旅立ちは改造馬車と共に。
「いや……もう凄すぎて私はどこから突っ込んだらいいのかわからなくなってきたよロシュア」
「立派なお家ですね……馬車……じゃないですけども」
《よくわからんがさすが妾のご主人様じゃ》
「うーん……ボクはもうちょっとこことかここを松明とか立てて荘厳な飾りつけにした方がいいかなー。こうえいっ」
魔王様は僕よりも数段上の【創造】をお使いになられ、巨大なお城を建設してみせた。
「ってこれどっからどう見ても魔王城だよね!?」
「落ち着く」
いかにも侵入者を迎撃してそうなおどろおどろしい外見をしており、あちこちに棘やら鎖やら設置されており、紫を基調とした豪華な作りとなっていた。
置き場に困るので魔王様はすぐにアイテムボックスの中にしまっていった。
いや城入るの!?
「と、とにかくじゃあ王都へ向かって行こうか。……え、ええと。シロニアちゃん……これ引けるかなぁ……」
「おっ任せくださぁーい!!マスターより力を分け与えられたこの私!!他ならぬ皆様のお頼みとあらば、たとえ世界の果てでも魔界でもどこへでも皆さんをお連れしていきますよー!」
すっかり元気を取り戻し、早くも人間の言葉を流暢にマスターした白馬シロニアちゃんは有り余る元気から、活発なキャラクターとしてメイド服をふりふりとさせてはしゃいでいた。
「重かったら無理せず言うんだよ。それじゃあみんな入ろうか」
「わーっお邪魔しまーす!!……す、すごいですねロシュア様!!」
「全くだ。本当に二階もあるぞ!!うわ!すごいぞ!お風呂だお風呂!三階はどうなんだろうなぁ!」
《こらエルフ!はしゃぎすぎるでない!……全く。旅の目的忘れとるんじゃなかろうな》
「結構いい感じだね。ボクこれはこれで気に入ったよ」
それぞれみんな好印象な反応を残してくれて馬車に乗り込んでくれた。
「よーし皆さん乗り込みましたー?では目的地王都に向かっていざ、しゅっぱーつ!!」
「大丈夫?無理せず言ってくれれば僕が代わ――のわあああっ!!は、は、早い早い!!」
僕ら5人+巨大な三階建ての建築物一軒を乗せた馬車を物ともせずにシロニアさんはものすごいスピードで走って引っ張った。
あ、あんなに力持ちになったのか?
僕ちょっと魔力供給しただけだぞ?
《ふーむ……考えられるに【擬人化】するには相当な魔力が要求されるのだが、これはなにも量だけの問題でもなくてな。ある程度濃ゆい魔力を受けなければ性質変化には至らない――というのは魔王の件で既に知っておるな》
「うん」
《つまりご主人様のとんでもない魔力が高濃度で注入されたことによりあやつは人間にまで変化し、有り余る力を手に入れたのじゃ。ま、言うならばご主人様の力を1/4ほどは継承したのじゃろうて》
ご主人様としての力は無くなっておらんがな――とサラは付け足した。
なるほど。ギルドで計測した僕の力が腕力だけならカムイの16000倍以上あったのだから、それの四分一として考えても4000倍くらいにはなるだろう。
あの溢れるバイタリティにも、そしてこの怪力にも納得がいく。
馬車外の景色がすんごい勢いで目まぐるしく変化していく。
だが、不思議と揺れや酔いなどは感じない。
車輪もついでに強化したからだろうか。
この速さなら6時間もあれば王都についてしまうぞ。
シロニアはとても賢い馬だったので、一度地図を暗記させたらそのまま完全に覚えきってしまった。
さらに僕由来の【感知魔法】を使って最短で安全なルートを自力で発見し、効率的に突き進んでいる。
あんな風に突撃一直線に見えて、実は頭を使いながら高速で動いているのだ。いやほんとすごい能力だ。
頑張ってくれたご褒美に是非とも何かシロニアちゃんの大好物を差し入れてあげたい。
「着くまでそれじゃみんな自由にしてていいよ」
「わーい。あ、お部屋見に行ってもいいですか?」
「うん。何か足りない家具とかあったら言って」
《といっても既にエルフの娘は先に行ってしもうたがな》
「ボクは一階にいるよ。ここ落ち着くんだ」
魔王様だけ残して僕たちは全員三階の個室へと向かって行った。
自画自賛になるが、やはり何度見ても中々の作りになっている。
廊下は広いし、余ったスペースには洗濯物を干すバルコニーまである。
みんなの部屋を案内しながら足りない備品はないかどうか一緒に部屋に入っていった。
サラは『ご主人様がおれば部屋などなんでもいい』と言ってくれていたので、ターシャさんのお部屋に入ることにした。
僕は家具の配置や部屋のレイアウトなどのセンスは皆無だったので、それぞれの好みに合わせて改築していくことにした。
ターシャさんの部屋には(というか全員の部屋が一律で)必要最低限の家具しか置いておらず、ベッド、椅子、テーブル、タンスとクローゼットしかなかった。
女性向けにフリルのカーテンとか可愛い柄や色の物にすればよかったんだろうけど、そこまでのデザインがちょっと頭に入っていなかったので、こんなどこにでもある普遍的で平凡なデザインになっている。全体的に簡素な感じだ。味気ないと言えば味気ない。
「ロシュア様が作ってくれたお部屋なら私はどこでも大歓迎ですよ!……っていうか、凄すぎます!!これ宿屋にしたらお金取れちゃうくらい素敵ですよ!ホント欠点なんて見当たりませんよ!」
「うーん……じゃあターシャさんが住んでみたいお部屋の雰囲気とか教えてくれるかな」
僕がそう言うと彼女はぽっと顔を赤らめて腰をくねくねさせた。
「そ、それはつまり二人だけの新居を提供してくれるということでお間違いないですか!?」
「あ、いやうーんそういうのじゃないんだけど……昔から憧れてたこういう家に住みた〜いってやつないかな?」
「そういう意味でしたら……私は絵本に出てくるお城のお姫様みたいな暮らしがしてみたかったですね」
「なるほど絵本のお城みたいなやつね」
とりあえず合ってるかどうかわからないけど、記憶の中にあるお姫様のお城の寝室みたいなのをイメージして部屋の家具を【改造】してみた。
【等価交換】と【物質創造】の合わせ技だ。
流石に魔王様みたくいきなり無からあんなにすごいのを一瞬で作れたりはしない。
今ある家具を再構築して、金貨2枚ほどで高級な素材を錬成し、頭にあるイメージ通りのものを作っていく。
絵本のようなお城はこれまで見たことないので、本物そっくりになるかどうかはわからないが、多分似たようなものになっているだろう。
お金がある程度貯まってきたら本物の家具を買おう。
殺風景極まりなかった部屋の背景は、なんと言うことでしょう。
物語のプリンセスが住むに相応しい高級感溢れる素敵なお部屋に早変わりしたではありませんか。
ピンクをメインに金縁であしらわれたレースのカーテンや、フリフリのベッド。
タンスやクローゼットもお姫様感満載の綺麗な作りになっている。
ちなみに中はアイテムボックスのように物質圧縮の異空間原理を応用して作っているため、見た目以上に色んなものが詰め込める。
女の子だもんね。お洒落するためにこれからいろんな服が必要になってくるだろうから。
「うわぁ……わ、私感激です!!すごいです!すごすぎます!!まさしく私が小さい頃夢見たお姫様の生活です!!」
「よかった。同じ絵本かどうかわからなくてさ」
「なんかもうここにずっと住んでいたいくらいです!!ありがとうございます!」
大はしゃぎでベッドにごろごろと転がっていき、ターシャさんはとても嬉しそうにしていた。
いやぁ。こんなにも喜んでもらえたなら製作者冥利に尽きるというものだ。
彼女の部屋を後にし、次はリーネさんの部屋に向かった。
「うおっ!な、なんだロシュアか。乙女の部屋にいきなり挨拶もなしに乗り込んでくるとはなってないぞ全く」
「ご、ごめんなさい」
しかし乙女の部屋とは言うものの、中身は未改装の殺風景のままだった。
僕は彼女にも要望を聞いて部屋を作り替えることにした。
「ふむ……まぁ私にそういう願望とかはこれといってないのだが……強いていうなら少しだけ和風な感じにしてくれ。だ、ダメならいいのだダメなら」
「ワフウな感じ?」
どうやらそれは東の大陸の端っこの方にある国――「イーシタン」の方面に伝わる民族的かつ伝統的で古風な生活様式を指す言葉だそうだ。
その国では「サムライ」とか「ニンジャ」とか見たこともないような職業の人たちが住んでいるらしい。
そんな職業ギルドでも見たことないからとてもレアなものなのだろう。
ちなみにリーネさんが持っていた一風変わった剣――刀もそのイーシタンで製造されたものだったそうだ。
リーネさんはイーシタンの和風と呼ばれるスタイルにとても心酔しており、言葉遣いとかも好きな女ニンジャと呼ばれる人を真似ているそうだ。
「いずれ『スリケン』という神器を手に入れてみたいのだがな……何せイーシタンは隣国との接触を避けており、製造法も不明なのだ」
「なるほどね……僕も初めて聞いたよ」
特に「チャンバラ」や「スリケン」はとても奇妙な響きに聞こえた。
これが文化の違いだろうか。リーネさんによると、それはイーシタンの持つ最終兵器らしく、チャンバラは一振りで「ハラキリ」なる連鎖反応を起こして天地が崩壊し、スリケンは投げるだけで地面が大陸ごと核融合爆発を起こして消滅するというものらしい。
それどんな破壊兵器だ。
しかも恐ろしいことにそんな戦争も真っ青な危険アイテムを、イーシタンにいるニンジャやサムライは全員所持しているという。
……なんかもうそいつら敵に回すだけで世界終わりそうだなあ。
尤もリーネさんも直接訪れたことはないらしいので、噂に過ぎないとは言っていたが、そんな噂が伝わるほどの国って……。
刀は父から譲り受けたものらしい。
まだまだ使いこなせないと言っていたが、結構サマになってると僕は思った。
「よーしじゃあその和風な感じにしてみるね」
リーネさんが見せてくれたイーシタンの風景画からなんとなくこんなものかと創造してみる。
部屋中に広げてみると一転してエキゾチックな感じだ。
苔の生えた石や刀を置くための変な台座。
イーシタンの言語があしらわれた壁掛けの巻物に、ランタンにも似た紙でできたもの。リーネさんは『トウロウ』や『チョウチン』と呼んでいた。
憧れの世界を手に入れて大興奮のリーネさんが、ターシャさんのように大はしゃぎで部屋中を駆け巡った。
「ふおおおおおおおおっ!!これがイーシタン!これが和風!!ニンジャカミング!!オーイェー!!」
そこにはこれまで見たことのないほどハイテンションなリーネさんがいた。
「き、気に入ってもらえたならよかったよ。そ、それじゃ」
「かたじけない」
彼女の世界についていけなくなったのと、邪魔をしては悪いと思って部屋のドアをそっ閉じした。
ふぅ。これでもう良いかな。
あ魔王様のがまだあるか。
でも魔王城風のお部屋なんて作れるかな……。
作り物の骨ならいいけど、本物の人骨とか要求されたら困っちゃうな……。
まだ王都は見えてこないし、とりあえず僕も自分の部屋に戻ってごろごろすることにした。
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