衝突
「【蔓拘束】」
ギルドマスターが予備動作もなしにいきなり魔法を唱えると、部屋中の椅子や家具が蔓に変化して僕らに巻きついてきた。
「な、なんだこれは……力が抜けてくるぞ……!」
「く……動けない……!」
【分析】で調べてみたところ、この蔓にはかなり強力な捕縛の魔法が込められているみたいだ。
更に物理的な力と魔法的な力を抑え込む魔法まで付与されており、拘束された僕らは途端に力を発揮できなくなっていった。
「この部屋全部があたしの魔法領域みたいなもんだね。あらゆるものがあたしの武器にも防具にもなるってこと〜」
「くっ……【炎魔法】!!」
いつもなら凄い威力を誇るフレアも、この蔓のせいで1/10にまで落ちてしまった。
だが蔓の一部を燃やすには十分だったので、そこから強引に千切って脱出を図った。
「やりますねぇ。一応それフツー炎魔法程度では破れないようになってるんだけどね〜」
「ギルドマスターの面目躍如ってわけですね!」
再び無数の蔓の鞭が飛んできたが、次の対策はできていた。
「【風魔法】!!」
向かってくる蔓を一本一本切り落としていく。
これらは元々家具やインテリアだったもので、生物ではない。
切り落としたやつが再生していかないので、無限に湧いてくることはない。
「【凍結魔法】!!」
部屋の四方八方を凍りつかせていく。
これでもうこの部屋から何かすることはできない。
「ほぅ〜まさかあたしの魔法領域そのものを機能停止させるとはねぇ〜」
「余裕綽々って感じですけど……まだ何かあるんでしょう?!」
捕まったみんなを解放しながら、僕は一層警戒を強めていった。
「まぁね」
今度は手にした剣を振り回して斬撃を飛ばしてきた。
紙一重でかわしているはずなのに、体表が切り裂かれていく。
まるで1度に2回切りつけられているみたいだ。
「あたし本来は剣で語る派でね。魔法は本当専門外なのよ〜あひゃっひゃひゃ。植物魔法を愛でているだけのいたいけな市民なのよね〜」
「いたいけな市民はいきなりあんなえげつない拘束魔法使ってこないですって!」
まずい。僕の防御力を以てしてでもこの威力だ。
出血するなんて数年ぶりの事だった。
「さぁいつまで踊っていられるかにゃ〜?」
むしろそう言うクラウスさんの方が楽しそうに剣で舞を踊っているようだった。
この部屋なんかお構いなしにザクザクと切り裂いていく。
【防御強化魔法】も意味をなさない。
そうして彼女の放った一閃が無防備な魔王の元に届きそうになったので、急いで前に走っていった。
「危ない!!」
「ロシュア様!!」
背中がものすごい火傷したような感覚に襲われた後、激しい激痛が走った。
い……痛い……!
け、けどジャークは無事だ……。
「そ、そんな……ボクのために……」
「な、なんて事ないよ……絶対君にひどいことはさせないよ。それが君との約束だからね……!」
「人類の敵である魔族の王と〝約束〟だなんて滑稽だね。正義マンを続けるのは楽しいかい?」
魔王以上に悪魔みたいな邪悪な笑い顔になり、クラウスさんは剣に魔法を込めていった。
「【巨大化】、【攻撃力増加】。これで今から君を斬るね。上手く避けられるといいねぇ」
そうして大きくなった剣を僕に向かって振り下ろしていった――!
今避けるわけにはいかない。
魔王ごと真っ二つにされてしまう。
僕が間に入る事でクッションになって多少傷つくだけで済むはず。
しかし背中にそれ以上の痛みはなかった。
見ると魔王が右腕を血まみれにして剣を止めていた。
「そ、そんな!」
「お前はボクを守ってくれた。みんなボクのために戦ってくれた。だからボクもお前を守る。お前とお前の仲間たちを全部守る。たとえこの身がどうなっても」
涼しい顔でそう言っていたが、あれほどの一撃を受け止めて痛くないはずがない。
どうやら瞬間的に右手にのみ残った全魔力を注ぎ込んでいたらしい。腕だけがかつての姿に戻っていた。
が、それでも受け止めるには足りなかったので、青い血を垂れ流して深々と剣が突き刺さっていた。
それを見てクラウスさんは両の目を大きく開いて驚いていた。
パッと剣を離すと、魔王は全ての力を使い果たしのかその場に倒れ込んでしまった。
「ジャーク!大丈夫!?」
血が流れ過ぎている。このままだと死んでしまうかもしれない。
しかも今は大ピンチだ。
もう一度拘束魔法や剣を振るわれたらなす術がない。
だが、いくら待っても攻撃が飛んでくることはなかった。
それどころかクラウスさんは武装を解除して部屋を元に戻していった。
「え……?」
「なーんちゃってね。あっひゃっひゃひゃ。ごめんごめん。君たちを試させてもらったよ」
え。どういうことだ。
彼女が合図すると、カーテンの向こうから四人の賢者たちが出現した。
「あ――あなたたちは!」
「いかにも。我らは四賢人である。我こそは炎を司る賢者ルビーサーガ」
「我は水を司る賢者サファイアサーガなり」
「我は大地を司る賢者、エメラルドサーガ」
「そして我は風を司る賢者、アメシストサーガである。此度のそなたたちの動向を、ここで人知れず観察させてもらっていた」
「まぁそういうこと。君たちが魔王を力だけ封印したってのはわかってたからね。その力を失った魔王に対してどうするのか。また魔王が本当に人間の言うことを聞くのかどうか見極めてたのさ」
「な、なんですかそれ……」
どっと肩の力が落ちていく。
ふと切られたはずの傷口が今は塞がっていることに気がついた。
無論剣を受け止めた魔王の腕も。
「結果は予想外だったよ。まさか魔王が1人の人間を守るためにその力を振るうなんてね」
「ああ。そこで我々は一つの決断をした」
「力なき魔王の管理は我々王立ギルドから、冒険者ロシュアに委任する方が安全である――とな」
四人の賢者たちが僕たちの元にやってきた。
「突然の非礼を詫びよう。すまなかった」
「い、いえそんな……むしろほっとしてます。本気で捕らえてくるのかとばかり……」
「にゃーははは。流石初代ギルドマスターだろ?名演技さっ」
「結果次第では捕まえる選択肢もあったさ。しかしそなたらには何者にも変えられぬ確固たる〝絆〟を感じた」
「これからも力を合わせて頑張ってくれたまえ」
「は、はい」
しかしまだ現実かどうかわからない。
混乱する頭がくらくらと熱を帯びているのを感じていると、直後にいきなり窓ガラスが叩き割れる音が聞こえた。
「マスター!!!今大ピンチだとお聞きしたので飛んできました!!さっ、なんなりとこのシロニアにご命令をーっ!!……ってあれ?」
「……シロニアちゃん……」
窓をかち割って入ってきた彼女を見て、僕はようやく現実を噛み締めていた。
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