の衣類を着用していない全裸であること。髪の毛はややくすんだ金髪。装備品などの情報は確認されていない。恐らく丸腰」


「なによそれ。完全に頭おかしいやつじゃない」


「おかしいのは服装だけじゃない。こいつはふらりと『クロバダ』の街に現れて憲兵と少々揉めた後、女性に性的暴行を加えようとしたワイバーン型獣人を殺害。この時の殺害方法だが、一切手どころか何一つ触れていない」


「どういうこと?凶器の使用が認められないってこと?」


「ああ。目撃者の証言によると突然ワイバーンが苦しみ出した後、対象ゼロがなんらかの秘術を用いてワイバーンを闇の彼方に消し去ったそうだ。周囲の人間は正常に呼吸が行えたことから、奴には特定の相手のみを狙ってこのような攻撃ができるらしい」


「どんな化け物よそれ」


 女とサングラス男の表情に緊張が走った。

 金髪の男は淡々と構わずに続けた。


「証言は全て夢現のような出来事であったらしい。狐につままれたから白昼夢そのものとしか思えないが、しばらく進んだ先に対象ゼロに連れられたと思われた女性が裸体で放置されていたそうだ。その女性はしきりに『アルリム様』とうわ言を呟いていたらしい。まるで何かに取り憑かれたようにな」


「オカルトじみてきたわね……うちはいつからゴースト退治専属部門になったのかしら?」


「真面目な話だメリッサ。被害者がいた以上、見逃すことはできない事件だ。そんな危険なやつを我々特務暗殺部隊は野放しにしておくわけにはいかない。早急に始末する必要がある。どんな手を使ってもな」


「なるほど。それでアレを起こしたってわけ?」


 メリッサと呼ばれた女性が指さした背後には巨大な丸いゴーレムが音も立てずに安置されていた。

 今にも動き出しそうな雰囲気を漂わせながら、それは暗い闇の中でひっそりと息を潜めていた。


「出し惜しみはしない。持てる戦力の全てを投与して対象ゼロを駆逐する」


「まるで戦争ね」


「そういう心持ちでやらないと、ワイバーンの次に闇の彼方に消されるのは俺たちになるってことだ」


「まぁそんなことあるはずないけど。そんじゃいくわよガンツ、スピア」


「へ、へい姉御」


 彼らは酒場を飛び出すと対象の目撃情報があった地帯を片っ端から捜索していった。

 そして予測されていた地点に対象ゼロ――こと裸の王様アルリムは立っていた。


「なんでしょうねあれ」


「さぁ。素っ裸でうろついて平気で人を闇に消すような奴の考えてることなんてわからないわ。わかりたくもないし」


「いいな。俺が合図したらお前らで囲め。隙を突いて『タイタン』の起動にかかる」


「指図しないでよガンツ。部隊のリーダーはあんたじゃないのよ」


「ああ。だがお前でもないぞ」


 そうこうしてるうちにアルリムは振り返って彼らの方を見た。


「隠れていても無駄だ。そこにいるんだろう」


「――まずい。勘付かれたか」


「バカね。ブラフの可能性もあるでしょ?」


「ハッキリと言ってやらねば分からぬか。ならば言い当ててやろう。黒服の男2名に女が1人……それに得体の知れぬゴーレムが1体……余の隙を伺って隠れておるな?」


 捜索中、一度も姿を晒さなかった全員が存在を一人残らず当てられたことで、ようやく観念して彼らは顔を出した。


「やはり余の目測に狂いはない」


「はーい。ちょっと大人しくしてもらおうかしら。アタシらはギルドから依頼があってあんたを確保しにきたの。無駄な抵抗はやめて速やかに同行しなさい」


「ほぅ……ギルドとはなんだ。人間の女よ」


「はぁ?そんなことも知らないわけ?ギルドはこの世界をあるべき方向に向かって管理している組織のことよ。あんたは上からの指示で超一級の危険指定人物になってるの。この意味わかる?」


「おい……何もそこまで説明しなくとも……!」


「成る程な。やはり愚者の言葉は理解しかねる」


「なんですって!」


 カッとなった彼女が専用の金属器から火の玉を放った。

 アルリムはそれを避けもせずに圧だけで消し去った。


「女。余が見たこともないような物をもっているな。そいつは何だ?」


「いいから黙ってついてきなさいよこの変態男!!じゃないと痛い目に遭わせるわよ」


「ふっ……ふははははははっ!!王であるこの余に向かってその態度!!良いぞ。良いぞ女!余はお前のような骨のある女は大好物だ」


「何言ってんのこいつ。自分が王とかバカじゃないの?」


「愚か者はお前だ女。余をおいて他に誰が王であろうか」


「その傲慢が命取りだってんのよヌーディスト野郎!!」


 後ろのタイタンを起動させ、凄まじい熱光線を浴びせかけた。

 ちょっと掠っただけの大地はその熱で溶けて歪み、あっという間に周囲を炎の渦で包み込んだ。


「やり過ぎだメリッサ!それではこいつを倒せても……」


「るさいわね!!んなもん全部ギルドの軍資金でなんとかすりゃいいでしょ!アタシはもう絶対許さないわ!自分を王とか名乗る痛い勘違いバカの臓物まで焼き尽くさないと腹の虫が治らないわ!!」


「王なのだから仕方あるまい」


 アルリムは燃え盛る火の中にいても、優雅にポーズを取って涼しんでいた。


「な、……ありえないわ!!なんの装備も無しにあんな熱の中にいて平気でいられるなんて……!」


「ふっ。ひとつ教えておいてやろう無知なる愚民の女よ。王の前に『あり得ない』という言葉は存在しない。余が介入すること全てが実現し、余が出来ると思ったことは全てができるのだ。――こんな風にな」


 アルリムが何もない空間上で少し手を捻ってみると、周囲の景色が空間ごとねじ曲がっていき、メリッサたちは湾曲に巻き込まれていきそうになっていた。


「な、ちょっと何よこれ!」


「く……落ち着け。俺たちの視覚と聴覚に訴えているただの幻覚魔法だ!マナに頼ればこんなものはなんとでもなる!」


「余の力をそんな安っぽい手品と一緒にするな。余は今空間を一捻りしてみただけである」


「ほざけ!!」


 更なる追撃を味合わせようと、タイタンの巨大な拳からパンチが飛んだ。

 アルリムは頭を差し出してその攻撃を受けた。

 直後タイタンの身体は砂と化していき、全てが粉微塵になって消え去った。


「そ、そんな……」


「王の許可なくして王の肉体に触れるからだ愚か者め。耐えられるわけがなかろう」


 既に圧倒的な戦力差が彼らとたった一人の裸の王様の間には生まれていたが、アルリムはまだ何かをやる気でいた。


「これが余の王たる所以だ――『裸の王様(オーバーロード)』、第一章『王の宴(パレード)』」


 彼が自分の周りに空間を展開させていくと、そこは一つの巨大な場内のように変化を遂げていった。


「な、何がどうなっているんだ……?」


「さぁ存分に楽しめ。ここにはあらゆるものが集い、王の降臨を祝うパレードが催されるぞ!」


 アルリムが手を叩くと、骸骨から魔物に無数の裸体の女性が魑魅魍魎の如くあちらこちらに跋扈し、愉快そうに演舞を踊っていた。


「悪い夢でも見てるのか……?」


「こんなの所詮まやかしよ!こんなデタラメな魔法聞いたことないわ!」


「魔法などではない――これが余の固有能力である。今風に言えばお前たちが『スキル』と読んで親しんでいるものだ」


「そ、そんな……世界を作り替えるスキルなんて……」


「何よこんなの!こんなの!!」


 メリッサたちは必死でしがみついてくるパレードの参列者たちを薙ぎ倒していったが、それらは何度引き剥がしても迫り来るゾンビの大軍のようであった。

 やがてそれらに全身をもみくちゃにされ、彼女らは参列者と一つになって意識も存在も消えていった。


「ははははは!!喜べ!!今お前たちは世界とひとつになったのだ!!余という王のみが君臨するこの王国――世界と!!」


 どこまでも続く王の笑い声が黄金の宴に赴いた参列者の悲鳴や狂乱と合唱して周囲にこだましていった。

 やがて王は空間ごと姿を消し、辺りは何もなかったように静まり返った。

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