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馬車を買おう!! これが馬娘ちゃんですかぁ

「はいいらっしゃい。こちらイキの良い馬が勢揃いだよ〜」


 僕たちは偶然この街にもあった馬車のお店「サム」立ち寄っていた。

 馬車は馬の品質、状態、幌の規模や素材の良し悪しなどで値段が上下する。

 安いもので80ジール、高いもので100万ジール以上もする。

 まあ5000ジールも出せば相当快適で良い馬車が手に入るはずだ。


「とりあえず……大きめの馬車を」


「はい。何人様がお乗りになるので?」


「えっと……」


 ターシャさん、サラ、リーネさん、魔王様そして僕の5人用にのるのか。


「そしたらあちらの中からお好みのをお選びください」


 そうして紹介された馬車の一覧は、最低価格でなんと35000ジールもするとんでもないものばかりだった。

 な、こ、こんなに高いのか……?


「どうしよう……ここで残金全部使うのは得策ではないぞ……」


 盲点だった。

 搭乗人数が多いからその分馬車も広くならざるを得ないのか。

 ううむ。どうしよう。


「あぁそうそう。これは馬車本体の値段で、お馬さんは別料金だからね」


「ええっ!?」


 そんなこと聞いてないぞ。

 てことは値段はさらに釣り上がり……ひええ。


「わーお馬さんってみんな目がくりくりしてて可愛いですね〜」


「ああ。馬なんて生で見るのは初めてだが……とても美しいのだな」


 女子2人は楽しそうにお馬さんに見惚れておられた。

 彼女たちを釘付けにした罪作りなお馬さんの値段を見てみたら「58000ジール」というとんでもない価格設定になっていた。


「馬車って意外と高い買い物なんだなぁ……」


 レンタルだと期限通りに返せるかわからない上、今後の冒険を考えるとここで一括で買っておくのが利口というもの。

 うーん……ケチケチせずにぱーっと買ってあげたいんだけど……。

 計画性のない買い物は己が身を滅ぼすことになりかねない。

 かといて安いものを買っても…………待てよ?


「じゃあすみませんが、一番安いものをください」


「はい。えーそんじゃあそこのボロ馬車セットとこのちょっと病気の馬になるけど……いいかなあ?」


「はい」


「じゃあ50ジールね」


 安っ。

 最低価格更新したぞ。どんだけ質が悪いんだ。


 と思って購入した馬などを見てみたが、今にも死にそうな小馬と穴まみれのぼろぼろの馬車が付いてきて、納得の価格であった。

 小馬はプルプルと震えてあちこちに怪我をしていた。


「可哀想です……お馬さん『苦しい……』って言ってます」


「え。ターシャさん。馬がなんて言ってるのかわかるの?」


「馬だけじゃなくていろんな動物の声が聞こえますよ。生まれつきらしいんですけどね」


 意外な特技発見だ。

 そういえば幼児期に馬や牛とは戯れていたんだっけ。


「で。こんな素人目にも分かるようなちょっと走れなさそうな馬車を買って君はどうする気なんだロシュア」


「とりあえず大元は手に入れたことだし……これを今から改造していくことにします」


「うんそうか……なんだって??」


 まずこの可哀想なお馬さんに元気になってもらうとしますか。


「ちょっといいかな」


 馬の震える立て髪に触れてみる。ロクに洗ってももらえず、ノミや虫が飛び交っていた。

 曰く売り手が持ってきた段階で相当酷い状態だったらしく、今にも死にそうだったところを店主のサムさんが保護したそうだ。

 それでようやく持ち直してこれだったのだ。

 いやそれなら売らずに保護しろとか思うが、あっちも商売しないといけないからそうも言ってられないのだろう。


「【接続(コネクト)】――【魔力(マジック)供給(サプライヤー)】」


 僕の魔力をお馬さんと共有して注ぎ込む。

 お馬さんの身体はみるみるうちに健康的な美白に戻っていき、死にかけの目は活気を取り戻していった。

 次に【浄化魔法(ピュリファイ)】と【解呪魔法】毒やら病気を取り除いていく。

 再生だと赤ちゃんの状態まで戻りかねないので、ちょっと無理やりだけど接続させてお馬さんの傷ついた細胞などを修復し、活性化を促すことにした。

 元気を取り戻したお馬さんが「ヒヒィン」と声高らかにいなないた。


「わぁ。すごいですロシュア様!お馬さんとっても元気になったみたいですよ!」


「あぁ。でもまだ栄養が足りてないっぽいから――ゆっくり与えていくつもりだよ」


 そうすればちょっとやそっとでは負けない強靭な足腰が出来上がるはずだ。

 これから遠方まで僕らを運んでくれる愛馬になるのだから、少しくらい力強くなってもらわなきゃ。


 ――と、お馬さんに力を与えていたらだんだんお馬さんが光に包まれていった。


「うわっ!なんだ!?」


 その後、そこにいたはずのお馬さんが綺麗さっぱり居なくなっており、代わりに白い肌の美人な女性が全裸で立ち尽くしていた。


「うわわわっ!」


 思わず目を逸らす。

 茶色の長い髪の乙女は素っ裸のまま伸びをして、僕をそのくりくりの瞳で見つめてくると手を握ってきた。


「あ……リがとう……」


「へっ?」


「ワタシ……ずっと病気だっタ馬……あナた……助けてくれた……」


「う、馬ぁ!?」


 そう言えばよく見るとお尻の部分には尻尾が生えてたし、足も結構馬らしい特徴を備えた物になっていた。

 まさかの人間化をしたというのか?!


《ふーむ……滅多にみられんことじゃが、間違いなくご主人様の魔力によって【擬人化】しておる。それもかなり高濃度の魔力を受けてなんかすごいことになっておる》


「ま、マジか……」


「ボクがやった瘴気撒き散らしの原理と似てるね。違いはキミが人間だからこの子は【人間化】したことと、ボクは魔族だったからあれらは【魔物化】したって事くらいかな……」


 そうだったのか。

 いやぁそれはなんか申し訳ないことをしてしまった。

 僕が平謝りしていると、馬子ちゃんは首を横に振っていた。


「ううん……私、人間になれて幸せ……今自由に歩ける……!足も……2本だけでこんなに!ほら!」


「わ、わかったから服を着よう!!そのままだとまずい!!」


 何せ胸まで丸出しになっているのだ。

 ええとどうしようか。あ、そうだターシャさんの着替えに女性用衣服があったはず!


「【衣服(クローズ)創造(クリエイト)】!!」


 ターシャさんの着替えを元に新たな衣服を創造してみた。

 なんとなくフリルの服だったので、ついメイド服っぽいものが出来てしまったが、これで一先ずは隠せるだろう。

 服のサイズもちょうどよかったようで、フリフリのエプロンドレスを着て馬子さんは喜んでいた。


「お洋服!!」


「お馬さん可愛くなりましたね〜!……そうだ名前つけてあげましょうよ!」


「何にしようか」


「私が付けてもいいだろうか!白くて気高い気品あふれる姿だから……【シロニア】というのはどうだろうか!」


 なんか若干興奮気味にリーネさんが叫んでいた。


「うん。いいんじゃないかな。それじゃよろしくねシロニア」


「はい……!よろしくですマスター……!」


 新たにシロニアを仲間にして、今度は馬車本体の改造に取り掛かった。


「うーん5人入れるスペースが欲しいからすこし拡張するか……」


 床板は踏むとギシギシといって底がすぐに抜けてしまいそうなほど脆いものだったので、【修復】と【物質強化】の魔法をかけた。これで飛び跳ねても落ちることはなくなっただろう。

 これを【拡張魔法】で引き伸ばしてみる。

 5人が座ってもそれぞれスペースが十分に確保できる大きさになった。

 あとは宿屋代わりにできるようにお風呂とかトイレとか寝室もつけるか……とすると一階では足りなくなるな。


「【複製】、【拡張魔法】、それからえーと【鋼鉄化魔法】……と」


 あれこれやることが多くて大忙しだ。

 枝を組み合わせて骨組みとして、ちょっと小さめな宿屋のようなものを建築する。

 階段を取り付け、誰でもすぐに二階へいけるようにする。

 で、この上に複製で増やした木の板を乗せてちょっと形を整えれば……よし。これで一階の部屋と二階の部屋ができた。

 一階にはテーブルと椅子、あとはダンジョン改修の祭に培ったテクニックで窓を取り付ける。

 なんだかもう馬車というより本当に家みたいになってしまった。

 一階をみんなが食事など楽しめるダイニングにして、二階に五つほどみんなの部屋を作るか。

 ああでもお風呂は一階……ううんスペースが足りない。


「よし。いっそ三階建てにしよう」




   ◇ ◇ ◇




 そんなこんな弄りまくってたら、どうにか三階建ての立派な馬車が完成した。

 一階はみんなの食卓とくつろげる空間に。

 二階はまるごとぜーんぶ大浴場。流れ落ちる風呂場のお水は自動浄化魔法装置で綺麗にされた後、タンクに溜まっていき、またお風呂に入る時やトイレの際にタンクから使われていく設計にした。

 トイレの排泄物なども無害な肥料に変換して袋に詰められる仕様にした。

 三階はちょっと贅沢なみんなの寝室だ。

 高いところから景色を一望できるし、風も入ってくるように窓を取り付けた。扉には鍵をかけられる安心の防犯仕様。

 どこからどう見ても完璧な住まいとして完成された、初めてにして過去最高のクオリティの馬車になった。



 ……いやこれもう馬車じゃないよね。

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